天才かも。



「「ごめんなさいでしたッ!」」


「う、うん。ルミはもうだいじょーぶだよっ」


「本当に良いのか? ルミが気に入らないなら、俺が今この場でこのクソガキ達をボッコボコにしても良いが……」


「ひぃっ……」


「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさいっ!」


 公園で少年二人が土下座して、ルミは困惑しながらもそれを許した。


 命拾いしたな小僧。ルミが少しでも許さなかったら大変な事になってたぞ。


 ルミの周りには十匹のコボルトと、五匹のライカンスロープが居る。ルミを守るように囲んで、ガキ二人をグルグルと威嚇しながら睨んでる。


 正直、Dランクのモンスターって時点でもう一般人にはどうしようも無い化け物だ。そんなのが五匹も居て自分を睨んでるんだから、ガキ二人も股間が濡れてないだけ度胸があると言える。


「もう、もうホントにだいじょーぶだよ。ルミ、けがもしてないし……」


「ルミに感謝しろよクソガキ共。お前ら、自分が逆の立場だったらどうした? 俺なら確実にライカンスロープでお前らボッコボコにしたけどな。これを気にしてないと許すルミの優しさに、マジで感謝しろよ」


「もうお兄ちゃんやめてよぉっ」


 俺が怒りながらルミを褒めると、ルミは真っ赤になって俺をポコポコと叩く。とても可愛らしい。さすが俺の天使だ。何をしても可愛いんだな。


「お、オッサンは、えっと…………」


「姫路の、アニキ……? ハンターなのか?」


「そうだ。まぁ今日始めたばかりだけどな」


 オドオドとビビりながら質問して来るガキに答えつつ、俺はルミに渡した分のカードと売却分の再整理をしてる。


 ライカンスロープが3枚になってしまった。2枚は起動コール用に取っとくから、売却分は1枚か。これでも二十万で売れるから別に良いか。


 それとコボルトが10枚マイナスで、起動コール用に5枚残しておきたいから14枚売れる。ゴブリンも5枚残すとして33枚だな。


 カードの相場は余程の事が無いと殆ど動かないので、コボルトで七十万。ゴブリンが十六万と五千円。


 ライカンスロープの二十万と合わせて……、


 合計1.065.000円か。


 一日で随分と稼いだな。今日はこのままルミを連れて外食も出来そうだ。さっさと売ってしまおう。


「な、なぁなぁ! 他に何かモンスター持ってる!?」


「見せてくれよ!」


「…………あ? なんで俺の可愛い妹をイジメてた癖にコイツらこんな馴れ馴れしいの? ルミ、お友達は選んだ方が良いぞ?」


 と言うか俺はEランクまでしか召喚出来ないぞ。ああ、インパクトだけあれば良いか。


「まぁ良いや。俺は今日始めたばかりだから大したモンスターは持ってない。代わりに……」


 ジャケットのポケットから召喚済みの黒カードを20枚取り出して全部召喚する。


「ッッ!? え、まってコレ何匹いるの!?」


「姫路がいっぱい召喚してるのも変だけど、これはもっと変でしょ!? こんなに出せる人とかテレビでも見たこと無いんだけど!?」


 ゴブリンとコボルトが十匹ずつ揃う絵面は一般人的にも中々の迫力だろう。


 普通のハンターは多くても同時召喚数5とかだからな。Fランクの最大召喚数世界記録は20なので、これでも一応レコード内の事。


 ランク別ならこのくらい呼べるハンターも居るだろうが、同ランクをこれだけ召喚出来るのはハッキリ言って異常だ。


 まぁ、異常なだけで『凄い』訳じゃないんだが。Cランク一匹出されるだけで勝てなくなるし。


「ルミ、今から俺は二番区で用事があるんだが、一緒に来るか? いっぱい稼げたから帰りに美味しいものをいっぱい食べよう」


「ほんとっ!? ルミもいきたいっ!」


 そうと決まれば、召喚したモンスターを全てカードに戻して移動する。変だ変だと騒ぐガキを置いてさっさと行く。


 ルミは礼儀正しい良い子なので手を振って挨拶をしてるが、半ばパニックになってるクソガキ共はそれどころじゃない。


 おいクソガキ共、天使が手を振ってんだろうが無視すんな潰すぞっ。


 公園から出て大通りを歩く。二番区と一番区は市バスも通ってるが、目的地がバラけてる上に中途半端な場所にあるから、車が無いなら歩くのが一番良いのだ。


 タクシーが使えればそれでも良いが、単純に高い。


 カードを売り払うまでは言うほど金を持ってないし、歩けば済むのにタクシーで出費を重ねるのは躊躇われる。


 稼げるようになっても、無駄な出費は依然として抑えていきたい。


 幸い、ルミはハンターの才能が低くないようだし、この天使が大きくなるまで俺が頑張れば、あとはルミが自分の才能で羽ばたけるだろう。


 Dランクを五匹、Eランクを十匹召喚出来る時点で類稀たぐいまれなる天才なのは間違い無い。


「そうだ、ルミ。今日はルミのハンター測定をしてみないか?」


「そくてー? ルミ、それやった方がいいの?」


 思い付いてルミに提案すると、よく分かってないのか首を傾げる。可愛らしい。


「やらなくても良いが、俺はルミがどれほど凄いのかを見てみたいな。お兄ちゃんはライカンスロープを召喚出来ないんだが、ルミは五匹も呼び出せただろう? それはとっても凄いことなんだぞ」


「…………ルミ、さいのうあったら、お兄ちゃんのおてつだいできる?」


 提案する俺に、ルミはあくまでも俺のためにと言う。尊くて胸が破裂しそうだ。なんだこの天使は、良い子過ぎる……。


「そうだな。ルミが大きくなったら、一緒にハンターやろうな」


「うんっ! じゃぁ、ルミそくてーしてみる!」


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