第30話 正真正銘のラスボス
「なるほど、あの男が唯一自分を越えるかもしれないと漏らしていた男なだけはあるな……」
シンシアがこちらを見て吐息を漏らす。
その表情はまるで、ずっと探していた何かを見つけたような──彼女の場合であれば、背中を預けられる戦友を見つけたような、そんな表情だった。
「はあ、はあ、はあ……」
その視線の先に映るエギルは、肩を上下に動かし荒々しく呼吸する。
小型の鎧人形が自爆する寸前。
時間にして一、二秒もなかっただろう。
まるで時が止まったかのように、エギルは一瞬にして体にまとわりつく中型の鎧人形を消滅させた。
そのまま背中の小型の鎧人形に向けて剣を召喚すると、爆弾を持つ両手を起用に斬り落とす。
──両側から押すと起動する。
シンシアが起動方法を話していなかったら危なかった。
自爆を阻止したエギルは、追撃させまいと周囲にいる大中小様々な鎧人形の脚下に剣を召喚する。
辺り一面に広がる剣の絨毯は、観客からしたら宝石のように太陽が反射して輝き美しく見えるだろう。
これら一連の動作を頭で考え実行に移すのに、一、二秒しかかからなかった。
必要以上の力を使い荒くなった呼吸を整えながら、自分でも驚いている。おそらく死が迫ったが故に、咄嗟に行動ができたのだろう。
ここで死ぬわけにはいかない。
何より見ている者たちに不甲斐ない姿は見せられない。
信頼して送り出してくれた彼女たちを、心配させるわけにはいかない。
「こっちは息を切らしているのに、そっちは随分と余裕そうだな」
「ははっ、まだ大して動いてないからな」
「……だが、もう同じ手は喰らわないぞ?」
「だろうな。他の連中ならこれでいけるんだが、お前には難しそうだ」
だから。
シンシアが細剣を振り払う。
その瞬間、周囲に展開する全ての鎧人形が消える。
降参か?
そうは思わなかった。
なにせ彼女にはまだ隠し玉があるのをエギルは知っているから。
「正真正銘、これが最後だ。私の全力をもって相手しよう」
笑みを浮かべたシンシア。
すると、彼女の背後の景色がぐにゃりと歪んだ。
まるで水たまりに油を垂らしたような、様々な色が渦を巻き揺れた景色。
そしてそれは、シンシアの背後に突如として浮かび上がる。
「ようやくか」
パメラ山脈でエギルが見たモノの第一印象は”巨人”だった。
だがここにはそんな巨人と表現する大きさの鎧人形は一体もいない。
弓を持つ小型の鎧人形。
剣と盾を持つ中型の鎧人形。
大きな斧を持って不動を保つ大型の鎧人形。
大型の鎧人形でも、エギルより少し大きいぐらいの身長だ。
あの時に見た倍近くある巨人とは違う。
隠し玉はあっただろうが、まさかずっとそこにいて隠れていたとは思わなかった。
動くことなく鎧人形たちに指揮をしていた彼女の余裕は、目の前の巨人の鎧人形の存在があるからだろう。
「もう少し驚いてもいいんだぞ?」
「だったらパメラ山脈でお披露目しなければ良かったんじゃないか?」
「ふふっ、それもそうだな」
シンシアは横へ歩く、まるで檀上から下りるように。
「同時に来ないのか?」
「遠慮しておこう。この神機と共闘するのは難しいからな」
エギルの二、三倍はあるであろう大きさの鎧人形。
一歩、また一歩と歩みを進める鎧人形は、近付くほど威圧感が増す。
これまで様々な大きさの魔物と戦ってきた。目の前の鎧人形のように巨大な魔物とも。だが大きさは同じなのに、今までにないほどの恐ろしさに全身から汗が溢れる。
「正真正銘、これで最後にしてくれよ……」
心からの願いだった。
なにせ既に体力の半分が尽きている。
異空間に収めた剣も同じく半分は消耗した。
これ以上、戦闘が長引くのは遠慮したい。
エギルは両手に剣を召喚する。
何の変哲もない剣。だが、相手を把握するのに適している。
遠くから警戒しても無駄な体力を消耗するだけ。
エギルはそう考え、一気に駆け出した。
向こうから近付いてくると威圧感があったが、こちらから近付くと幾分かは和らぐ。
ただ、その大きさは近付くほど実感する。
目の前まで接近すると両手に持った剣を振るう。
中型の鎧人形であればこれで倒せるのだが、
「ッ!?」
振り下ろした剣は呆気なく鋼鉄の胴部分の鎧に阻まれる。
傷痕すら付かず無傷。石であろうと岩であろうと鉄であろうと真っ二つに斬れるほど鍛えた自分の腕を否定されたようで、呆れて笑ってしまった。
「どう倒せばいいんだよ」
全身を同じ材質の鎧に覆われているため、このまま同じことを繰り返していても傷一つ付けられない。
それに動かない物体を相手にしているわけじゃない。
鎧人形は右手を振り上げると、拳を握り、勢いよくエギル目掛けて振り下ろす。
「これは……」
拳が振り下ろされた地面に大きな穴が空き、爆発音と爆風に目を細める。
一撃でも喰らえない。
それほどの衝撃に、エギルは笑うしかなかった。
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