07-02:「撃て!」

 アナコンダリーダーはいちいち繰り返すのも面倒なので、すでに録音しておいた台詞を外部スピーカーで再生した。


『我々は諸君と交戦する事が目的ではない。我々の目的は皇位を簒奪したグレゴール・ベンディットの子ギルフォード・ロンバルディ・ベンディットの排除である。すぐさまこの場から立ち去る事を……』


「我々はギル皇子をお守りする! それが一帝国臣民として出来る事だ!!」


 アナコンダリーダーのボディアーマーに装備された顔認証システムは、立ち上がりそう叫んだ学生を、帝国宇宙海軍大佐スコット・ブリッジスの次男トーマスであると確認していた。


 高級軍人の息子だ。余り傷つけたくはないと、アナコンダリーダーは次の説得に考えを巡らせていたが、掩体代わりのコンテナから姿を現した他の学生たちを見て愕然とした。彼等が担いでいるのは帝国軍が正式採用しているMMR-9型歩兵携行式対装甲ロケット弾ランチャーだった。原始的で単純きわまりない兵器だが、それだけに扱いやすく故障も少ない。さすがに大型宇宙船や装甲シャトルシップに致命的なダメージを与えるわけにも行かないが、帝国惑星陸軍所有の装甲車輌を撃破するには充分な威力がある。


 それを三人の学生が肩に担いでいた。物騒きわまりないその兵器を学生たちはこの倉庫で発射しようとしているのだ。


 アナコンダリーダーはさすがに慌てふためき、変声機も使わずに叫んだ。


「おい、お前たち!! 何を考えているんだ! そんな代物をここで使ったら……!!」


 なにしろこの倉庫は元々弾薬庫だったのだ。内部構造はやたら頑丈である。確かに敵をここへ追い詰め、ロケット弾を撃ち込めばひとたまりも無い。爆風が逃げる場所が無く、またそう簡単には壊れてくれない。爆圧がとんでもない事になるだろう。しかしアナコンダリーダーが学生側の指揮を執っているのならば、この状況では絶対にロケットランチャーによる攻撃はしない。なぜなら攻撃する方にも逃げ場がないも同然だからだ。出入り口は学生たちの背後にある小さな扉だけ。爆発した途端、爆風はそこへ押し寄せるのは必至。到底、逃げ切れるはずなどない。しかも学生たちは制服、もしくは私服なのだ。


「おい、止めろ! ただじゃ済まないぞ!!」


 アナコンダリーダーは学生たちを声を荒らげて制止した。しかしブリッジスをはじめとする学生たちは、それを威嚇と解釈してしまった。


 ブリッジスは叫んだ。もしもこの判断が無ければ、彼は父の後を継いで帝国軍の軍人として相応のキャリアを積み、いくつかの勲章を貰い、軍の公式記録にも名を残したかも知れない。


 しかし彼は叫んでしまったのだ。


「撃て!」


          ◆ ◆ ◆


「バッファローリーダー、聞えるか? バッファローリーダー。こちらアナコンダ5」


 学園宇宙船内を慎重に進攻中のバッファローチームに通信が入った。


「こちらバッファローリーダー。どうしたアナコンダ5」


 船内での通信は学園側、テロリスト側による妨害と解除のイタチごっこになっている。通信が出来たかと思うと妨害され、通信機の解析装置が新たな手段で通信を再開する。それがずっと続いている状態だ。


「良かった、繋がったか。アナコンダチームは甚大な被害を受けた。アナコンダリーダーは戦死。2、3、4も戦死。動けるのは俺、アナコンダ5と6。7も重傷だ。出来ればバッファローチームに合流したい。このままアナコンダチームのみの作戦行動は不可能と判断した」


「了解した。アナコンダ5。合流地点を選択する。通信が妨害されてもしばらく待機していてくれ」


 そう言ってからバッファローリーダーは付け加えた。


「それにしても酷いやられようだな。何があったんだ?」


「学生連中が弾薬庫だった倉庫でロケット弾を三発同時にぶっ放した。アナコンダリーダーは直撃で即死。他のメンバーも倉庫内の爆圧でボディアーマーがやられた。俺たちは運が良かっただけだ」


「そうか、素人相手はこれだから困る。奴らは加減というものを知らないからな」


 バッファローリーダーはヘルメットの下で渋面を作ると重ねて尋ねた。


「学生たちの被害はどうだ? 余り大きな被害が出るとクライアントの機嫌を損ねる」


「それはに言ってくれ。俺たちではどうにも出来なかった」


 彼の言うとやらがクライアントを指すのか、それとも学生側なのかは分からないが、アナコンダ5は投げやりにそう前置してから気を取り直して答える。


「学生側の被害者は……。ざっと五、六人といったところか」


「五、六人?」


 鸚鵡返しに尋ねるバッファローリーダーにアナコンダ5は繰り返した。


「ああ、ちゃんと数えるともう少し増えるかも知れないな。倉庫に繋がる通路で待機していた連中も、もろに爆風を受けて吹っ飛んだ。壁や天井にいる」


「ああ、そうか。分かった。合流地点が決まった。送信する。そちらへ向かってくれ」


「了解。確認した。バッファローリーダー。これより移動する」


 そしてアナコンダ5は通信を切った。

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