パーティーの終わり
「今日は私とマルグリットのためにお集まりいただき、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
ホールの出口で、私とマルグリットは出席してくれた貴族達に挨拶をする。
といってもまあ、半分以上の貴族は既に帰ってしまっている上に、残っている者は第一王妃派……いや、第一王妃派から第二王子派に鞍替えした者ばかりのようだな。
「……どうやら、かなりの数の貴族が、第一王妃から離れたようですね」
「ああ……」
そっと耳打ちするマルグリットに、私は頷く。
なお、彼女にはあらかじめハンナにまとめてもらっておいた、第一王妃派と第二王子派のリストを見てもらっている。
とはいえ、あのサロンで一読しただけでここまで把握できるのだから、やはり彼女はすこぶる優秀なようだ。
「「「ディートリヒ殿下」」」
「やあこれは……バッハマン伯爵にトレーダー男爵、ボルツ子爵も。本日は楽しんでいただけましたか?」
「ええ、今日は楽しいお酒になりました。おかげで気持ちよく眠れそうです」
バッハマン伯爵は、そう言ってニコリ、と微笑んだ。
どうやらあの後も、第一王子派の貴族同士で親交を深めることができたようだ。
「では、
「ええ、どうぞお気をつけて」
三人は、上機嫌で玄関へと向かって行った。
「ふふ……あの御方達が、ディートリヒ様の新たなお味方なのですね?」
「そうだ。だが、君の味方でもあるのだからな?」
「はい。もちろん、承知しております」
私の言葉に、マルグリットは微笑みながら頷いた。
その時。
「やあ、マルグリット。それに兄上も」
「オスカー……」
「…………………………」
後ろから声をかけてきたオスカーに、私達は少々面食らってしまう。
だが、私もいるにもかかわらず、どうしてマルグリットから先に声をかけてきたのだ?
……まあ、マルグリットはといえば澄ました表情をしながら、まるで虫けらでも見るかのような視線をオスカーに送っているがな。
「もうこんな時間なのに、まだ部屋に戻っていなかったのか?」
「あはは、まあ僕もかなり忙しいですから。とはいえ、ようやく解放されたところだから、マルグリットと一緒に夜風にでも当たろうかと思いましてね」
そう言うと、オスカーはマルグリットを顔から上半身、そして足元へと順に見ると、再び顔へと視線を向けた。
そんなオスカーに対し、マルグリットは扇で口元を隠して視線を逸らした。
「馬鹿なことを言うな。私達は客を全員送り出さねばならんし、そもそも私以外の男と二人きりにさせるような真似をするはずがないだろう」
「そうですか? 一応はほら、僕とマルグリットも
……一体、どの口が
すると。
「ふふ……オスカー殿下はおもしろいことをおっしゃいますね」
マルグリットは、扇で口元を隠したままクスクスと笑った。
「そうか? マルグリットが喜んだのならよかったよ。それで……「当然ですが、お断りします」」
嬉しそうな表情を浮かべたオスカーの会話を遮り、当たり前だがマルグリットは断りを入れる。
「ふふ。こう見えて私は面食いなんですの。残念ながら、オスカー殿下では私のお眼鏡にはかないませんでしたわ」
「……へえ。いくら兄上の婚約者だからって、その言葉は不敬ではないかな?」
マルグリットに馬鹿にされたのが気に入らないのか、オスカーは彼女を睨みつけながら凄む。
「ほう? 礼儀も弁えない者が、不敬などと語るか。ならば、第一王子たるこの私の婚約者に対する失礼極まりない振る舞い、加えて、兄である私に対する不敬を、貴様はどう取り繕うつもりなのだ?」
私はマルグリットとオスカーの間に入って彼女を背に庇うように立ち、そう言い放った。
「……まあいいや。では、僕も疲れたので部屋に戻ります」
自分が逆にやり込められたせいで苦しくなったオスカーが、まるで相手にしていられないとばかりにここから立ち去った。
「……品性のない御方。あれでは、仮に王となったとしても、貴族や民衆の不興を買って滅びるか、他国に侮られ、攻め入られて滅ぶかどちらかの未来しかなさそうです」
マルグリットは少しだけ溜息を吐きながらそう呟くが……前者については私の現実だから耳が痛いな……。
「ま、まあ、あのような者のことを考えても、ただ不快になるだけだ。それより……もう客もいなくなったぞ」
「そ、そうですね……」
そう告げた瞬間、マルグリットは少し緊張した様子で返事をした。
「……すいません。私は少々後片づけを手伝ってまいりますので」
「あ、わ、私も同じく失礼いたします」
ハンナとノーラが、そう言ってこの場を離れる。
どうやら二人共、私達に気を利かせてくれたらしい。
「ではマルグリット……行こうか」
「はい……」
私はマルグリットに手を取り、この場を離れて王宮の外へと向かった。
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