昼食への誘い

「皆様、はじめまして。カロリング帝国の第一皇女、“ロクサーヌ=デュ=カロリング”と申します。これからどうぞよろしくお願いします」


 ロクサーヌ皇女が王国にやって来た次の日の朝、彼女が教室で自己紹介をする。

 で、子息令嬢達はロクサーヌ皇女のその高貴で厳かな雰囲気……もとい、彼女のあまりの美しさに、完全に見惚れてしまっている。もちろん、オスカーとオットーの二人も。


 ……昨日までは、私の・・リズに見惚れておったくせに。これはこれで、気に入らん。


「ロクサーヌ殿下の侍女を務めております、コレット=シルベストルです。どうぞよろしくお願いします」


 続いてコレット令嬢が挨拶をすると、子息の一部が『ほう……』と息を漏らした。

 彼女もまた、かなり美しい部類に入るが、だからといって節操がなさすぎる。


 ただ……一部の面々は、コレット令嬢が家名ではなく侍女・・と名乗ったため、蔑む視線を送っていた。

 本当に、見る目も知恵もなさすぎる。


「では、ロクサーヌ殿下については、ディートリヒ殿下の隣の席へお願いします」

「はい」


 スーザン先生の言葉を受け、ロクサーヌ皇女が私とリズに微笑みかけながら席へとやって来る。

 そんな中、オスカーを含め教室の男連中が私に射殺すような視線を向けてきた。


 まあ、既に婚約者がいる者達は、同じくその婚約者であろう令嬢に射殺すような視線を向けられているが。


「うふふ、この国の子息の方々は分かりやすいですね」

「……ロクサーヌ殿下、誠にお恥ずかしい限りで」

「いえ。ですが余計に、ディートリヒ殿下の誠実さを実感いたしました」

「は、はあ……」


 昨日からこうやって褒めてくれるのはいいが、その……少しこそばゆいな……。


 そうして、多くの子息令嬢がロクサーヌ皇女へと視線を注ぐ中、私達は授業を受けた。


 ◇


「ロクサーヌ殿下、今日の昼食をご一緒しませんか?」


 午前の授業が終わり、オスカーが爽やかな笑顔を貼り付けながら早速ロクサーヌ殿下を誘いに来た。


 だが、このオスカーにしては珍しく、普段リズに見せるようないやらしい態度ではない。

 こやつのことだから、また失礼な真似でもするのではないかと思ったのだがな。


「そうですね……」


 すると、ロクサーヌ皇女はこちらをチラリ、と見た。

 これは……私の誘いを待っているといった様子だな。


「オスカー、悪いがロクサーヌ殿下は既に私と昼食をする約束をしている。だから、誘うのは次の機会にするのだな」

「へえ……ならマルグリット、兄上がロクサーヌ殿下と昼食されている間、この僕と……「ふふ、私も同席いたしますので無理です」」


 ならばとばかりにリズを誘うが、ていよく断られる。

 そもそも、私がリズと離れて他の女性と一緒になるなど、そんなことはあり得ないというのに。


「まあ、そういうことだ」


 私は席から立ち上がってポン、とオスカーの肩を叩くと、口の端を持ち上げた。


「うふふ、ではまいりましょう」

「ロクサーヌ殿下、ではこちらへ」


 私達は、悔しそうにうつむくオスカーの横を通り過ぎ、教室を出た。

 だが……オスカーの奴、一体ロクサーヌ殿下に何の用があるのだ?


 オスカーの思惑が分からず、首を傾げていると。


「うふふ……知っていますか? オスカー殿下は、外務大臣と共に我が帝国にいらっしゃっている間、と懇意にしていたようなのです」


 そう言って、ロクサーヌ皇女がクスクスと笑う。

 だが、なるほど……今の言葉で、ある程度は理解できた。


 つまりは、シャルル皇子と手を組んでいるオスカーだが、ロクサーヌ皇女とも渡りをつけておきたい……いや、ひょっとしたらシャルル皇子に頼まれて、ロクサーヌ皇女の監視を頼まれているのかもしれんな。


「今日の昼食は邪魔が・・・入らぬよう・・・・・、食堂に特別な席を用意いたしましょう」

「うふふ、ゆっくりできてよさそうですね」


 ニコリ、と微笑むロクサーヌ殿下。

 どうやら、彼女自身も私に話があるようだしな。


「ハンナ」

「かしこまりました」


 私が名前を呼ぶと、ハンナが私達から離れた。

 もちろん、昼食の場を整えるために。


「……見た限り、ハンナ様は普通の侍女、というわけではなさそうですね」

「確かに普通ではありません。彼女は私にとってかけがえのない、大切な侍女・・・・・ですから」


 そう……私とリズの、最初の味方となってくれた女性ひとだからな。


 そうして、私達は食堂へやって来ると。


「お待ちしておりました」


 既に準備を整えたのであろう。


 ハンナが、優雅にカーテシーをして迎えてくれた。

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