第22話

さて、くのいちの鷹が清洲城の中から破壊工作を開始した頃、その外には北畠具教の弟である木造具政が五百の兵で着陣していた。


とは言っても、たかだか五百の兵で清洲城が落とせるとは誰も思っていない。あくまで押さえとして、ここにいるだけである。本隊に比べてどうしても弛緩した空気が流れているのは避けられなかった。


「はぁぁぁー眠いなーはやく戦終わらないかな」


「こら、滅多な事を言うな。見ろ、木造具政様は険しい顔してるだろ。俺たちも見習おう」


そんな兵士達の声は木造具政には届いていない。彼は今それどころではないのだ。自分のこれからの人生がかかっている。


(はたして思惑通りに織田信長は、北畠具教を討ったであろうか……いやいやあんなバカ殿、絶対に信長にやられているはずだ)


木造具政は織田信長と通じていた。その為、北畠家中の情報がガバガバと漏れていたのだ。しかし最後の最後になって、木造具政は本隊から外れてしまった。


(まさか謀が漏れたのか……いやそんな事はないはず。ともかく信長が勝てばよいのだ。伊勢は俺が仕切る)


そんな邪な思案に暮れていた頃、早馬が木造具政の陣に到着した。謀をしている木造具政は本隊の動向をすぐ知るように段取りしていた。最速で情報を知る必要があるからだ。


「御注進!!御注進でござる!!」


「おお、戦は……戦はどうであった?」


「お喜びくださいませ、お味方の大勝利でございます。信長は義元殿の首印を取るも、我が方の攻撃に耐え切れず、信長は討ち死にいたしました。一番槍、そして一番首は雪姫様にございます」


「なんだと!!!!!!」


思わず木造具政は尻餅をついてしまった。そっそんな馬鹿な話があってたまるか!!


「どうされましたか。兎にも角にも後は本隊の合流を待ってから、清洲城攻めになると思われまする」


(まずい……まずいぞ……)


木造具政は必死に頭を回転し始めた。信長が死んだ以上、策略は瓦解した。それだけなら兎も角、もし自分の裏切りがばれたらどうしようかと。善後策を考えなければ。


「おお我が殿はすごいな。これで尾張も我等の物!!」


「いやいや今川家との協定がある」


「なんの我が北畠勢の働きが無ければ負け戦よ。ガタガタ言うなら今川と手切れすべし」


木造具政の家臣達は好き勝手なことを言っている。しかし次に木造具政が言った言葉がそんな高揚とした心に冷水をかける。


「……攻めるぞ」


「木造具政様、今なんと?」


「今から我らだけで清洲城を攻め落とす!!」


家臣達が木造具政を取り囲むように駆けつける。


「お止め下さい、我らの兵力ではいくら手薄な清洲城とて落とせません。ここは本隊の到着を待つべきです」


「そうです、もう体勢は決着しました。なにも無理しなくても……」


必死な表情で家臣達は説得している。なにせ死にに行くようなものだ。


「ええい、煩い。よく聞け。このままでは我ら木造勢はなにもしなかったと言われるぞ。論功行賞でまともな評価はされん。ともかくいいからとっとと用意しろ!!」


木造具政は怒鳴りつけながら部下達に指示を出した。もちろん理由はそれだけではない。


(ともかく本隊よりはやく書状を見つけて始末せねば。見つからなかったら信長が隠していそうな所をすべて燃やすのみ)


木造具政隊は大慌てで準備を始めた。すべては保身の為に……



清洲城の中を鷹が走っている。いかにも慌てているように見せながら。その鷹の前に二人の武士が立ちふさがる。


「待てい、女。なにをそんなに慌てている!!」


「大変で御座います。今早馬が着きまして、織田方は壊滅したと。はやく帰蝶様にお知らせしないと」


「なにそれはまことか!!」


「嘘を言ってどうなりますか。ああ早くお知らせしないと」


鷹は取り乱した様子で早口でまくしたてる。まるでFX相場でお金を溶かした人みたいにあわあわとしている。最近の相場で、どんだけ被害者が出たんだろう。ああまた脱線した。


「あい分かった。我らも知らせに走る!!」


そう言って二人の侍はあわてふためきながら走り出した。その二人が見えなくなってから、鷹はべーと舌を出した。


「まったく簡単に引っかかるんだから。まあ悪い話ほど広がるのが早いんだけどね。さてと次はどうしようかな」


他にもあちこちに仕掛けがある。いいタイミングであちこち爆発したり、煙が出たりする手筈になっている。


「えっなに?どうやってやるんだって?そんなの忍法○○と言っておけばヘーキヘーキですよ」


鷹がいい加減な事言ってると、どこかから押し太鼓の音と共に歓声が聞こえ出した。


「やーやー、我ら木造具政勢がこの清洲城を頂き申す!!!かかれーーー!!」


ちょうどその時、木造具政勢五百が全力で正面から突っ込んできた。もうなんかみんな必死な顔をしている。無茶苦茶な行動だからだ。死にたくなかったら城を落とさないといけない。変な意味で士気が高かった。


「なっなんだ。敵だ!!敵が突っ込んできたぞ。門を固めろ!!」


織田守備隊はかなりあわてていた。なにせほとんどが信長と共に野戦に出ており、城の中はほぼ空っぽに近かった。まさかそれに気付いたかもしれなかったからだ。


(城の中に入れたら、もう……お終いだ……)


木造具政隊の先頭は大きな丸太を持っている。それで門を突き破る為だ。普通なら簡単に開くわけがないが、とにかく丸太を門に当てる。


バコーン!!!パカッ!!


「……あれ、簡単に開いた……」


あまりに簡単に開いたので木造具政勢も織田守備隊も呆然としている。門のつっかえ棒には鷹が切り込み入れた脆い素材にすり替わっていた。まあ忍術だからね、簡単簡単。


「止まるな!!かかれーーー!!」


一瞬停止したが、これ幸いに木造具政隊は城内に入り込む。その時、城の彼方此方から鷹が仕掛けた爆弾が爆発がおこる。


「うわーー敵は大軍勢だ!!もう駄目だ。逃げろ!!」


織田守備勢はもう抵抗をほとんど見せていない。そんな様子を鷹は隠れてみていた。


「……雨降っていたから火薬の量増やしてけど、ちょっと増やしすぎたみたい……」


ボン○ーマンの連鎖のように次々轟音が轟く。そしてその中、木造具政隊はドンドンと城の奥に向かって行った……

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