第20話 余計なことは聞かない
昼休み、わたしは給食を食べた後、
わたしたちは、エレベーターに乗って、三階でおりると空き教室を目指す。
ほどなく、空き教室から羽音のようなプロペラ音が聞こえてくる。
わたしは、教室に入ると、その部屋のあるじにあいさつをした。
「こんにちは、アリアちゃん」
アリアちゃんは、返事をしない。ドローンの操作に熱中しているからだ。
アリアちゃんが操作するドローンは、きれいに椅子の下の中心をくぐりぬけると、そのままドローンを自分の足元に停止させる。そして、わたしたちの方にふりむいた。
「こんにちは!」
「だれ? この子! めちゃくちゃ美少女じゃん!」
「一年生の
「蟻戸……くん? え! もしかして、男の子なの?」
わたしは、アリアちゃんの震えがさらに大きくなったのを見逃さなかった。
「うん。わたしたちは、アリアちゃんって呼んでいるの」
「へー、そうなんだ。めっちゃカワイイ。よろしくね、アリアちゃん!」
「その制服すっごく似合っている、そのピンクのヘアピンも可愛い! いいなぁ、アタシ、ピンクって絶望的に似合わないんだよね。ほら、ガサツオーラが全身からあふれているでしょ?」
そう言うと
ちょっとうれしそう。
完全に、
わたしもこの
でも、
「で、これがドローン? いがいとちっちゃ!」
「……もっと小さいのもあるよ……」
「これ、アタシでも飛ばせるモノかね?」
「……うん、コツをつかめば……」
アリアちゃんが
「手、のっけてみろよ」
「プロポをにぎってみて?」
すごい!
まっすぐプロポを持てている。これなら、操作中にずれていくこともなさそう。
「どう?」
「うん。持ちやすいと思う」
「良かった。改良して欲しかったら、いつでも言ってくれ」
「ありがとう……」
「じゃ、早速レースやってみるか」
「うん」
わたしがプロポから目線をあげると、こっちをじーっとニヨニヨとみつめている
「じゃ、いつもの、机と椅子をくぐるチェックポイント式で」
ふたりの視線に気がついていない
となりにいるアリアちゃんは、ほほが赤くなっている。
(わたしもあんな感じになっているのかな……)
「それじゃあ磐田、スタートの合図をやってくれない」
状況を全く理解していない
「はいはーい、二人の門出をいわえばいいんだね」
「ちょ……やめてよ!」
いくらなんでもやりすぎだ! わたしは
「あぁ。天才ドローンレーサー、斑鳩露花、誕生の瞬間だ!」
って、ワケのわかんないことを言った。天才ドローンレーサー? それって、買いかぶりじゃないのかな……だってわたし、部員の中で一番ヘタッピだもの。アリアちゃんのまちがいじゃないのかな?
「え? 露花ってそんなに上手なの?」
わたしをからかっていた
「あぁ。間違いない。試合をやってみればわかるよ」
え? え? めちゃくちゃハードル上がっていない?
わたし、
「そうなんだ、露花、がんばれー。勝ったらアイスをおごってしんぜよう!」
アルミのプレートを置いただけで
「ちょ、ちょっとまって、集中するから!」
ひさびさにアレをやってみよう。
わたしは、けっこう動く右手で、親指しか動かない左手をつかんだ。そして、胸の高さまで持っていくと、つかんだ左手を手放す。
力なく落下する左手の親指が、心臓に「トン!」と突き刺さる。そして左手の親指にありったけの力をこめて、「くいっ」って上にあげる。左手がほんの少しだけ上を向く。
気持ちが落ち着いていく。中学新記録の四メートルを飛び越えることができた無敵のルーティーン。左の親指はこれだけ動けば十分だ。これだけ動けば十二分にプロポを操作することができる。
わたしは、左手を右手でつかんで胸の前にもってくる。そして、右手でプロボをつかんで左手の動かない上に乗せる。左手の親指は、ちょうど左スティックのところに収まった。
「いつでもいいよ!」
わたしが答えると、
「ルールはわかんないけど……よーい! スタート!」
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