その63 雨の休日の過ごし方


 「……雨か」

 「ごるふって雨の中でもできるんですか?」

 「そういう施設があれば出来なくはないけど、そういうのは作られてないからなあ」

 <いいのかここで?>

 「さすがに濡れられるのは心が痛い」

 <ありがとうヒサトラ。……しかしあれはいいのか?>


 倉庫に鎮座したダイトが、家の軒下のキャンプに使うチェアに座って黄昏ているソリッド様と横に並ぶ騎士に目を向けて前足を向ける。

 楽しみにしているのは分かっていたので俺達も色々ゴルフについて教えていた。

 コースが無いが、とりあえず数人で争い、穴にボールを早く入れるということだけだがまずはクラブでどうやって打つのかを試したいとソリッド様もワクワクしていたのだが――


 「残酷な現実だ。この降りだと明日も無理そうだし、オールシャンに行って魚を入手しておこうかな」

 「そうですね、折角ですしお魚を食べるとか!」

 <うぉん♪>


 アロンがサリアの膝で小さく鳴き、美味しいものを食べられると舌を出す。

 全は急げと準備を始め、俺はソリッド様に声をかける。


 「ソリッド様、俺達はちょっとオールシャンに行ってきます。今日のところはお引き取りをお願いしていいですか?」

 「あ? ……ああ、うん、そうか……ゴルフは……」

 「この雨じゃ無理ですよ。明日、晴れるといいですね」

 「……うむ! よし、皆の者、城へ戻るぞ! 女神ルアン様に祈りを捧げて明日晴れにしてもらうぞ……!!」


 また変なことを言い出した。

 塞ぎ込んでいるよりもいいかと苦笑しつつ俺達はトラックを走らせてオールシャンへ。


 「こっちも結構降ってますね、お魚あるかしら?」

 「雨上がりなら魚の食いつきがいいらしいけどな。今日は市場にはなにも無いかもしれないけど、それならあいつらの店で飯を食っていこうぜ」

 「ですね!」


 とりあえず市場へ足を運ぶと、いつものおっちゃん連中が俺を見て笑いながら挨拶をしてくれた。目ぼしいものが無いか物色してみるが、大物は無さそうだ。


 「なんか探しているのかい?」

 「あー、この前あったマグロとキングサーモンがあればって思ったんだけどな」

 「また大物狙いだな兄ちゃん。今日はこの天気だから雑魚しかねえやな」

 「だな。それと聞きたいんだが、ジュエリーサンゴってのがこの辺にあるらしいんだが知っているかい?」


 俺が尋ねると、あちこちの店から声が上がる。

 

 「あれが欲しいのかい? 珍しいねえ」

 「おお、久しぶりに聞いたな!」

 「ジュエリーサンゴねえ、どうするんだ?」

 「えっと、ちょっと薬の材料にしたくて必要らしいんだよ。……やっぱ竜の牙みたいに採るのが難しいのか?」


 やはり珍しいらしく尋ねてみる。

 すると――


 「え? いやいや、その辺にいっぱいあるぞ? 最近は欲しがる人も少なくなったからなあ」

 「海の中にあるとキレイなんじゃが、空気に触れると一気にみすぼらしくなるからお土産にもならんしな! 食えもせんし、魚の餌じゃて」

 「意外と普通の素材……」

 

 サリアの言う通り港町じゃポピュラーなものだったらしい。サンゴらしく毒があるから食用にもならないしで欲しがる人は居ないのだとか。毒があるのに素材でいいのかみたいなことは思ったがそういうものなのだろう。


 「薬の材料になるのか? ほーん、いくらでも持って行けばええと思う。が、今日はあいにくの雨だ、今度来た時に採って来てやるわい」

 「助かるぜ爺さん。今日は魚もねえし、また今度来るぜ」

 「おう、またな!」

 


 そして適当に魚を数匹購入してハアタとミアの店で昼食を摂ってから再び王都へ。

 ベヒーモス親子は見た目の割に俺達とあまり変わらない食事量で済むが、親父さん達はびっくりしていたな。

 シルバードラゴンはガチで見た目通りだから困ったが。


 そして王都へ戻り雨音を聞きながら久しぶりにゆっくりした休日を過ごすことができた。

 パソコンをいじるサリアと倉庫で重なって眠るベヒーモス親子を尻目に、適当に組んだハンモックに揺られて本を読み、結局その日は雨が止むことはなく終わった。明日はなにをするかなと考えていた、それくらいよく降っていたからだ。


 だが、翌日――



 「ヒサトラ君! 晴れたぞ!!」

 「うおおおおお!?」


 ――歓喜の声を上げたソリッド様によって起こされた。


 「これなら出来るのだろう?」

 「ふあ……おお、晴れてる……ですね、これならってソリッド様大丈夫ですか!?」

 「ちょっと寝ていないが……平気だ」


 平気そうな顔じゃないんだが……

 しかしそんなことはお構いなしでソリッド様は目を輝やかせているので、約束は約束だしなとハンモックから飛びおりて親指を立てる。


 「オッケー、それじゃ長いこと待たせたし行きましょうか! 広い土地で芝がそこそこあるところがいいですね」

 「うむ、それは聞いていたから問題ない。トライドの領地に行く途中にある草原ならどうだろう?」

 「ああ、いいですね」


 それじゃ、ということで出発だ。

 とりあえず足元でぐったりしている騎士達はいったん無視した。


 <お、散歩か?>

 <くぉん!>

 「そんなところだ。たまには広い場所で走り回るのもいいだろ」

 「お弁当作っていきますね!」


 そんな調子でひとまずゴルフをすることになったのだが――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る