06-07:「知らないな」

「学園長の奴、遅えな」


 ギルは落ち着き無くリビングをうろうろと歩き回っていた。


「この状況です。到着が遅れても致し方有りません」


 キースがそう説明するが、ギルの耳には届かないようだ。


「あの野郎、逃げたんじゃないだろうな。おい、もう一度、管制室を呼び出せ」


「つい今しがた連絡したばかりですよ。何も変わらないんじゃ……」


「俺に口答えするな!!」


 ギルは言いかけたアマンダを一喝した。


「テロリストたちは学園のかなり深部まで潜入しているようだ。隣接する区画でも戦闘が起きているらしい」


 端末を使い情報を確認したアーシュラがそう報告した。


「どういうことだ!」


「知らないな」


 素っ気なく言い返す。


「先程、管制室に確認した際には特に警告は受けなかったはずだが……」


 アーシュラの報告にキースも動揺を隠せない。


「この状況だ。管制室が全てを把握していなくてもおかしくない。学園長は戦闘の影響で足止めを受けてるのかも知れないな」


 そう言うアーシュラにギルが命じた。


「おい、デカい女。お前、ちょっと様子を見てこい」


 そんなギルにアーシュラは侮蔑の視線を送った。


「様子を見てこいと言われてもな。休講の予定を確認するわけじゃないんだぞ」


「分かってる。その対人レーザーライフルがあれば大丈夫だろう? この俺が下賜する。持って行っても良いぞ。お前は自分の腕には自信が有るんじゃないのか。だったらやってみせろよ」


 ギルはそう言いながら椅子に座り直し、テーブルの上にあった端末を操作した。


「あぁ、やっぱりだな。さっきちょろっと戦闘報告を見かけたんで気になっていた」


 何を言い出すのかと怪訝な顔を向けるアーシュラに、ギルは含み笑いを浮かべて見せた。


「襲撃艇の一隻がな、学園内からの狙撃を受けたらしい。なんでもドックに降下中、操縦席の窓を一発で貫いたらしいぜ」


「そんな馬鹿な話が……」


 アーシュラは笑い飛ばそうとするが、一つだけそんな真似が出来る人間に心当たりがあった。ミロの取り巻きフォロワーエレーミアラウンダーズのの一人ブレッド・ホークアイだ。


 ギルはそんなアーシュラの反応を見逃さなかった。


「あるんだな、これが。戦闘教練の成績を見ると、お前も射撃は良いじゃねえか。負けたくはないだろう?」


 その言葉にアーシュラは不機嫌そうに口をつぐんだ。ギルの思い通りになるのは嫌だ。ホークアイに負けるのも嫌だが、こんな状況で勝負云々を言ってる場合でもない。


 しかしギルを自分の射撃の腕で救う事が出来たら……。  


「分かった、様子を見てこよう」


 そう言うとアーシュラは対人レーザーライフルを手に立ち上がった。


「その辺に突っ立ってる警備兵を四、五人連れていっていいぞ。その代わり学園長を連れてくるんだ。一緒にもっと多くの警備兵も連れてこい」


「分かってる」


 アーシュラはぶっきらぼうにそう言うとドアから出て行った。

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