第3話 オオカミ少年
お、重い。使わないテントは預けたままにしておけばいいのに。食料が入ったリュックは、ずっしりと重くて、よろよろと僕は歩いていた。
「ねえ、ダンジョン内では持つから、そこまではせめてどっちか持ってよ」
もうここに捨てていきたい。
「っち。仕方ないな」
そう言うと、食料が入ったリュックを持ってくれた。いや持って当然だ。
「ところでよ、荷物持ち」
「荷物持ちじゃなくて、ミュディン」
もう。この人、なんなの! 街には色んな人がいるから気を付けろって言われたけど、まさかこんな目に遭うなんて。
「なんで、そんなに深々とフードを被っているんだ」
「あ……」
グイっと、フードを引っ張られた。テントを持っていた僕は、フードを掴む事が出来ずフードは脱げてしまう。
二人は、僕の頭を見て絶句している。
ば、ばれた……。
「お、お前、獣人かよ」
「うそ。初めて見たわ」
「………」
長めの銀の髪は、人間が持っている耳が隠れているように見せる為に伸ばしていた。僕の耳は、もっと上の方にケモ耳としてついている。
数百年前に世界戦争があり、獣人族は兵士として前線で戦ったという。その結果、獣人は激減し純血の獣人はいなくなった。今獣人と呼ばれる者は、人間と獣人との間に生まれた者の事を言う。それでも今はあまり見なくなったぐらい少ない。
なぜか獣人だった頃の名残が僕にはあった。三人の姉さん達にはなかったのに。
「だいぶ血が薄まって、ケモ耳持ちなんていなくなったって聞いたけど、いたんだな。ちょっと触っていいか」
「うわぁ!」
「私も触りたいわ」
「や、やめて」
僕、耳を触られるとぞわっとするんだってば!
「ぜはぜは。あの、この事は他の人には言わないでほしい……」
「そうよね。私は別に嫌だとは思わないけど、気持ち悪がる人がいるのも事実よね」
そう。彼らみたいに、珍しがって耳を触ってくる方がまだましだ。小さな頃は、同じ年頃の子にこの見た目でいじめられた。だから人間に見える様に、髪を少し伸ばし帽子をかぶって村では生活をしていたんだ。
僕がいる事で、姉さんが困らないように僕は冒険者になった。気にすることはないと言われたけど、僕がケモミミだと姉さん達の夫は知らないはずだ……。
「別に言いふらさないって。ところで種族は何? その耳だと猫?」
「たぶん、オオカミだって」
「オオカミなのに、ステータスはヨワヨワね」
ミーチさんが、くすりと笑って言った。たぶん悪気はないのだろうけど、それ気にしていますから。
そんなこんなで、二時間かけてゴブリンが住まうダンジョンへ着いた。
ゴブリンは、錬金術などの材料になるところはないけど、そんなに強くない割にいい経験値になると聞いている。Fランクの冒険者がよく倒すモンスターだ。
「あの、このテントやっぱり持って入らないといけませんか?」
「置いて行ったら盗まれるだろうが」
そう思うならあのまま預けておけばよかったのに。
「ほら行くぞ」
「はい……」
はぁ。今日で僕もEランクなるまでレベルを上げて、どこかのギルドに入らないと。
「お前、ちゃんとそれ守れよ!」
僕は、ゴブリンと戦う為にテントを地面に置き剣を抜いた。Fランクの冒険者がこんな荷物を持ちながら戦闘なんて出来るわけがない。
「わかっています。移動する時は持っていきますから」
凄く自己中なマイケルさんと、マイペースなミーチさんとこのダンジョンの最階層の3階まで到着。ゴブリンを倒し荷物を持って移動を繰り返し、流石に疲れた僕は腰を下ろし壁に寄りかかった。
「僕、もうダメ」
「だらしないなぁ」
「あのね! 荷物を持って歩いているんだから疲れるのは当たり前!」
「あぁ、はいはい。じゃ戻る? オレ、ちょうど今レベル上がってEランクになったわ」
「本当? 私はあとちょっとかしら」
いいなぁ。荷物があるから近づくゴブリンしか相手にしていないからレベルなんて、2つしか上がってない。やっぱりまだFランクのままだ。
でももういいや。一階でなら一人でも大丈夫そう。荷物を持っていない分楽かもしれない。いい勉強になったよ。
「僕は、戻ってもい……うわぁ」
立ち上がろうとした時、突然壁が抜けた。いやぽっかりと穴が開いたようで、僕はひっくり返った。穴自体は、四つん這いにならないといけないほど小さいが、そこから続く通路は、人ひとり歩いて通れるほどの高さがある。
「え? どうなって……」
「マジか! 隠し通路じゃないか?」
「ここに隠し通路があるなんて聞いた事ないわよ」
二人が、興奮して言う。僕が帰ろうと言ってもこの二人は、この通路の先に行くと言うのだろうなぁ。
「さすが、無駄に運だけ高いだけあるな!」
それ、全然褒めてないですから!
僕にしたら、これは運が良いとは言えない状況だよ。もう帰りたかったのにぃ!
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