その22 結婚式
「ほんとにこれでいいのか……?」
「いいんじゃないですか? 楽しそうでしたし!」
俺はコンテナ両脇のウイングを完全に上げた状態のトラックを眺めながら首をかしげるが、ウェディングにデコレーションされた車体を見ながらサリアは喜ぶ。
「……これがデコトラというやつか?」
「なんです?」
「いや、なんでもない、それじゃ町の入り口まで回すぞ」
サリアを乗せてトラックはマリの入口へ。
大通りをパレードしながら式場へ向かいそこで誓いをする。本来は馬車でやるそうなのだがこの大きな鉄の塊が良いとアグリアスとベリアスから申し出があり、デコったというわけ。
「お待たせしましたよっと」
「ふふ、大丈夫だよ仕事もあるのにすまないね」
「あんちゃん、久しぶりだな!」
「お、ちゃんと立派な服を着ているな」
「お互い様だっての!」
場にはボルボも居て、鼻の下をこすりながら俺の尻を叩く。両親と和解したこいつはきちんと冒険者としての訓練を受け始めていて、成人したら狩りにも参加するらしい。教えているのがあの時のBランク冒険者だというのだから世の中判らない。あの後なにがあったのかは教えてくれないが根性を認めてくれたらしい。
「ヒサトラさん、今日はありがとうございますわ。天気も良く、最高の日を迎えることができました」
「別に俺はなにもしちゃいねえよ?」
「いいえ、あの時『とらっく』で助けてくれなかったらわたくしとサリアはゴブリン達にさらわれてどうなっていたかわかりません。だから本当にありがとう」
「ということです」
サリアが胸を張ってドヤ顔をする。
確かにあの時、偶然彼女達の間遠いでなければ俺も路頭に迷っていた可能性が高い。もしかするとルアンが助け舟を出してくれたかもしれないがこうやって仕事ができるツテもできなかっただろう。
こうやって祝福できるのはある意味、お互い様なんだよな。
「では、そろそろ行こうか」
「はい。ジャンさん……でも、随分兵士というか騎士が沢山いる気がするんですけど」
「うむ、国王陛下がいらしているからな」
「は……?」
「ヒサトラさん、国の王ですよ」
「知ってるわい!?」
サリアが知らなかったのと言わんばかりに耳打ちしてきて俺は彼女の口を左右に引っ張る。おっと、ドレスが汚れないようにしておかないとな。
それにしても……
「なんで国王様が? 領主の息子と娘の結婚だから?」
そう疑問を口にする。
するとすでにコンテナに乗り込んでいたトライドさんが身を乗り出してきて口を開く。
「ああ、それは身内だからだよ」
「身内!? 国王様の身内が居るんですか、それらしい人は……」
「お母様は陛下の妹なの」
「アレが!?」
飯を食うか寝ているしかしていないグータラ奥さんが? 馬鹿な……。そう思っていると、エレノーラさんが頬を膨らませて口をとがらせていた。
「失礼ね、ヒサトラ君?」
「ああ、いや、美しいとは思いますけど、いつも寝ているし……」
「王族って執務をする人以外は割と暇だからねえ。私も結婚するまではお茶会とかばかりだったし」
今もだろうとは言わないでおく。今日はアグリアスの晴れ舞台なのだから。
「はっはっは、エレノーラは今でも可愛いぞ! では、ジャン開始といこうではないか」
「そうだな! では頼むぞヒサトラ君」
一家がコンテナに乗り込んだのを確認して、俺は運転席へ。サリアはアグリアスと一緒についているので今日は俺一人。リンダは休みなのでここにはいないのである。
ゆっくりとトラックを動かし、大通りへ。一度練習をしているので特に問題なく進んでいく。
両脇で手を振ったり声をかけたりする人が楽しそうで何よりだと思う。
町の家屋にも色々と飾りをしていて、この一日のために町の人達が善意で協力してくれていた。人望あってのことだろう。途中途中には騎士や兵士も警備をしているのが見える。
「はー……本当に国王様ってのがいるんだな……」
本当にゆっくり進み、みんなに見送られて式場へ。
ここで俺の出番は終わり、一家は式場内へと入っていく。ウェディングドレスをまた変えるらしく、お金持ちらしい結婚式になりそうだ。
「ふう……サリアのドレス姿もキレイだったな」
アグリアスもエレノーラさんもきれいだったが、サリアも負けてはいなかったと思う。
いつか彼女の結婚式も、と思うと少し残念な気もするがあの子なら引く手あまただろうし、俺みたいなのと一緒にならなくても良いだろう。
空を仰ぎながらそんなことを考えていると――
「君がこの乗り物の御者かな?」
「え? ああ、そうですよ。それが?」
――スラっと長身をして鼻の下に少しだけ髭を生やした紳士が笑顔で声をかけてきた。
「こっそり町中で見せて貰っていたが、さらにスピードが出るのだろう?」
「え、ええ、そうですね」
「いいね、是非、私も乗せてもらいたいものだ」
「はは、これで仕事をさせてもらっていますからね。お帰りの際はこちらまで、なんて」
「おお、それはいい案だ! エレノーラが自慢していて悔しかったが……」
「え?」
今、エレノーラさんを呼び捨てにしていた。そしてこの風貌……まさか……
「あの、失礼ですが……まさか、国王様、ですか……?」
「む? そうか異世界人だったな、顔を知らぬのも無理はないか。その通り! 私がこのビルシュ王国の王、ソリッドである!」
「やっぱりか……!」
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