06-04:「馬鹿でしょう。うん、馬鹿だ」

 ハーシュハイザーを含む、イールEチームは学園宇宙船内で交戦中だった。


「おい、話が違うぞ。どうなってるんだ!」


「いや、俺に聞かれても……」


「別にお前に聞いたわけじゃない! 第一……」


 ハーシュハイザーにそうぼやいていた兵士は、肩口に銃弾を受けて膝を突いた。


「下がれ、イール4。我々の目的は脱出手段を確保する事だ。迂闊に前に出るんじゃない」


 小型艇用ドックに強行着地した襲撃艇の方からボディアーマーを着けた兵士たちがやってきた。


「衛生兵! 負傷者だ、頼む」


 銃撃を受けたイール4を他の兵士が後方へ下げ、代わりにイール2がイール5ことハーシュハイザーの傍らへやってきた。


「ちゃんとした戦闘装備をしているのは警備兵だけじゃなかったんですか?」


「そうだな」


 そう言うイール2にハーシュハイザーは重ねて尋ねた。


「じゃあ、ありゃ何ですか?」


 ハーシュハイザーが指さす先には銃を構えた生徒、学生たちがいた。学園宇宙船に強行突入、脱出用に小型ドックを確保したものの、船内から武装した生徒、学生たちが攻撃してきたのだ。


 ハーシュハイザーたちはドック内の備品と襲撃機を盾に交戦中。


 彼らが使用しているボディアーマーを貫通できる装備を持っているのは、警備部隊だけと作戦前のブリーフィングでは伝えられていた。


 しかし生徒、学生が装備している銃器は、ハーシュハイザーたちが身につけているボディアーマーに対して充分な攻撃力を持っているようだ。


「知らんな。話は変わってくる、状況も変化してくる。そういうものだ。諦めろ」


「はいはい」


「返答がなっておらん!」


「イエスサー!」


 やけくそ気味のハーシュハイザーだが、それでもイール2は納得したようだ。


 二人の今の会話は、ボディアーマーに装備された通信機で暗号化されて行われていた。外部には聞えないはずだ。


 イール2はボディアーマーとヘルメットに内蔵された変声機と外部スピーカーを通して今度は生徒や学生の説得に取りかかった。


「帝国学園宇宙船の生徒、学生諸君。我々の敵は諸君ではない。皇位簒奪者の子で有り、さらにシュトラウス家の血統まで手に入れようとする卑劣漢ギルフォード・ベンディットである。繰り返す。我々の敵はギル。諸君等と敵対する意思はない」


「言って聞いてくれるなら、もうやめてますよ」


 ハーシュハイザーがぼやく通りの結果だった。イール2の説得への返答は無数の銃弾だった。


『ギルが持ち込んだ銃器を学生に配ったらしい。どうやら学生を盾にするつもりのようだ』


 襲撃機の中にいるイールリーダーからそう通信が来た。しかしそれが分かったからと言ってどうにかなるものではない。イール2は重ねて生徒、学生を説得した。


「諸君等は卑劣漢ギルに利用されているのだ。我々は諸君との交戦意図はない」


「ふざけるな!」


「テロリストを俺たちの学園にいれるな!!」


 今度は銃弾に加えて怒声も返ってきた。


「連中、みんな普段着や学生服じゃないですか。拳銃でも致命傷になるって言うのに、なに考えてるんでしょうねえ。馬鹿じゃないですか、馬鹿でしょう。うん、馬鹿だ」


 ハーシュハイザーは一人でそう言って一人で納得した。


「貴族や金持ちの坊ちゃん、嬢ちゃんだからな。世間を舐めているんだろう」


 イール2は対人制圧手榴弾のピンを抜いてドックの入り口を固めている生徒、学生たちへ放った。


 かつてのスタングレネードや催涙ガス弾の役割を一手に担っている対人制圧手榴弾は、猛烈な閃光と轟音を発して爆発。さらに刺激性のガスを発生させた。防毒マスクもなく攻撃していた生徒、学生たちは慌てて逃げ出していく。


 ガスの成分は衣服にも吸着。その後もしばらく刺激のある成分を発生させる。逃げていってもまとわりつくし、逃げた先でも被害を広げるという寸法だ。


 致命的な毒性はないが、しばらくはまともに銃を撃つ事など出来ないだろう。


「この隙にドックの入り口にバリケードを作れ。学園内ならガスマスク、防毒マスクや宇宙服もあるはずだ。それを装備してくる前にやるんだ。急げ」


 イールリーダーはハーシュハイザーたちにそう命じた。

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