第12話 禁呪取得
「サイキ下級部員」
「はっ、はいっ」
しばらく気まずい沈黙が流れた後、深くため息を吐いたアルフォンスが俺に呼びかける。その声色は、とても冷たいというか、むしろ沈んでいて、俺は背筋が自然と伸びた。
俺の手に握られたスマートフォンを見ながら、困った表情をしたアルフォンスが言う。
「取得したという魔法を発動しないで済ませるには、どうすればいい」
「あ、えっと……カメラをタスクキルすれば、大丈夫なはずっす……」
言われて、そうだと思い至った俺はスマートフォンの画面をタップした。タスク一覧を表示させて、カメラアプリをタスクキル。そうしてカメラを起動させると、先程取得した魔法は消えていた。
やはり、一度タスクキルすればどうにかなるらしい。俺はホッと胸をなでおろした。
「ん、やっぱり……あれ? なんだこれ」
そうしてもう一度トップ画面に戻った俺だが、そこでふと気が付いた。カメラアプリにグループ化される形で、見たことのないアプリが存在する。
俺の声に、レオナールが不思議そうな表情で画面を覗き込んだ。
「どうした?」
「なんか見覚えのないアプリがあって……『
首を傾げながらフォルダを開いて、いつの間にか追加されていたアプリをタップする。アプリアイコンが本の形をした「
見るに、取得した魔法が自動的にここに入ってくるらしい。これで、いくらでも好きに今まで取得した魔法を使えるという寸法だ。いじってみた感じだと、魔法のグループ分けやら封印やらも出来るし、なんなら魔法の削除も出来そうだ。
「あ、こん中に取得した魔法が入るんだ。さっきの魔法もあるっすね」
「見るに、魔法の管理や封印も行えるのか……高機能だな……」
俺のスマートフォンの画面を覗き込んだレオナールが、細く息を吐き出しながら声を漏らす。確かに、彼の持っている本の形をした「
色々と「
「なるほどな。先程取得した魔法については、厳重に封印して発動しないようにしておけ。うっかり発動されてガリ王国が崩壊しては、目も当てられん」
「りょ、了解っす」
アルフォンスに言われるがままに、俺は「
設定が済んだところで、ほうと息を吐きながら俺はアルフォンスに問いかけた。
「封印完了っす……で、なんっすか、この、『
そう、封印して使えないようにしたはいいものの、この魔法がどういう魔法なのか、どんな効果を及ぼすのか、俺は何も知らないわけで。
いぶかしむ俺に、アルフォンスが険しい表情で口を開いた。
「私も歴史記録でしか存在を確認したことがないが、神歴以前に存在したとされる
「げぇっ」
彼の言葉に、俺は思わず口から悲鳴じみた声を吐き出した。
思っていた以上にヤバい魔法だ。地震を起こすだけに留まらず、国を物理的に崩壊させて地割れの下に飲み込むなど、大崩壊と言わずして何と言う、というレベルだ。
こんな魔法が普通の魔法と一緒になって保管されているというのも非常に良くない気もするが、そもそも解析前。何か分からない魔法を先んじて分類するなど無理な話だ。
青ざめる俺の隣で、レオナールが難しい表情をして話す。
「私も貴族学校の歴史の授業で学んだことがある。神歴以前に存在していたとされるルブタン王国は敵国のフィケ帝国にこの魔法を使用し、結果フィケ帝国の大部分が発生した地震によって崩壊、城も家も瓦礫になって地割れの中に飲み込まれたということだ」
「フィケ帝国があった場所には、今はラングラン皇国とゴモン王国が存在するのだけれど、地割れは未だに埋められないままでいるの。地割れの上を渡る橋もかけられず、『ポータル』の道も通せず、飛空艇で行き来しているくらいよ」
レオナールが目を閉じながら話す横で、ウラリーもゆるゆると首を振りながら言う。曰く、『ポータル』の道はただ魔法で道を作っているわけではなく、ガイドとなる物体の置き場所が無いと通せないらしい。要はモノレールのレールみたいなものだ。
そりゃ確かに、全く何も存在しない地割れの上にレールを通すなど、無理に決まっている。飛空艇を使うのもやむなしということだろう。
それはそれとして、だ。そんな恐ろしすぎる
「そんなヤバい魔法、こんなホイホイと解析したり使えたりとか、ヤバくないですか、俺」
「全くだ、大変に恐ろしい話だよ」
肩を落とす俺に、レオナールも力なく首を振った。彼の言う通りだ。俺だって恐ろしくて仕方がない。
と、そんな俺の方に一歩歩み寄りながら、アルフォンスが口を開いた。
「サイキ下級部員、貴君のその能力は間違いなく我々にとって有用だ。しかし使い方を誤れば、貴君は途端に犯罪者として投獄されるだろう」
「うぇっ、そんな」
容赦なく話されたアルフォンスの言葉に、思わずのけ反る俺だ。せっかく身分を手に入れて活躍できる見込みが立ったのに、逮捕されて牢屋行きとかシャレにならない。
正直、そんなことはごめんこうむりたい。だから俺は、うっかり禁呪とかを使ってしまわないようにしないといけない。アルフォンスもそう言いたいらしく、俺の肩に手を置いた。
「だから、いいか。魔法を解析して取得したら、それをいたずらに使用するのは避けてくれたまえ。実運用に乗せる前に、必ずバルテレミー上級部員やジルー上級部員に確認し、判断を仰ぐこと。約束できるな?」
「う、うっす。もちろんっす」
アルフォンスの言葉に俺はすぐさまうなずいた。断る理由なんてどこにもない。
俺の反応にほっと息を吐いたアルフォンスが、表情を緩めながら俺から離れる。そのまま目の前にある棚とは別の棚に向かいつつ、レオナールとエタンに指示を出した。
二人が壁にかけられっぱなしの「
「よろしい。では次は欠損度合いの補完がどれだけ行えるのかを見よう。さしあたって……これか」
「うわっ」
持って来られて机に置かれたそれを目にして、俺は思わず声を上げた。紋様が、よく見てもそれと分からないくらいにボロボロなのだ。欠けたり消えたりしている部分がやたらと多い。
「また、ボロボロっすね」
「収集時に復元作業を行ってなおこの状態で、修復班に回す前だから補完作業も出来ておらんのだ。貴君の
息を吐きつつ俺が言うと、アルフォンスもため息交じりに口を開く。曰く、イーウィーヤ神暦964年1の月に収集された、ゴモン王国辺境の遺跡で発見された紋様、だとか。
正直、ここまでボロボロだとスマートフォンのカメラが認識してくれるか分からない。分からないが、やるしかない。
「じゃ、えーと……これはこの机に置いたままでいいっすかね」
俺がカメラをオンにして机の上の紋様にスマートフォンを向けると、数秒ほど二次元コード読み取りの枠が点滅した。そのまま、画面上にダイアログが現れる。
―― 魔法の取得に失敗しました。もう一度お試しください ――
「あれ?」
「ふむ、ここまで欠損しているとさすがに難しいか」
「何か、取得にあたっての決まり事があるのかも知れませんね」
読み取り失敗だ。俺のスマートフォンの画面を見たアルフォンスとウラリーが、納得したようにうなずく。
やはり、古代魔法の紋様と言えどもマトリックス二次元コード。それを構成するための基点となる記号が存在するようだ。この魔法がどんな魔法なのか、分からずじまいなのはちょっと残念だけれど。
ため息をつく俺をよそに、俺のスマートフォンに興味をそそられたのかアルフォンスが笑みを見せた。
「この際だ、色々と試してみよう。悪いがサイキ下級部員、しばらく付き合ってくれたまえ」
「う、うっす……」
アルフォンスの言葉に、俺は冷や汗が垂れるのを感じながらも返事をした。
紋様の読み取りにそんなに時間を要しないとはいえ、これは、すぐには解放されなさそうだ。果たして今夜、何時に眠ることが出来るのか、俺はそれだけが気がかりだった。
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