第19話 一番気になっている人

 わたしが遊梨ゆうりとおしゃべいるしている最中も、教室にぞくぞくとクラスメイトがやってくる。そして、もうひとりライバルがやってきた。最近できた一番のライバルで、一番気になっている代打くん。


「斑鳩、できたぞ!」


 代田だいだくんは、教室に入るなりゴキゲンだった。ゴキゲンで、一番うしろのわたしの席に、金具のついたアルミ版を置いた。


「まだ試作一号だけど」


 代田だいだくんはゴキゲンだ。クラスのみんなが、こっちを見ている。ちょっと恥ずかしい。


「あ、あとお土産のマカロンありがとな! おいしかった!」


 あ……。


 そ、それ言わないでほしかった。わたしは、目の前の遊梨ゆうりの目が、きらりんと光ったのを見逃さなかった。

 遊梨ゆうりは、ねこじゃらしを捕まえようとするネコみたいに瞳をまんまるにしてランランとかがやかせながら、代打くんに話しかけた。


「え、なになに、代打くん、きのう露花ろかとなんかあったの⁉︎」


 そう来ると思った。絶対そこをふかぼりすると思った。


「昨日、俺ん家に、来てもらったんだ」

「ほほう! なになに、露花ろか代田だいだくんにオシャレして家にマカロンもって遊びに行ったと! そんでそんで?」


 お、オシャレしたとは言ってないでしょう! し、したけどさ……。


「俺と斑鳩、ドローン部だろ? だから、斑鳩がプロポ操作するところずっと見ていたんだけど、操作がやりづらそうだったから、プロポを置く台を車椅子に付けたらどうかなって思ってさ、斑鳩の車椅子を採寸させてもらったんだ」

「ふーん」


 あ、遊梨ゆうりのテンションがちょっと下がっている。(なんだ、デートかと思った。つまらん)ってハッキリと顔に書いてある。

 遊梨ゆうりはすっかり興味をうしなっていたけど、代田だいだくんはちょうしに乗って話をつづけた。


「斑鳩の車椅子のサイズに合わせてさ、取り外しができるテーブルを作ったんだ。車椅子の左に装着して、プロボをテーブルの上に置いて操作できる。これで、足にはさむよりもだんぜん安定するはずだ! 昼休みに早速試そう!」


 代田だいだくんは、うれしそうだ。でも、わたしはそれどころじゃなかった。クラスのみんなの目がわたしと代田だいだくんに集まっている。そして、目の前にいるわたしの親友が、興味を盛り返していた。


「ふーん、つまり露花ろかの車椅子専用のテーブルってことか。それを代田だいだくんが作ってあげたんだ。すっごーい」


 遊梨ゆうりは、まるで猫のように、まんまるの瞳をランランとかがやかして。代田だいだくんとわたしをかわるがわる見て、ニヨニヨと口元をあげている。そして、


「なんだかアタシ、ドローンに興味持っちゃった♪」


 って、意味ありげにほほえんだ。


 ドローン部は、正直言って謎の部活だ。だって学校の校庭に無断でドローンを飛ばしたお調子者の男の子と、車椅子の女の子、あと、女子の制服を着た、めちゃくちゃカワイイ男の子。部員がたった三人しかいないクラブなんだから。かなりナゾの部活だ。

 そしてその謎の部活仲間のふたりが、わざわざ休日に会ってナゾの部品を作っているのだ。あやしい、かなりあやしい。わたしは顔を真っ赤にしながら、消え入りそうな声で言った。


「あ、ありがとう……その……放課後、使ってみるから」

「なんで? 昼休みでいーじゃん。アリアがコースを作っているはずだし。斑鳩もすぐに試してみたいって言っていただろう?」

「アタシも昼休みに見学していい?」


 言ったのは、遊梨ゆうりだ。


「アタシ、前々からドローンって興味あったんだよね。ってか、露花ろかが夢中になるってのがずっと気になっていた。そんなに面白いのかなって。でも、放課後はわたし部活だからさ、昼休みなら見学できる。アタシ部活で露花ろかが何やっているのか知りたい」


 遊梨ゆうりは、ニヨニヨと口のはしっこを上げながら言った。


 遊梨ゆうりがドローンに興味があったなんて今まで一回も聞いたことがない。いや、今も興味なんてそんなにないと思う。

 興味があるのは、きっと、わたしと代田だいだくんの関係だ。おやすみの日に、マカロンをプレゼントする代田だいだくんとの関係だ。わたしが休日にオシャレをして会いたくなっちゃう、代田だいだくんとの関係だ。


 そんなことには全く気が付いていない代田だいだくんは、ノーテンキに遊梨ゆうりに質問をする。


「お、磐井もドローンに興味ある?」

「うん、とーーーーーっても♪」


 遊梨ゆうりは、瞳をランランと輝かせながら、とびきりのねこなで声で答えた。そして、わたしのことをとびきりニヨニヨとした笑顔で見た。めざとい……。


「じゃ、決まりだな。昼休み、さっそく実践だ」

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