その33 商工会ギルドと冒険者

 

 「商工会ギルドはロティリア領にもありましたけど、結局トライド様が手続してくれたから行って無いんですよね」

 「だなあ。まあ、向こうの世界にもそういうのはあるからなんとなく分かるけど」


 そっちはわかる。だが……よくわからんのは冒険者達が後をついてくることだ。

 特になにかを話している風もなく、ただひたすらに行軍するその姿は、若かりし頃の暴走族を思い出す。


 「えっと、みんなどこへ行くんだ?」

 「ああ、お気になさらず」

 「……」


 怖い顔をするな。

 なんか嫌な予感がするので俺はサリアの肩を持って傍に引き寄せておく。なんか嬉しそうにくっついてくるが、そういう抱き寄せじゃないんだよな。


 ファルケンさんもチラチラでかい身体を家屋からごっそりはみ出させているし、あれで隠れているつもりなら尾行スキルは皆無といっていい。

 まあ俺達になにかしたいわけじゃなさそうなのでとりあえず放っておこう。面倒だし。


 サリアと町の風景を楽しみながら再び町を歩き、商工会ギルドへと足を運ぶ。

 そして商店街の一角にそびえ立つ大きな建物へと到着した。


 「……ここか。冒険者ギルドと違ってキレイだな」

 「なんだとぅ! ウチが汚ねぇってのか!」

 

 そんなことは言ってない。

 冒険者達がファルコ……ファルケンさんをおさえていると、サリアが唇に指を当てて口を開く。


 「でもなんか、こう……いえ、いいです」

 「……? なんだ? ま、入ってみるか」


 高級感のある擦りガラスの扉を開けて中へ入る。

 

 「おお……!?」

 「まあ」


 すると入り口からズラリと頭を下げた人達が受付まで並んでいるではないか!?

 俺もサリアも軽く驚いていると、奥から白髪の紳士っぽい男が歩いてくるのが見えた。


 「お待ちしておりましたよ、ヒサトラ=ヒノ殿。私がこの商工会ギルドのマスター、ペールセンと申します」

 

 これはまたむせそうな名前だ……ギリギリだぞ?

 それはともかく俺は握手に応じながら笑顔で返事をする。


 「ソリッド様から聞いていましたか? いや、こんなに歓迎されるとは思いませんでした」

 「ありがとうございます!」

 「いえいえ、これから仕事のパートナーになると思いますしこれくらいは」


 ペールセンさんが指を鳴らすと商人? 達がバッと散り、奥にあるオシャレなバーのようなカウンターに案内してくれた。お、ここは酒場になってるのか。


 「まずはお近づきの印に一杯いかがです?」

 「昼間からとは……」

 「いいんじゃないですか? トラックは乗らないだろうし、たまには」

 「そうかな? サリアがそう言うなら……」


 その答えに満足したペールセンさんが片手をスッと上げると、バーテンダーらしき人が酒を用意し始める。居酒屋の方が似合う俺としてはこういうオシャレな場所は緊張するなと思っていると、


 「おう、俺にも寄こせや」

 「……貴様かファルケン。何の用だ? それによく見れば冒険者連中も入ってきているな」

 

 明らかに嫌な顔をしたペールセンさんがファルケンさんの近くに待機している冒険者達を見ながら口を尖らせる。

 すると、商人の一人が冒険者達に声をかけた。


 「お前達みたいなのが入ってきたら汚れるだろうが、せっかく今日はいいお客さんが来たのに台無しになる。ほら、帰った帰った」

 「お帰りはあちらですよーっと」


 冒険者達に突っかかる商人達。あまりいい感じはしねえなと思いながら静観する。ここで口を出すべきか? そんなことを考えていると、冒険者が商人を振り払いながら口を開く。


 「んだと? 護衛がねえと荷物運びも危うい癖になに言ってやがる? 俺達が居てこその商人だろうが」

 「ぐぬ……しかし、これからはヒサトラさんの移動手段があればお前達冒険者はお払い箱だ!」

 「やっぱりそういう魂胆かよ、結局他人の手を借りねえとなんもできねえんだな!」

 「ああん?」


 あちこちでそんな感じのののしり合いが始まり一触即発状態……緊迫した空気が流れる。

 よく聞いてみると、商人は自分の利益だけ優先して冒険者を下に見ているとか、俺を利用するつもりだろうといった冒険者の言葉に、商人達は冒険者達を野蛮だと口々に言う。


 「まったく……ファルケン、躾けがなっていないようだな相変わらず」

 「ケッ、てめぇこそ商人が偉いとか思ってんじゃねえだろうな? こんな御大層な建物を立ててよ。ヒサトラはウチでもてなすからてめぇらは引っ込んでろ。それを言いに来たんだよ!」

 「ほう、商人から依頼をもらって金を稼いでいるのは事実ではないか。それにソリッド様から聞いている『とらっく』を冒険者はどう扱うつもりだ? 勿体ない」


 そしてこっちもトップ同士で争いを始めたので俺は肩をすくめ、サリアが困った顔をしていた。


 「どうぞ。まあ、いつものことですから」


 バーテンは商人でも冒険者でも無いようで、やはり苦笑しながら俺達にグラスをスッと出してくれた。一応、出された酒を口にする。


 「あ、美味しい」

 「……」

 「ありがとうございます。ぶどうを発酵させて作ったお酒です」


 ワインか、これは悪くないなと思いながらグラスを傾けるが……


 「だから冒険者連中はお前達だけで魔物退治でもやってりゃいいんだよ!」

 「ならこれからは俺達に頼るんじゃねえぞ! ヒサトラは渡さねえからな!」


 ……うるせえ。折角の美味い酒がまずくなる。そもそも……


 「もうお前等に売ってやるポーションはありませーん!」

 「上等だ、誰もなにも買わなくなってひからびやが――」


 「やかましいわぁぁぁ!!」


 結局、うるさい罵り合いに我慢できず俺は立ち上がって怒鳴り声をあげた。

 その瞬間、その場に居た全員、微笑むサリア以外が俺に注目して黙り込む。


 「さっきから聞いてりゃ冒険者が商人がとかうるせえんだよ! そもそもどっちがって話じゃねえだろうがよ? 商人が安全に旅できるのは護衛という力のおかげ、冒険者が金を手にするのは商人が考えた商売のおかげってやつだ。どっちが欠けても困るのはてめぇらだろうが!

 俺をどっちが持つか? てめぇらがそんな考えなら俺は降りるぜ。この町で仕事させねえってんなら別の国にでも行く。商人も冒険者どっちにも使ってもらいたと考えていたんだがな?」

 「し、しかし……」

 「まだいうか!!」


 まだなにか反論をしようとしてきたペールセンを黙らせるため、俺はバットを袋から出して硬そうな像をぶっ叩い た。我ながら短気かとも思うが、わざわざ敵対する必要がねえのにうだうだ言ってるのが許せねえんだよな。

 これが別の国の商人同士、冒険者同士なら族の縄張り争いみたいな意見の食い違いはあるかもしれねえが、同じ町の仲間が協力しねえでどうするんだって話だ。

 

 固唾をのんで俺を凝視している中、サリアがポツリと呟いた。


 「あ」

 「ん? ……あ」


 床に置いてあった硬そうな箱を俺がぶっ叩いたら真っ二つに割れていたからだ。


 「オ、オリハルコンで出来た箱が……割れた……!?」 

 

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