【閲覧注意】10話 棄民命令(後編)
~ご注意ください!~
※残酷な表現があります。
不快に感じる可能性がある方は読むのをお控えください。
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雨風が
植物も生えていない。
荒波
岩礁をチョロチョロしているはずの
海鳥の巣も無い。
海鳥の
本当に、名前通り、塩害島だ。
いつの間にか、太陽が
もう、お昼は過ぎた。
港の形は何となくわかる。
でも、
身体に
何だろう……。
口がモゴモゴ勝手に動く。
「『おーい、生きてるー?』」
えっ、今の声、わたし?
わたしはそんなこと喋ってない。
でも、口も喉も勝手に動いた?
「『まだ、生きてる?』……『貴方の眼と口を使って、観測しているの』……『もちろん、金の
「本当にジュリアン?……『疑うの?』」
「それじゃあ、本当のことを教えてよ。
どうして、ジュリアンは祝福が目覚めただけのルルを急に仲間に入れてあげたの?」
「『あれはルルの母親がおかしな誕生日プレゼントをわたしの親を通して頼んだからよ』……『たった一日でも、ルル・ヒルはジュリアン・ロープの大親友扱いを受ける。わたしは
「わたしは貴方とお友だちになりたかったの」
「ジュリアン!?」
突然、塩害島に現れたのはジュリアン・ロープだ。
「貴方の異能力は『金の秤』と『観測者』じゃ?
三つ目の異能力に目覚めちゃった?」
「小舟をチャーターしたのよ」
「変身能力もあるんじゃ?」
「わたしは本物のジュリアン!
「二重種祝福って珍しい体質でしょ。
そんなことはこの田舎町では明かせないから、『観測者』の祝福を隠して来たわ。
でも、貴方は馬鹿にしないし、こびないでしょ。
だから、力になりたかった」
「処刑人に怒られない?」
ジュリアンの両親は殴られないだろうか……。
「母親は父親と離婚して、王都のあるクロック州の実家に出戻る。わたしも母について行くことにしたの。
もう、そろそろ、母が用意してくれた船に乗り
別に、塩害島で船を乗り換えちゃいけないなんて法律は無いでしょ?
だって、ここは小王国の国外だから、何をしても
「その自信満々は本物のジュリアンだね!……でも、ジュリアン。
王都はボーン州だよ。
クロック州なんて、どこと間違えてるの?」
わたしはジュリアンの間違いを
すると、ジュリアンに頭を
「祝福も二重で、国籍も二重なのよ。
母はギア大王国。
父はアンブレラ小王国民。
ほら、パスポートが二つ。
今日からは新しい名前のパスポート。
家名も父親も、学友も、国籍も捨てていくわ。
これで、貴方と同じね」
「全然違うよ!
わたしは処刑命令で、ここで衰弱死しなくちゃいけないんだよ」
「わたしのような二重種とか。
珍しい
貴方のような
十歳を過ぎないと、祝福に目覚めない。
そういう子は少なからず世界にいる」
「駄目だよ。
わたしはここで死ななくちゃ」
コニースやお姉ちゃん、殴られたお兄ちゃんたちの顔が今でも思い
わたしが逃げれば、皆が代わりに処刑されてしまう。
そんなの絶対駄目。
「そうね。貴方のお父さんは港湾警備隊員として、フィニーから塩害島を
国家公務員でいられなくなるんでしょ。
二人のお兄様のお顔は酷い痣だったわ。
大丈夫。
貴方が乗った小舟が港から
弟を抱いたお姉さんを含めて、チェッラ家の四人の子は解放されたわ」
一気にわたしは体の力が抜けて、その場に座りこんでしまう。
「貴方は自由になれるのよ。
死体なんて無くたって、処刑のやり直しなんてもう出来ない。
町民が納得しない。
罪も無い家族まで処刑しようなんて、皆が許さないわ」
わたしはジュリアンに抱きしめられる。
背中をお母さんのようにとんとん優しく
「貴方はこれを使って。
『貴腐の園』への
貴方を保護してくれる」
「ジュリアン、船が来たよ!
でも、あの船は塩害島に近づけないよ。
岩礁にのりあげたら、船底に穴が開かない?」
「いつまで、小舟で昼寝しているつもり?
起き上がりなさい!
ほら、彼に操舵を頼んだの。
わたしは貴方の居場所を知っている。
彼は若い頃、親に反抗して、船乗りをしていたんですって」
もう、黒いコートを着ていない、普段着のジョルジョさんがいた。
「ジョルジョさん!……ジュリアンを塩害島まで送ってくれてありがとうございます。
わたしはもう大丈夫だから。
ジュリアンを船まで送り届けてください」
「そのつもりだし、彼女たちの船旅に俺も同行することになった。
アンブレラ小王国を、俺も出ていく。
だから、再会するときは、別の国で、だ」
転移門が解放されて、別れのときがやって来た。
「さようなら、ジュリアン」
「新しい名前で呼んで。
わたしの名前は、リブラ・ガード」
「またね、リブラ!」
「貴方も新しい名前が決まったら、手紙をちょうだい。
向こうにはわたしの連絡先を教えてあるわ」
「さようなら、ジョルジョさん……」
「よく食べて、よく寝ろ」
「そうそう。旅にはお菓子がいると思って。
特大のチョコレート」
どこが、チョコレート?
「おじいちゃんのフェーンナイフ……」
リブラ・ガードなりの冗談だったらしい。
「チェッラ
冗談が通じていなくて、リブラは
「食べられるお菓子とは言ってないわよ?」
「ありがとう!」
わたしは黄色いコートを脱いで、魔石と目玉と、フェーンナイフをくるむ。
転移門は光り輝いている。
一歩、一歩、ゆっくり門の中へ進んでいく。
もう、わたしは港のほうを振り向かなかった。
たとえ、祝福が目覚めないままのわたしでも、行くべき場所がある。
さようなら、ブリッジ先生。
さようなら、中ピノ。
さようなら、コニース。
お姉ちゃん。
お兄ちゃんたち。
お母さん。
お父さん。
おじいちゃん。
さようなら、フィニー。
さようなら、マルチェラ海。
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