4月7日 三半規管バカ弱。

 お昼寝のせいなのか、桜木さんから漏れ出た何かの影響か、少し早く起きてしまった。

 アレク達をダイニングへ呼び、密談。


 嘘が分かる魔道具を請いに、ニーダベリルへ行く案。


『ショナが使うのか』

「まぁ、俺も白雨も無理だしな」

「ショナ、何が心配ですか」

「あの桜木さんですよ、何気ない事でも嘘を付いてるんじゃないかと。先生を疑ってるのでは無く、漏れを疑ってるんです」


「ふーん」

「じゃあ、多数決で」

「はい」

『うん』


 エナさんは何も言わない、そして多数決は可決された。

 貢ぎ物は、実家用にと桜木さんと一緒に買った酒粕の漬け物セットと、お酒。


 アレクと共にニーダベリルへ。


『おう、良いぞ』

『コレじゃ貰い過ぎになるなぁ』

『仕方無いなぁ、コレもだ』


 到着した瞬間にコレ。

 慣れていても驚いた。


 受け取ると直ぐに、子供の様に掲げ、はしゃぎながら奥へと帰って行った。


「あっさりだったな」

「ですね」


 眼鏡とイヤーカフ。

 多分、バレ無いと思う、筈。


 家に帰り試着、気になる。


「気にし過ぎると気にされるぞ」

「勘が良いんですし、どう、答えましょうか」


「俺がやった」

「あぁ、一瞬は誤魔化されそうですね」


『もう少しで起きるかも知れない、寝た方が良いかも』

『うん』

「おう、寝るか」

「私も、お休みなさい」




 早く起き過ぎだ、何をしろと言うのかね。


「寝直せる気がしない」

「おはようございます、お散歩されては?」


「ショナ、犬になれたっけか」

「はい」


 ワンコショナ、混乱するな、犬ショナ、ショナ犬。

 お婆さんになってショナ犬と共にお散歩へ、良いのかショナ犬、尻尾振って。


 近所の人と挨拶しながら、川辺りを1周。


 静か、河川敷まで降りて休憩。


 つい撫でてしまったが、良いのかショナ犬、尻尾振って。


 でも尻尾は嫌なのか、少し触ると避けられる。

 そうやって尻尾の先で遊んで貰い、家に戻る。


 玄関先から浮島へ、ショナには温泉に入って貰う事に。


 若返り、一服、若さって大事。


『早起き』

「おう、低値抜けると直ぐコレよ」


『ならココで寝起きしたら良い、吸い上げて調節する』

「甘やかす」


『普通に追い付く為』

「口が上手くなりましたな」


『君のせいだと思う』

「さーせん」




 温泉から出ると、マーリンさんと何かを楽しそうに話していた。

 桜木さんが遠くから眺めていたのは、こういった感情での事だろう。


 見劣り、引け目、自分は邪魔になる、立ち入ってはいけないのではと云う感情。

 だから、遠くから眺めるだけ。




 もう、ポツンと待たれると犬に見えてしまいそうになる。

 忠犬ショナ犬。


 こうして人間扱いしない事で心のバランスを取っているのか、距離を置いているのか、両方か、気付いて無い何かの全部か。


 もう犬化は止めて貰おう、アレク犬にしとこう。


「お腹、空きませんか?」

「まだちょっと、運動を、太極拳でも学ぼうかと」

《教えてあげるわよ》


 突然現れた女媧さんに太極拳を習うとは、なんつー贅沢。


「キッつい」

《そうよ、めちゃんこキツいんだから》


 キッつい、体がポカポカして来た。


 そしてお腹が減って来た、休憩に時計を確認、蜜仍君が起きる時間。


「ありがとうございました、お酒か甘味か」

《砂糖漬け、濃い八重のが良いわ》


「少しばかりですが」

《気が向いたら、また教えて上げても良いわよ》


「はい、どうもでした」


 ツンデレ、ツンデレ興味無いけど、照れられると可愛いと思ってしまうモノなんだな。

 不思議。


 一軒家に戻ると、蜜仍君にランチプレートを強請られたのでご提供。

 そのままプレートを一緒に食べながら、次は朝食プレート、ケバブプレートと食べていく。


 野菜が足り無いよな。


 蜜仍君に洗い物を任せ、道の駅へ。

 早朝からやっているので、省庁に向かい車を受け取り道の駅へ。

 コレで大量に買っても怪しまれない。


 思ってたのとは少し違う道の駅、お年寄りがわんさか。

 病院に集まるよりは健全だが、従業員まで高齢者の方々とは。


 コレ、どっちで、どれで行くべきか。


「僕だけ行きましょうか?」

「いや、どれで行くか悩んでるんだわ」


「紫苑さんで消臭剤を確かめてみては」

「なるほど、そうします」


 後部座席から家に戻り、着替えて道の駅へ。

 アンクレットと指輪、コレでどうなるか。




 魔道具すら付けたのに、いや、付けたからなのか普通に歓迎されている。

 同性カップルとして、しかも悪ノリして普通に受け入れちゃうし。


 買い物が終わった後、広場に招かれてしまったし。


「あの、鈴藤さん」

「それ、新鮮だわ」


 お年寄りから歓声が、一挙手一投足大盛り上がり、ホイホイ貰い物は食べちゃうし、飲んじゃうし。

 桜木さんの方が、まだ言う事を聞いてくれるかも知れない。


 そうしてすっかり気に入られ、今の旬やオススメの料理法、美味しいお店に観光名所まで教えて貰っている。


 遠慮無しだとこうなってしまうのか、人懐っこ過ぎると言うか、懐かれ過ぎる。

 第3世界の人達や神々が、如何に心配していたか慮られる。


「そろそろ時間なんですが、お見送りして上げないんですか?」

「あ。帰りますね、また今度」


 お菓子だなんだと貰い、車へ。

 田舎のお年寄りの接待とは、こうなんだろうか。


「何処に移動させれば」

《裏山のじゃな》

『そこを曲がれ』


 山道から山道へ、そして家へ。




「行ってらっしゃい」

「行ってきまーす」


 キラキラ眩しい中学生の蜜仍君、さぞおモテになるだろう。


「見に行こうか」

「はい」


 隠匿の魔法を使い学校へ。


 やっぱり段違いで可愛いな。


 キラキラが飛び交っている、セレーナさん大歓喜だろうに。

 土蜘蛛さんに見せてやりたい、しっかり目に焼き付けよう。


 しこたま楽しみ家に戻った、そして服を着替え虚栄心のお店へ。


「おはよう、爪を磨きたいです」

「こわっ、その予定だったのよ」


 誰かの先読みによってスムーズに爪磨きへ移行された、勿論、足の爪も。


 ピカピカ、ツルツル。


「ツルツル」

「そこまで触り心地重視なの?」


「いや、まぁ、そうなのかも」


 爪が終わると土蜘蛛の里へ。


《おう、お洒落してるねぇ》

「させられてる」

「それ位は普通よ、どうも、虚栄心です」


《シュガーちゃんだろう、宜しく》


 普通に歩ける様になったので、少し激しく動く練習。


 主に宙返りの練習。


 羽衣を装備し、土蜘蛛さんに跳ね上げて貰っての宙返り。


 失敗し、そのまま土蜘蛛さんの懐へ、センス皆無。


「逆上がりすら出来無いもんなぁ」

《ふふ、どこまでもだな》

「それで戦えたのよねぇ、奇跡なのか周りが弱いのか」


《センスだよセンス》

「戦闘のセンス皆無だって言われたぞ?」


《戦闘と運動のセンスは微妙に違うんだ、両方備わってれば良いが、後は思い切りだな》

「思い切りだけで生きてきました」

「でしょうねぇ」


「よし、もういっちょ」


 バク転から始めたものの、酔った。


「あらあら」

「くそー、もー、軽業したいのにぃ」

《良く負けたなショナ君や》

「そうですね、先生爆弾と桜花のお陰です」


「長が来たら秒で負けてると思う」

《最後の最後なら良いぞ、1日だけ働くんだ》


「何年後かねぇ」

《早くその日が来る様に頑張って貰わんとなぁ》


「あ、後で見てよ蜜仍君の周りのキラキラ」

《おうおう、後で観させて貰うよ》


「おう。もう1回、ソラちゃん補助頼む」

《了解》




 精霊の補助有りで、1発で成功してしまった。


「運動音痴では無いのでは」

「そうよねぇ、圧倒的経験不足と」

《三半規管の弱さだろうな、動けまいよ》

「宇宙で過ごせそうも無いのが悔しいですわ」


《漂うは性に合わんだろうさ》

『だな、月にでも住むか』

「輝夜は見目麗しいじゃろ、ふぅ、もう1回」

「ドMよねぇ」

「ご自身にドSなのって何とかならないんでしょうか」


「ね」


 何回試しても治せないのか治さないのか、何度も酔っては蹲り、果ては捻挫まで。


「別に治して頂いても」

「いや、諦める」


 治す事も、根治もせず。

 弱点を残したまま、宙返りやバク転は諦める事になった。


《どうしてなんだ?》

「弱点もそうだが、凝り性で飽き性でヤサグレと、諦めが早いのが特徴」

「したくても、今までは継続出来無かったんものね」


「病気や怪我で出来無い鬱憤溜めてもね、それ以外の出来無い理由にはキレて、もう良いって感じになる、短気」

「説明無かったんですもの、しょうが無いわよ」

《今は何がしたい?》


「化粧落としてお昼寝?」




 土蜘蛛族の里から帰り、一軒家へ。

 虚栄心も一緒、お化粧を落とし寝かしつけて貰う事に。


「なによ」

「昨日、無性だと聞いたんだが、記憶消そうか?」


「別に良いわよ、つかまだ聞いて無かったのね」

「まぁ、良い意味でどうでも良いと言うか、どっちでも良かったと言うか」


「そう、じゃあ女だったら?」

「なんか、それは無さそう、両方かと思った」


「まぁ、ココまでの無乳は珍しいものね」

「無乳だからか分からんが。なぁ、女の従者を増やすべきか?」


「このメンツに?問題が起きたら物凄く厄介そうじゃない?アレクも白雨もエナさんも男なのよ?」

「蜜仍君も、エミールも紫苑も、男多過ぎでは?」


「アンタが偶々玉々置いてきたんでしょ」

「諸々なって、冗談は置いといて」


「別に良いじゃない、ハーレムが羨ましいならアンタが作れってのよ」

「ハーレムなぁ、カエルか野獣の周りに人間のハーレムが有る意味よ、勿体無い」


「勝手に群がって来るんだもの、嫌なら焼き払いなさいよ」

「焼き払ったら魔王認定されちゃう」


「じゃあ、そう言う事で良いじゃない」

「強引」


「はいはい」


 日当たりの良い縁側はズルい。




「ちょっと愚図ったけど大丈夫そうね」


 虚栄心さんの寝かしつけで桜木さんが眠った、愚図ったとは一体。


「愚図ったんですか?」

「女の従者を増やすべきかー、とか、何か有ったの?」


「いえ、情報遮断は継続中ですし、特には」

『エミールとは少し揉めた、体を張って魔王に償いをさせる計画、惚れ薬を使って』

「あら、そりゃエミール君は嫌がるでしょうよ」


「はい」

『納得して貰うのにちょっと掛かったけど、良いと思う』

「良いと思うってアンタ」


『アレクが悪い、嫌がる事が他に無いから』

「まぁ、そうだろうけれど、だからって何もハナに。あ、ショナ君、誰か変身させなさいよ」

「それはちょっと、御本人で無くとも尊厳が」


『ハナは嫌がらないと思うけど』

「効くかよねぇ」


 偽物でも充分に嫌がると思う。


『ちょっと起こしてくる』

「そうね」




 エナにサクラの事で話が有ると起こされた、虚栄心にショナまで。

 不穏。


『昨日の話しの続き』

「無理」


「偽物でも嫌なの?」

「嫌」


「相手が誰なら特に嫌なのかしら」

「全部」


「ショナ君でも?」




 アレクは僕や周りに居る人間ならまだしも、この前会ったばっかりの人間は嫌なんだそう。

 妥協に妥協を重ね、仕方無く、罰の為に見せ付けられるなら、僕らの方がマシだと。


「神様は除外されるんですね」

「だって、嫌がる事はしないだろうから」

「そこが嫌ならまだ良かったのにねぇ、可哀想ねぇ」


 死にたい程度には嫌だから、出来るなら勘弁して欲しいと。

 人間になったからなのか、感情が揺さぶられて。

 桜木さんが望んでる事では無いのに、桜木さんがするのは納得出来無い。


「桜木さんは、本当は、放っといて欲しいんでしょうけど、難しいですよね」


「分かってる、それは本当に申し訳無いと思う」

「ショナ君、抉るわねぇ」

「すみません、いつか、放っておけば、自分の時間が持てるんじゃ無いかと思って、つい」


「それを望んでるのは分かるんだけど、どうしたら良いと思う?」

「1番苦しむ方法を選べば良いじゃない」


「そうなると、サクラも傷付くと思う」

「仕方無いんじゃないの、それをアンタ達が選んだんだもの」

「他の方法でお願い出来ませんかね?」


「あら、何するか分かってるのかしらショナ君は」




 寝て起きたら、アレクは頭上の布団で寝てるし。

 お葬式の様な空気が流れてるし。


「誰か死んだ?」

「アレクの罰についてちょっとね」


「そんな嫌な事はしないが」

「アレクがアンタに見せ付けるって言う変態案が出たのよ」


「あら、それは凄い」


 賢人君に教えて貰った腕ひしぎ逆十字固めをアレクに実践、痛みで起こしてみる。


「いっ、なんで?!」

「寝取られ見せ合いっこ変態プラン立案者への刑罰」


「折れる折れる」

「治してやるから」


「無理無理」

「暴れんな、恥骨が痛いわ」


「ごめん」

「凄いな柔術家は」


「もうちょっと肉付けたら?」

「ですよね、蹴りにも荷重は必要だし」


 戦車と戦うには軽過ぎる。

 そうよな、まだ戦うかもだし。


「つか、今何時?」

「10時前。スクナさん、体重を増やすには?」

『ジャンクとケーキを食べれば良い』


「和菓子でも良いか?」

『うん、また減ってるから仙薬も少し飲んだ方が良い』


「おう、和菓子を買いに行ったらね」


 浅草へ。

 0と同じ浅草、勿論お店は全然違うのだが、仲見世も裏道も構造は同じ、そしてお店はより洗練されちゃって、オシャンティ。


「アレク、勝手は分かってるんでしょう、アンタが買い回りなさいよ、コッチはコッチで忙しいんだから」

「おう」


「じゃ、先ずはコッチね」


 またお着替え、袴は好きだが。

 またお化粧、そして古着屋でお婆さん用の着物漁り。


 安い地味なモノを中心に、着回せる帯も何本か買う。


 少し歩いた所で、また着物。

 今度は良い感じの着物と帯、帯締めや帯揚げも。


 古道具では帯留めや簪を、そしてお寺と神社巡り。


 神様の接触は無し、其々におみくじを引く。


 最初のお寺では印刷ミスなのか白紙、間違いかと思いもう1枚、中吉、待て、と。

 2枚引いたので100円追加。


 神社では末吉、ココでも待てと。


「まさかの待て、ですか」

「お手」

「控えろじゃ無くて良かったわね」


「ハナ、おかわり。って、なんでひっくり返すのよ」

「反対でしょ」

「反対の手って、そうじゃ無く」


「知ってる」

「良かった、そこまでバカじゃなくて」

「関節可動域無視ですもんね」


 そしてご休憩、テラスの有るカフェとかお洒落過ぎ。


「何よ、他にする?」

「見世物化するやんな」


「見せつけようとしてる癖に、行くわよ」


 ご尤もだが。




 アレクも休憩にと呼び出すも、桜木さんは余計に落ち着かない様子。

 見た目の良い人間が増えたのだ、居心地が悪いんだろう。


「大丈夫ですよ桜木さん、他の人の見た目からはアレクも変わらないんですし」

「そうか、そうよね」


 やっと落ち着いてケーキを食べ始めた、お婆ちゃんの姿が1番落ち着きが有るかも知れない。


 そして落ち着いたと思ったら、女従者の話へ。

 着付けやヘアメイクのチェックに、慣れるまで、午前中だけ等の時間帯限定で受け入れたいと。


 コレには虚栄心さんも反対はしなかった、向上心は認めるから、後は柏木さん次第だと。


 そのままの格好で次は省庁へ、お年を召した方には弱いのか、柏木さんに袴姿を写真に撮られても顔は隠さなかった。


「では、どの方が宜しいでしょうか?」

「任せます」


 コレにはネイハム先生も必要なので、アレクと共に先生の家へ。


 エロいとは、こう言う事を言うんだろうか。


 僕らだからか着替えもせず、少し話して書類を返して来た。

 最初に担当した女性、年齢が高い方が良いらしいそうで、戻って桜木さんに再確認しても了承を貰えた、無理している気配も無し。


 そして浅草に戻り昼食、フカヒレそばとアワビそばに感動していた。

 この家の子になる宣言では無く、毎日通いたい宣言、スープの味と麺にドハマりしたんだそう。

 スープの完飲を我慢するレベルのお気に入りに、調べておいたハマグリラーメン屋も気に入ってくれるだろうか。


「ドハマりじゃないの」

「ラーメンに飢えてたのかも知れない」

「でしたら、もう1軒オススメが有るんですけど」


 山の手の高田馬場、お店が小さいので虚栄心さんとアレクは和菓子屋巡りへ。


「なんでもっと早く言わなかった、ココんちの子になるわ」

「ですよね、気に入って貰えて良かったです」


 そこから少し歩いて神社へ、そしてお寺へ。

 神社のおみくじは小吉、お寺では吉、待ての連発。


「もう、待つけども」

「こう、向こうでも連続したんですよね?」


「おう、年単位でな」


 僕のは待ても控えろも慎めも無し、桜木さんのは必ず何処かに待てが入る。


「向こうでも、実は神様の影響が有ったのでは」

「そう思っちゃうよねぇ」


「はい」




 待て待て言われたが、用事が有る。

 袴を返し服に着替えて浮島へ、化粧を落とし温泉へ。


 紫苑になり苗木屋へ、虚栄心は浮島でお留守番、アレクは和菓子の買い出しへ。


「あ、どうも」

「どうも」

「こんな小さいのに良い苗木が有ると聞いて来ました、食用花のオススメを見せて下さい」


「はい、ふふ」


 元気そう。


 試しに咲いていた薔薇の花を嗅いでみたが、合わない。

 紫苑で合わないと、多分花子でも合わない。


「臭いっすね」

「匂いがキツい方なので、好きな匂いはどんなのですか?」


「ジャスミン位しか分からないかもです、スミレはダメだった」

「んー、バニラは?」


「ちょっとタルい」

「そうなると、コレが良いかも、無臭なので」


 矢車菊の種、ガクごと乾燥させてハーブティーにも出来るんだとか、無味無臭、初心者にオススメだそう。


《くふふふ、初心者じゃと》

《優しい子ね、ふふふ》


 外野よ。


《お主が好みそうなのはコレじゃよ》

《それにコレも》

『あぁ、それは良い香りだぞ』


「小さいのにコレとコレを」

「はい、ありがとうございます」


 カモミールの種や鉢も買い、お会計。

 紫苑にもショナにも特に無し、無しと言うかガッカリしてる様な、ごめんな。


「ありがとうございました」

「いえいえ、コチラこそ。また来て下さいね、小さい方も」


「言っときます」


 浮島で虚栄心を回収し、一軒家へ。

 花子に戻りお昼寝。




 アレクを早く起こしたので、今日はアレクをお昼寝させる。

 桜木さんの頭上に蜜仍君用も敷き、頭合わせに丁の字に布団を配置したのだが、アレクが躙り寄っていく。


「ふふ、アンタもこの前こんな感じだったのよねぇ」

「へ、誰かがやったのかとばかり」


「無い無い、ほら、画像」


 僕が、桜木さんの方へ。

 恥ずかしい。


「気を付けます」

「この前ハナにも観せたんだけど、悪く無い感じだったわよ」


 嘘では無いのが嬉しい様な、恥ずかしい様な。


「小さくて、無害そうだからですかね」

「そうねぇ、小さなカエルと野獣姫って成立するのかしらね」


「面食いでらっしゃいますし、先生のフェロモン凄かったですし」

「あぁ、直に接しちゃったら自信無くすのも無理無いわよ」


「元から無いので、ショックを受けると言うより、羨ましいなと」

「経験すれば、分かるんじゃ無いかしら」


「誂われる事は有っても、好かれる方向にはならないかと」

「そうねぇ、ふふふ」


『おはよう』

「おはようございます白雨さん」


『アレ、割って入った方が良いんじゃ無いか』

「そうね、ちょっと寝ときなさいよ」




 ショナの寝顔はやはりレア、寝癖が少し有るので寝たのは分かるんだが、寝顔に遭遇出来無い。

 アレクはまだ寝てる。


 4の字固め。


「なんっ!?」

「おそようございまーす」


 アレクを痛めつけているとエミールがやって来た、ちょっと前に起きていた蜜仍君も一緒に食事。


 エミール式フルブレックファスト、コチラは和菓子。

 仙薬を飲みながらエミールを眺める、最初から紫苑だったら平和だったろうに。


「瞬発力は有るのよね、瞬発力は」

「なに、ワシ、まだ脳味噌働いて無いんだが」


「分析してんのよ」

「ほう、紫苑の事を考えてる」


「本当に飽き性ね、ちょっとウチに来なさい」


 ショナと虚栄心のお店へ、紫苑用のコルセットベスト、ぴっちりピッタリ。


「エロい、動き難い」

「礼服用だもの、動くならコッチ、ハーネスタイプ」


「エロい、動き易い」

「次、脱いでコレ」


「再現したんかい」

「だって、気になるじゃない」


 紫苑のホットパンツは恥ずかしいが、ヒールの有るニーハイブーツを履くと、あら不思議。

 コスプレってだけで余裕。


「抱けるわ」

「紫苑を好き過ぎよ」


「ナルシスト?」

「バランスの問題ね、花子で同じ感じになれば良いんだけれど」


「乳がエロ過ぎる」

《ございます》


「なにが」


 泉から出て来た指輪、填めるだけらしいが。

 紫苑の格好で色欲のお店に行きたい。


「紫苑で楽しむのはまだ先よ、それ試しなさい」

「へい」


 無乳化の指輪、製作者はベリサマ。

 神か、神だったわ。


「じゃあコレ着けるわよ」


 素肌用、エロい。


「乳が無い方が逆に丁度良いエロさ」

「アンタ的にはね、他のにしてみたらどっちだってエロいわよ」


「なんで?認知の歪み?」

「でしょうよ、アンタだって胸だけにエロスを感じるワケじゃ無いでしょう」


「まぁ」

「召喚者に王道は有っても普通なんて無いんだし、良い意味で、もう誰も普通を求めて無いんだから、どんな格好でどう過ごしたいか選んでも良いのよ?」


「まだ、オッパイ要らない」

「そうちゃんと言ってくれないとね、我慢する場所としなくて良い場所を自分で選びなさい」


「お仕事の時も、出来るならまだ無い方が良い。家でも、邪魔だけど、線引きには有った方が良いのかも」

「迷うならどっちか」


「お仕事の時にお外はオッパイ有りでも仕方無い、家は無い方が良い」

「うん、そうやって共に生きるの、矯正じゃ無く共生ね」


「オッパイ嫌いじゃ無いんだけど、ごめんなオッパイちゃん」

「まぁ、生殖に問題は無いんだし、新しい段階の世代の感覚なのかも知れないわよね」


「ニュータイプか」

「希望的観測よ、男性が女性化して、なら女性は?その流れなら無乳こそ至高じゃない、外見の性差無く下半身だけの違い」


「孔雀のオスが地味になるのは嬉しく無いんだが」

「オッパイ好きだものねぇ」


「完全に均等で同じは、アンドロイドで充分かと」

「特注じゃ無くて良いの?」


「カスタムするかもだけど、特注はしないかも、どうせ家に囲って愛でるだけだし、他と比べ無いから」

「囲いたがりよねぇ」


「嫉妬深いので」

「嫉妬深くあって欲しいのよね」


「そうだね」

「よし、紫苑になってご覧なさい」


「サイズ合うのね」

「アンタがどっちでも気に入るのが前提だもの」


「オッパイ有りでも?」

「やってみなさいよ」


「エロい、ケツが胸に有る」

「違法ロリババァ感が有るのよねぇ」


「合法なんよなぁ、やっぱり化粧か」

「そうよ、正解。オススメはこんな感じだけど、頑張れそう?」


「シンプル、おう」


 自分の容姿を多少は受け入れられたかも。

 ただ、見せびらかせ無いのが残念だ。


「うん、良いわね」

「見せびらかせ無いのが残念」


「見せちゃう?」

「ショナは無理だぁ」

《ルーネに送られては》


「あぁ、良いんじゃ無い?」

「良いんかい、エロ過ぎでは」


「じゃあ、次の試着ね」


 どうしても胸に目がいってしまう、胸有りを特定の人間に見せるのは無理。

 ただ胸無しは桜木花子の象徴でも有るし。


「無理ですね」

「まぁ、徐々によね」


 胸無し花子、今はまだコレが至高。

 コレなら多少フェミニンでも大丈夫、明日以降の洋服セットが少し変化した。


 ちょっとずつだ。




 無性とは言え、今回はかなり長かったので少し心配になっていたのだが、桜木さんは凄く機嫌良く出て来た。


「暫く無乳に戻ります、お仕事は乳有りで頑張ります」

「楠も、よね」


「おう、ちょっとずつにします」

「はい」

「じゃ、私はちょっと寝るわ、じゃあね」


「うん、おやすみ」


 胸が無いからか虚栄心さんとハグし、一軒家へ。


 鼻歌交じりに一服。

 機嫌が良い、そんなに嫌なら。


「そんなに嫌でしたらご相談頂ければ」

「そんな、凄い嫌と言うか、慣れなくてはと手一杯でして。改めて確認されて、嫌と言うか邪魔だと再確認した感じ。自分の、邪魔じゃ無かった?嫌だった?」


「邪魔だとは思いましたけど」

「そうなんよ、人生の半分もコイツと一緒に居るワケじゃ無いから、ただただ異物感なのよ、嫌と少し違う、他人のなんかは宝だし」

『持て余す』


「エナさんソレや、そんな感じ」

「すみませんでした、まだ足り無いんですかね経験が」


「寝る時とか特に邪魔なのよ、こう、横向きとかでズレるし」

「すみません、それは体験して無くて」


「ブラ無しで外出」

「ちょっと遠慮したいですね」


「有るってだけでブラ無しで歩いてる感覚」

「それって凄い、嫌な感じで邪魔ですね」


「なのよ、ブラ無いとか有り得ない」

「はい、それは凄い分かります」


「なんか、初めて理解して貰えた感じ」


「え」


 理解は示して、示して無かったかも知れない。

 否定と言うか、抑え込む感じばっかりで。


「あ、なんかごめん、明確に理解を示されたのが」

「初めてですよね、多分、そうです」


「なんで落ち込む」

「理解はしてたつもりなんですけど、示してはいなかったなと、全く意図せずで、すみません」


「そんなに罰として女を体験したいか?」

「そうなります?」


「今更アレコレ理解してますと言われるのも違和感が有るし、理解して貰うのは、普通に嬉しいし」

「具体的には、何を?」


「走ったり跳ねたり寝転んだり、ブラ有り無しで」

「はい」




 祥子しょうこちゃんに指令を出し、庭仕事。


 余程過酷だったのか、赤面しては何か言おうとして言葉に詰まり、また赤面して作業へ戻る。

 ショナに戻る様にとお風呂に行かせるも、まだ言葉が出ないのでお布団に行かせた。


「過酷過ぎたんだろうか」

『女性なら大概は通る道、仕方無い』


 矢車菊、カモミールを鉢に植え、薔薇も開花させてみる。

 青白い薔薇は爽やかでほのかに甘い、白い薔薇はハーブや草感で臭く無い。


「嗅覚まで把握されてしまったか」

『うん』


「ショナ、お花ですぞ」


「良い匂いです、はい」

「コッチは」


「はい」

「カモミール」


「はい」

「はい」


「すみません、体の感覚が消え無くて」


「犬の時、尻尾嫌だった?」

「はい、ゾワゾワしちゃうんで、くすぐったい感じなんですよ、今回も」


「な、全ての男性が知れば良いのにな」

「はい、すみませんでした」


「いえいえ、ブラって最高ですな」

「はい」


「感想を擬音だかオノマトペでどうぞ」

「きゃーーですね」


「ウケる、寝てリセットしては?」

「そうしときます」


 カモミールと矢車菊の鉢を家に入れ、ダイニングテーブルで勉強する少年達の横で休憩。


 エミール達もいずれ通過する道なのか、ちょっと可哀想。


「そんなに凄いダメージなんですね」

「くすぐったい感覚から暫く離れてたからじゃね」

『僕、まだくすぐったいんですけど』


「ほう」

『しないで下さい、死んじゃうので』

「鍛えるべきでは」


「悩むぅ」

『無理です、死んじゃいます』


「弱点は大事、とっとこう」

『とっとくって、後でもダメですからね?』


「お勉強に集中して下さい」

『もー、返事して下さいよー』


「考えとく」


 ワシが居ると集中しないの。


 ソファーに行き読書。




 夕飯前にアレクに起こされ、軽く準備運動。


 お夕飯は桜木さんのお好みプレート、ハンバーグとエビフライ2本、おろし竜田揚げとパスタグラタン。

 丼ぶりご飯を完食し、長い時間手を合わせ拝んでいた。


「最長ですね」

「粗を探してたんだけど、もっと食べたい以外に無くて」

『ですよねー』

「毎日食べたいですよねー」


 蜜仍君達にも当然好評で、皆さんでソファーに集まり、まったりと余韻を楽しむ。


「アレク、狼になって」

「おう」

「もふもふぅ」


 ちょっとショックと言うか。


 観察するに尻尾の個体差の確認なのか、執拗に尻尾を弄っている。

 アレクは尻尾が嫌では無いらしいが、個体差なんだろうか。


「尻尾嫌じゃ無いの?」

《慣れタ》

「凄い、喋れるんですねぇ」


 大きいからか桜木さんにベッタリ、べっとり。


『良いなぁ、僕も犬になれたらなぁ』

「アカン、イカン、お外で言わないでおくれ」


『あ、はぃ』

「桜木様が変な歌を知ってるからですよぅ」

「お米の歌と魚の歌も有るじゃろ」


 リズさんも鈴木さんも驚く音楽の雑食性、洋楽は勿論、バレンタインを憎悪する歌や、ひたすらに嫌いとシャウトするモノまで。


「マンボウ、食べてみたいですか?」

「そらそうよ、ウミガメはスープじゃろ」

「世界タービンって何です?」




 何処の世界線の馬骨なら、正解出来るんだろうか。


「世界ちゃんの心臓やろ」

『マグマですかね?』

「ワームホールじゃ?地底には」

「怪人が居ますから」


「月にも、火星にも居るし」


「あ、桜木さん、味覚が代償だったんですか?」

「あ、いや、ワシのは単にストレスよ」

「定期的に味覚検査すべきか議論中なんですよねー」

『凄い苦いの使う』


「え、ちゃんと言うから止めて」

「冗談ですよー」

「変身には、やっぱり爪が重要なんですかね?」


「欲しかったんだよなぁ、全員のネイル」

「ありますよ?海外製ですけど」

「やっぱり天王星ですか?」


「勿論、つか冥王星か土星ちゃんも捨て難いなぁ」

「僕が送ったオススメリスト、見てませんね?」


「休みに見ようかと」

「今、実質休みですが」


「へい」


 だってほら、全部欲しいもの。


「明確に線引きするか、それこそ議論の最中なんですが」

「夕飯後は実質休みとします」

「ゲーム有りますよゲーム」

『格闘ゲームなんですね』


 マティアスにもせいちゃんにも、観せとけば良かった。




 休憩後、桜木さんが庭先に一服に出た直後、珍しく白雨さんが寄って来た。


『休憩時間に出来るだけモフモフさせた方が良い、良く感情が出るから』

「そうなんですか?」


『触る癖と一緒に出る』

「例えば」


『さっき、後悔してた。多分、今までの人間に観せておけばって』

「あぁ、でもその時には映画館は」


『だから後悔してる、少し自分を責めてる』

「無茶な」

『ただの人間なんだから、出来る事は限られてるのにね』


『ほら、また触り始めた』


 ボーッと遠くを見ては、長椅子に横たわるアレクを触る。

 黄昏れるとか、物思いに耽る感じ、ただ良い感じでは無いのは分かる気もするが、判別が難しい。


「僕には判別は難しいですし、検討してみます」

『うん』


 そして其々に勉強へ。

 桜木さんも紙媒体の読書。


 そして寝る時も、桜木さんが寝つくまでアレクは狼のまま、一緒に眠る事に。

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