ガチ説教。
薬臭い空気と、規則的に鳴る電子音の中で目が覚めた。
「……………………ここ、は?」
真っ先に視界へと入ったのは白い天井であり、自分の人生で一度も見た事がない事だけは分かった。
「……知らない天井だ」
ネタではなくガチで知らない天井なので、その通りに口から言葉が出た。
段々と記憶がハッキリしてきて、「ああ、ここは病院か」と理解出来る程度には意識がしっかりして来た。
「…………お兄ちゃん?」
「んぉ、…………ルミ?」
すぐ側から声が聞こえ、動かない体を無理やりに動かして首を横に向けると、そこには可愛い服を着た最愛の妹が居た。
「おぉ、ルミ。おはよう」
「…………はやく、ないよっ」
目が合って、言葉を交わすとルミは嗚咽を漏らして涙を零した。ああ、心配させてしまった。こうならない為に頑張ったのに、なんて事だ。
とにかくルミの涙を払おうと、動かない体に更なる鞭を打って腕を伸ばそうとする。だが思ったよりも体が動かず、腕を持ち上がる事すら叶わない。
マジか、ここまで深刻なダメージを受けてたのか。やっぱグリフォンってのはそれだけの化け物だったんだな。
「…………あれ、腕がある?」
ふと、動くか否かの前に『動かす腕が存在する』事実に驚く。いや、確かグリフォンに吹っ飛ばされたよな?
「あのねお兄ちゃん。お兄ちゃんの体は再生治療済みだから、手足も目も、治ってるよ」
…………………………嘘だろ?
ルミの言葉に青ざめる俺。いやいや、それはマズイ。と言うかヤバい。
カードが経済に深く根差した現在では、カードの能力を利用した超高度医療も存在する。なので吹き飛ばされた四肢や機能を失った眼球なんかも綺麗に治すことだって可能である。
だが、そんな治療は当たり前だが超高額であり、俺みたいな底辺の存在は施術して貰えない。と言うか大金を支払えないのでそれ以前の問題と言うか…………。
「か、金は!? 再生治療の金なんて、誰が立て替えたんだ!?」
見れば、欠損は完璧に治ってる。こんなに綺麗な治療が出来るのなら、使ったカードのランクは相応に高いはずだ。当然、そんなカードは信じられないレベルで希少であり、高額であり、平たく言えば人類の規模に対して足りてない。
ランクに関わらず治療を受けたい人間など山のように居るが、カードを使うのが人間である以上はその労力には限界がある。誰も彼もと治してたら早晩過労死の未来に辿り着く。
需要は無限にあるが、供給は限りなく少ない。そんな
俺としては義手に義足でも付けて活動しようと思ってたのに、寝てる間にそんな高額医療を施されるなんて予想外に過ぎる。そんな治療を受けれる金なんて俺は持ってない。であるなら、その金がどうやって捻出されたかなんて考えるまでも無い。
借金。俺はそう思った。
俺も最近は稼いでるが、ここまで完璧な再生医療は費用な額が文字通りに『桁が違う』のだ。
千万とかじゃない。億単位の金が必要だ。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。お金は要らないって言われたから」
しかし、そんな心配をする俺にルミがそんな事を言う。
「そんな訳無いだろ!? いったい誰がそんな──……」
「────お兄ちゃんが、助けた人達が」
…………ふいに、ルミの愛らしい目が怒りに燃えてるのが見えた。
まるで、「お金よりも、もっと気にする事があるでしょ」と言わんばかりの憤怒が見える。
「る、ルミ?」
「……ねぇお兄ちゃん。正座して?」
いや、あの、体が動かないから、正座はちょっと辛いと言うか…………。
「正座、して」
「あ、はい」
生まれて初めて見る妹のガチギレに、俺は従う他無かった。
点滴が繋がってる腕をモゾモゾと動かしてベッドを這い、鞭を打つ程度では動かなかった体に蹴りも拳も入れて無理矢理動く。
物心付いた時から今日まで、俺はルミが怒った所を見た事がない。一切無い。だから初めて見るソレに冷や汗が止まらない。
と言うか、ルミはもっと舌足らずだったと思うが、なんだが今日のルミは随分とハキハキ喋る。これはどう言う事なのだろうか?
「お兄ちゃん。目が覚めたばっかりで、まだ何も分からないと思う」
「あ、うん。教えてくれるとお兄ちゃん嬉しい────」
「でもルミは、今はそんな事よりずっと大事な事があると思うの」
「あ、はい……」
ダメだ声から温度が感じられない。こんなルミは初めてだ。冷や汗と言うかもう背中に滝が出来上がってる。
「あの、その……」
戸惑うしか出来ない俺に、ルミは段々と体を震えさせ、その様子は明らかに『怒りのあまり体が震えてる』様にしか見えず────……。
「お兄ちゃんの、………………ばかぁぁぁぁぁああッッッ!」
────病院に、ルミの怒声が響き渡った。
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