第13話『メインキャラ集結』
「この学校を卒業できたものの多くはFNDの一員として戦場を駆けることになるでしょう。しかし、FNDの仕事は子どもの遊び場ではありません。心も、体も、技術も、あなたたちはまだ若すぎます。志だけではこの国も、自分自身すらも守れない。 隣にいる友人たちの死に顔を拝むこともあるかもしれない。……あなたたちはこの年代で一番の実力を持つものです。今言ったようなことにならないためにも、この三年間で、互いに切磋琢磨して、心身共に、立派な騎士になりなさい」
教室に深々とした教師の声が響き渡る。威圧と期待を込めた言葉に、生徒たちの背筋も伸びる。
教壇に立つ女性の名は、
彼女もまた、ライトノベルの定番の立ち回りを演じている。
主人公とは浅からぬ因縁を持ち、主人公のざっくばらんな行動の後始末を引き受ける、現役を引退した元エース……そして若くて美人。
彼女もそれに違わない。
何と彼女は現在二十三歳。十代のときからFNDのエースとして才能を発揮し、彼女が在籍している間、代々FNDの最高戦力の座を欲しいままにしていた早乙女の一族は二番手の位置で歯噛みしていたとか。
彼女は一巻から登場しており、引退したため前線に出ることはないが、主人公の立ち回りを円滑にしてくれるサポートキャラの一人のような位置づけだ。
しかし、十五巻以降で何度か戦闘をした際、彼女特有の力によって敵を殲滅する姿が描かれ、多くのファンを一気に獲得した実績がある。
まるで闇が産み落とした御子のような女性だ。闇に吹くそよ風のように静かで落ち着いた漆黒の髪を肩甲骨辺りまで伸ばし下の方で結んでいる。
右目は薄紫の虹彩を持つが、左目は鮮やかな水色……所謂オッドアイである。
そして、髪型の『アニメでよくいる病弱な母親』感のせいか、ファンからは『ママ』と呼ばれて親しまれている。
そんな冥花先生がありがたい言葉を並べる中、教室のドアがガシャンと開いた。
「あっぶな~ッ!! ギリギリセーフ!! あれ? ねーちゃん? Fクラスの担任だったっけ?」
無駄に明るいギャルが入って来た。
着崩した制服の胸元から豊満な双丘が見えて、蒼は思わず顔を反らす。男子の視線はこのギャルに釘付けだ。
まじまじと見なくても彼女の見た目は分かる。
ピンクのウェーブがかったサイドアップに、焼いていない白い肌。髪の色と同じピンクの目は丸くて大きく、見るものを引き寄せる大らかさと愛らしさがある。
彼女の名前は羽搏 ミミア。
名字と先ほどの言葉からも分かるように、冥花先生の妹であり、主人公のクラスメイトのヒロインの一人。
冥花先生は顔を押さえ、それから刃物のような視線を飛ばした。
「間に合っていません。それに、教室も間違えています。……羽搏 ミミア。初日からこの誇り高き聖域を侮辱するような舐めた真似をするとは、いい度胸ですね」
顔を上げた冥花先生の目から、ギラリ、威厳たっぷりの圧が漏れ出した。
ミミアが笑顔を引きつらせ、両手を振りながら弁明する。
「あっはは~……そのー、目覚ましが壊れちゃって~……えーと…………ははは……あたし遅刻はよくしちゃうけど今日はちゃんと来るつもりだったよ? えーと……じゃあ、その、さよなら~~~~~~~~!!!!」
弁明したと思いきや、ダッシュで逃げていった。冥花先生が深いため息を吐く。
妹であっても容赦なしだ。彼女の怖さは、よく伝わっただろう。
そんな軽いハプニングの後、蒼たちは先生に先導され、体育館へと向かった。
上級生や先生方に迎え入れられる形で始まった始業式は、妙に長く感じた。
一年生代表の琴音の宣誓や冥花先生の祝辞に説法。
それを真剣に聞きながらも、蒼は周囲の光景を見渡す。
「…………」
琴音が背筋をきっちり伸ばして冥花先生の話に聞き入っている。立ち姿は壮麗として揺るがない。
「ふあぁ~……」
ハヤトはあくびを噛み殺している。
「ふんふんふーん」
「ちょっと、真面目に聞きなさいよね」
セナは目を閉じて小さく鼻歌を歌い、ルイがその後ろからセナを小突いて小声で注意していた。
「ねねね、話長くない? それなー、あはは」
ミミアは最後尾で腕を頭の後ろで組んで近くの女子に絡んでいる。
夢にまで見た物語の主要キャラクターが、そろい踏みだ。
高鳴る胸の鼓動を上から押さえ、蒼はステージの上で穏やかに騎士の精神を説く冥花先生を見上げた。
いよいよ、物語が始まる。
体育館の外で風が吹き、桜の花びらが舞ったのが見えた。
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