14.話せるということ
『お嬢ちゃん、入ってもいいかい?』
「え?」
そこで、私の耳にラフードの声が聞こえてきた。
ただ、周囲を見渡しても彼の姿は見当たらない。どうやら、部屋の外から話しかけてきているようだ。
「い、いいよ……」
『よし、それじゃあ失礼するぜ』
「わっ!」
私が許可すると、部屋の戸を突き抜けて狼の精霊が現れた。
考えてみれば当然なのだが、その光景に私は結構驚いてしまう。戸が開いて、ラフードが入ってくると私は自然と考えていたからだ。
『そんなに驚かなくてもいいだろう? もう俺の姿なんて、見慣れているはずだしさ』
「その……ドアを突き抜けて現れるのは、なんか怖くて……」
『……まあ、そうか。だが、お嬢ちゃん、残念ながら俺は自分でドアを開けられないんだ』
「え? そうなの?」
『ああ、物理的な干渉が、この状態ではできないんだ。まあ、完全にできない訳ではないんだが、それをするのは大変でな』
「そうなんだ……」
ラフードの言葉を聞いて、私は少し驚いた。彼は物を動かしたりそういうことができると、私が勝手に思っていたからだ。
だが、今の彼の状態はそれ程便利なものではないらしい。
「あ、それで、どうして私の部屋に来たの?」
『お嬢ちゃんと話がしたかったのさ』
「話? フレイグ様のこと?」
『ああ、いや、特に話したい議題があるという訳じゃないんだ。なんというか、単純に誰かとやり取りできるのが嬉しいんだよ』
「ああ……そうだよね」
ラフードは少し寂しそうな笑みを浮かべながら、そんなことを言ってきた。
彼は今まで、誰にも認識されていなかった。それは、辛いことだっただろう。
誰かに応えてもらえる。それだけで、今の彼にとっては嬉しいのだろう。そう思うと、私も少しだけ悲しくなってきた。
私なんかで良かったら、存分に話し相手になろう。そう思いながら、私は改めてラフードの方を見る。
「そういえば、入る前に声をかけてくれたんだね?」
『うん? ああ、まあ、お嬢ちゃんが着替え中だったりしたら、まずいと思ってな……』
「ありがとう、気遣ってくれたんだね」
『まあ、これでも紳士なんでね?』
「そっか……」
『なんだ? あんまり納得していないように聞こえるんだが?』
「そんなことないよ。ラフードは、紳士的だと思う」
私は、ラフードとそんな会話を交わした。
それは他愛のない会話である。だが、彼の表情から考えると、そんな会話も楽しいと思ってもらえているだろう。
こうして、私はしばらくラフードと話すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます