第5話 別途行動
そのまま魔物を倒しながら洞窟を出て、山を降りていった俺たち。こんな軽装もいいところな格好で山歩きなど恐ろしいなんてものではなかったが、『
どんどん山を降りていって、視界に映るのは山の麓に広がるのどかな村だ。
「さて、そろそろ
「おぉ……」
レオナールが手を伸ばす先を見ながら、俺は声を漏らした。
村だと言っているが、結構街並みは綺麗で整っている。地面には石畳が敷かれ、家々は木と石を組み合わせた壁や屋根が印象的だ。井戸だったり、畑だったり、そうした田舎あるあるの要素は見当たらない。案外、近代的な暮らしを人々は営んでいるのかもしれない。
と、風景に感動する俺の後ろで、シルヴィが後頭部で手を組みながら言った。
「村に着いたのはいいけどさ、レオナール。どうやってマコトを王都まで連れてくのさ?」
「そうだ。俺たちの使う
エタンも肩をすくめつつ、レオナールへと言葉をかける。するとレオナールは小さく微笑みながら、俺の肩に手を置いた。
「ああ、そこは心配要らない。私がマコトを連れて『
レオナールの発言に、三人が納得したように「あぁ」と声を漏らす。しかし全く聞いたことのないワードが出てきて、首を傾げる俺だ。
「『ポータル』?」
オウム返しするように俺がそのワードを口にすると、レオナールが小さくうなずいて俺に話してくる。
「王国内の主要都市を結ぶ、高速移動用の術式だよ。このルノヴィノー村には設置されていないが、州都のジャッケ市には設置されているな」
曰く、巨大なプレートに椅子が並んだ物体が、レールのように敷かれた術式の上を走って移動するのだそうだ。つまり、この世界における長距離列車であるらしい。
目を見開く俺に、シルヴィが耳をピコピコさせながら話す。
「ボクたちは国内のあっちこっち、それこそ街道の通ってないところにも行かないといけないから、魔法研究所の持ってる魔導車で移動するんだけど。一般の人たちは『ポータル』と、乗り合い魔導車で移動するんだ」
「まだまだ、市民にまで魔導車が行き渡ることがないから……どうしても、『ポータル』と乗り合いの魔導車が長距離の移動手段になるの。一般の冒険者もそうよ」
続いてウラリーが額の汗を拭きながら言う。
先程から話に出ている魔導車についても聞いてみると、つまりは魔法で動く乗用車。彼らが乗ってきた魔導車は、このルノヴィノー村に停めた状態であるらしい。
なかなかな高級品とのことで、魔法研究所は何台か冒険者用に所有しているから使えるけれど、一般市民がおいそれと乗れるものではないらしい。乗り合いの魔導車もつまりはバスということだ。
つまり、市民の移動の足は徒歩だったり公共交通機関だったりするわけで。こうした山なんかに向かって調査できるのも、国家機関所属の冒険者の強みなのだろう。
「なるほど……じゃあ、俺とレオナールさん、ウラリーさんとシルヴィさん、エタンさんの三人で、別行動ってことっすか?」
腕を組みつつ俺が言うと、レオナールがこくりとうなずいた。
「そういうことさ。それにマコトをうちの魔法研究所に所属させるための手続きもしないといけない」
「ああ、そうか。確かに身分を明らかにする作業は必要だ」
レオナールの言葉にエタンもうなずき、シルヴィも一緒にうなずいた。
確かに何はなくとも、俺を魔法研究所所属にして身分を確保しなくてはならない。そうすれば生活の拠点も得られるだろうし、収入も得られる。この世界で生きていけるようになるだろう。
と、シルヴィが俺のTシャツをつんとつつきながら話す。
「そうだよね。それにマコトの服とか、必要な道具とかも仕立てないとならないでしょ」
「そうですね、その服装のままで、というのは……それに、靴も仕立てなくては」
「あっ」
シルヴィの言葉に同調してウラリーも目尻を下げた。そこで俺は自分の足元を見る。つまり、裸足の俺の足を。
こうした山の中で裸足でいること自体よろしくないが、村の中や町の中では、もっとよろしくない。いたたまれなくなってもじもじしながら、俺は言った。
「そうっすよね……
「『身体保護』のスキルがあったから、山道でも怪我をさせずに済んでよかったがね。さすがにそのまま街中をうろつかれるのは困るわけだ」
俺の言葉にレオナールが苦笑しながら返した。やっぱり、早いところ服を整えなくてはならないわけだ。
そうとあれば時間をかける訳にはいかない。俺の肩に手を置いたレオナールが、早速村の中に停めている魔導車に向かっていく三人に手を挙げた。
「ということだ。ウラリー、魔導車の制御はよろしく頼む」
「分かったわ」
レオナールがウラリーに声をかけると、彼女はこくりとうなずく。どうやら魔導車の運転は、普段はレオナールが行っているらしい。
立ち止まっている俺たちに背を向けて歩きだしつつ、ウラリーとエタンがこちらを振り返る。
「じゃ、マコト、気をつけてね」
「道中で死ぬんじゃないぞ、ルノヴィノー村からジャッケ市の間の街道にも、魔物は出るからな」
「うぇっ」
脅すようなエタンの言葉にびくっと身体を強張らせる。さっきまであれこれと魔物と相対してきたが、俺はまだまだ戦闘初心者。これで人数の少ないところを襲われたら、たまったものではない。
と、俺の表情を見て苦笑しながら、ウラリーがひらりと手を振った。
「大丈夫よ、レオナールも一緒にいるんだから。じゃあ、先に行ってるわ」
「ああ、気をつけて」
そしてレオナールも軽く手を振りながら返す。そうしてさっさと歩いて行く彼らを見送ってから、早速別方向に足を踏み出すレオナール。そんな彼を追いかけて、俺は慌てて声を上げた。
「だ、大丈夫なんっすか、こっちにレオナールさんが来ちゃって」
「心配要らない。道中に出るような魔物なら、シルヴィとエタンの二人でどうにかなるし、ウラリーも援護が出来るさ」
心配の声を上げる俺に、くすりと笑いながらレオナールはすたすた歩く。まぁたしかに、これまでのルノヴィノー山での戦闘はほとんどシルヴィとエタンの二人でどうにかして、レオナールや俺の援護はそんなに頻繁ではなかった。あの二人がどれだけ強いのか、俺はこの目で確認している。
兎にも角にも、ここからは俺とレオナールの二人旅。まずは乗り合い魔導車の発着所を目指さねばならない。
「さあ、ぼやぼやしてはいられないぞ。もう少ししたら乗り合い魔導車が出発する時間だ。発着所に行こう」
「あっ、う、うっす」
言いながらもレオナールが足を止めない辺り、本当に出発の時間は近いのだろう。前方を見れば大きなワンボックスカーのような形をした車が、旗が立てられているところに入ってくるところだった。その旗の下には数人の人がいて、車を見ている。
あの旗が発着所で、あの車が乗り合い魔導車ということらしい。扉が開かれて魔導車の中に乗り込む人々の後ろに並びながら、俺は恥ずかしくなって下を向く。
他の人々は当然服を着て、靴を履いている。明らかに俺は浮いていた。
「とりあえず、その……早く服と靴、なんとかしないと」
「全くだ」
小さな声で漏らす俺に、苦笑しつつレオナールが返す。そしてそのまま俺たち二人は魔導車の車内へ。
二人掛けの席に腰掛けると、静かにドアが閉まる。そうしてフォォン、と駆動音を鳴らしながら、魔導車はルノヴィノー村を出発した。
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