恋心を流星に乗せて②
朝から晩まで、地球人である彼女らをなめまわすようにじっくりと観察した結果、僕はかなり多くの情報を手に入れることに成功した。
まず一番に、この星はおそらく、僕のふるさとである「タアス星」となんら変わりない文明を持ち合わせている。違いといえば、タアス星の生活が星のカケラのエネルギーで支えられているのに対して、地球では「電気」や「
実際、
次に、この「小学校」と人々が呼ぶこの
翔太郎はというと、ちょろちょろっと文字を書いては机に
そして、ここがもっとも重要なところだが……小学校には日直という制度が存在する。なんでも、その日直に選ばれしものは朝は早く、そしてクラスメイトの誰よりも長く学校にいる必要があるそうだ。確かに、今日の日直である翔太郎は最後の最後まで粉をまきちらす機械をうならせながら、
夕暮れ、教室から翔太郎も大人も去り、だれもいなくなったころ。僕はようやくコンパスのボタンを押して、その
ただし、何事にも
無限に近いエネルギーを持つ星のカケラに対して、一度尽きてしまえばその辺の石ころも同然となってしまう星くず。だからこそ、僕のような落ちこぼれにはお似合いなのかもしれない。
「とりあえず、今日はここで夜を明かそう」
そして明日、朝一番で作戦を決行する。なけなしのエネルギーを節約しながら、僕はそんな決意をむねに
しんと
——コツ、コツ。
久しぶりに、夢を見た。
——コツ、コツ。
——コツ、コツ。
つかの間の幸せな記憶、そして。
——コツ……。
両親が
ガラッ!
大きな音で、目がさめた。気がつけばもう朝、僕はあわててコンパスをにぎりしめ、その身をかくす。
それにしても、いやな夢を見てしまった。今ごろ
朝日を反射して光るコンパスのボタンをゆっくりとひねり、まわしていく。七色にかがやき出す僕の体は、昨日理科とやらの授業で見たプリズムそっくりだ。
そして、そっと翔太郎が使っていたつくえから一本のかみの毛をひろいあげる。すると七色の光は
僕の作戦、それはズバリ、翔太郎のフリをすることだ。昨日の話では、ルカは日直の仕事をこなすために確実に朝早く教室をおとずれる。同時に、すでに日直という大仕事を終えた翔太郎はいつも通り遅刻する可能性の方が高い。つまり、本物よりも早くルカに会い二人きりの
ガラッ——。
自分の美しい
「あれ……? 翔太郎、くん?」
むねの
「オハヨウ」
「あ……うん、お、おはよう! 本当に早いね?」
そう言って彼女はしぜんとはにかんだ。おはようと言えたのが、二人きりで話せたのがうれしくてしょうがないと言わんばかりのまぶしい笑顔。その顔を見れば見るほど、だましていることに対する重い罪悪感が僕をおそう。早く、さあ早くカケラを……。
「声、どうしたの? あ、カゼひいたとか?」
おかしい。確かに彼女は僕に、目の前の翔太郎にあいさつをしたはずなのに、願いを叶えたはずなのに、星のカケラが出てくるようなそぶりが
「というか、なんで今日こんなに早いの? 日直……は昨日だし、ほぼ毎日遅刻してることで怒られたとか?」
僕が何も言わない間に、彼女の疑問はどんどんと
「あ、ごめん! 声が出せないのにいろいろ聞いても、いっぺんには答えられないよね……」
まさか、そうか。何を僕は勘違いしていたんだろう。彼女の願いは、あいさつなんてちゃちなものじゃなくて、もっとその先にある……
「え、えっと……もしかして、怒ってる?」
僕は必死でカベに
勝手に思いこんで、バカバカしい作戦まで立てて浮かれて、その上失敗するなんて本当にバカみたいだ。そんな自分がどうしようもないほど情けなくて、気がついた時にはもうこぼれる
「え!? なんで、ご、ごめん! そんな、
違う、こんなはずじゃなかったんだ。はずかしい。止まらない。ここから逃げ出したい、今すぐにでも。
初めて書いた「オハヨウ」の四文字を乱暴に消して、僕は教室を飛び出した。廊下にはすでに、他の生徒がちらほらと見え始めていた。
「まって!」
悲痛な彼女の声などおかまいなしに、僕は
「……まってよ」
最後のルカのつぶやきが、いまだに耳の奥深くに残っている。あそこで泣いた上に何も言わずに逃げるだなんて、本当に取り返しのつかない失敗をしてしまった。願いを叶えるどころか、これではむしろ逆効果じゃないか。
僕はもう、ふるさとには帰れないのかもしれない。父さんと母さんにもう一度会うことも、二人を解放する夢も、今の僕では叶いそうにない。ごめんなさい、ごめんなさい……。
汗と涙がチョークの粉を
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