第一章 その男、進藤長仁 01

 長仁はパジャマから制服のYシャツを着て、ズボンはパジャマのまま、自分の部屋を出て、タンタンと階段を降りる。やる事は決まっている。家族の朝食を作る事だ。今の自分は母が一人、妹が一人といった、三人家族で暮らしている。なので、母は平日は働き詰めの為、平日の朝食は長仁、土日などの休日は母と決めている。

 長仁は一階の台所に向かうと、近くの調理場の蛇口で軽く手を洗う。後ろにある冷蔵庫を開け、中を見渡す。これがいいだろうと手を伸ばしたのは生卵が3個、そしてパックに入っていた丸型のハムだ。

 調理場の下の戸を開けてフライパンと油を取り出し、フライパンをコンロの上に置く。カチッとコンロを点けて、中火につまみを移動させる。フライパンが温まる間、油を少量フライパンに敷き、フライパンを右手で掴んで回し、フライパンをまた置いた。あ、とふと思い出し、換気扇の電源も入れる。換気扇からはゴウゴウという音と共に中のプロペラが回転するのが分かる。長仁は先程冷蔵庫から取り出した生卵を1個ずつフライパンの上で割っていき、均等に分けられるようにそれぞれ離れた位置に黄身を落としていく。作っているのは、一般的な目玉焼きである。

 フライパンに蓋をし、ジュウジュウと音を立てていきく。目玉焼きが焼きあがる間に、後ろの食器棚から平皿を3つ用意し、コンロの火を一度消し、蓋を開けて目玉焼き3つをフライ返しで切り分け、フライ返しですくいながらそれぞれ平皿にのせていった。そして残った油を使ってまた火をつけ、ハムを3枚入れて焼く。ハムを焼いている間、左隣にある鍋に入れてある、昨日作って残っていた味噌汁を温める為、コンロの火をつける。

 その時、キイッとドアが開いた。

「あら、おはよう。」

 声の主は母であった。おはよう、と長仁は言葉を返すものの、視線はフライパンの方を向いていた。視線を母の方に移すと、母は寝巻きではなく、ぴっちりとしたスーツに、右手には小型のバックを持っていた。

 長仁はその姿に一瞬目を移す。

「持ってく物、それだけでいいの?」

 思わず言葉を漏らした。その言葉に、長仁の母----進藤しんどう香苗かなえは、少女のように顔をプクッと膨らませる。一応もうおばさんといってもいいくらいなのだが。

「それだけって何よ。どうせ仕事の時は使わないし、持ってく物は必要最低限、それでいいでしょ?」

「まあ・・・確かにそうだけども。」

 それにしては少なすぎる。財布とかだけならいいとしても、女性なら化粧品とかも必要なのではないかとも思うのが一般論である。そう長仁が思ったのを汲み取ったかのように、香苗は言う。

「大丈夫よ、そんなに心配しなくても。化粧品なら職場のロッカーの方にいれてあるし。」

 いや、そういう事ではない。というか化粧品はロッカーに入れてしまったらマズいのではないのだろうか。

「それよりいいの?味噌汁、吹きこぼれてるけど。」

 と香苗が言うので、長仁はふと視線をキッチンに戻す。すると、ブクブクと味噌汁の入った鍋が吹きこぼれていた。慌てた長仁は直様、コンロの火を切る。どうやら火力を上げすぎていたらしい。何たる失態だ。

「ごめん、もう一回温め直すよ。」

「そうして頂戴。あとフライパンも。」

 と今度はフライパンに視線を移すと、焼いてたハムがバチバチと音を立てているではないか。菜箸でサッと裏返す。どうやらギリギリ焦げてはいなかった。長仁はホッと胸を撫で下ろしたのだった。

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転生学園 〜転生せし者、此の地で再び剣をとる〜 藤 悠希 @yuukifuji

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