弟の策略により命を落とした不器用な冷害王子は、最後まで祈りを捧げてくれた、婚約破棄した不器用な侯爵令嬢のために二度目の人生で奮闘した結果、賢王になりました
あなたに祈りを② ※マルグリット=フリーデンライヒ視点
あなたに祈りを② ※マルグリット=フリーデンライヒ視点
■マルグリット=フリーデンライヒ視点
その後、結局私は近くを通りかかった使用人に見つかってしまい、素性を話したらお父様のところへと連れていかれてしまった。
もちろんお父様は、そんな私をきつく叱った。
でも……最後には寂しそうな笑顔を見せて、私の頭を優しく撫でてくれた。
それから、私は男の子についてお父様に尋ねると、エストライン王国の第一王子であると教えてくれた。
同じ貴族だとは思っていたけど、まさかこの国の王子様だったなんて思いもよらず、私はなんて失礼なことをしてしまったのだと、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆ってしまった。
でも……そんな王子様が、お母様のために祈ってくださったんだ……。
その日から私は、立派な淑女になるために本当に頑張った。
礼儀作法、ダンス、もちろん語学や数学、歴史……その他、様々な勉強を寝る間も惜しんで取り組んだ。
もちろん、ディートリヒ殿下のお嫁様になるために。
そのことを告げると、お父様はすごく困った顔をされた。
使用人達……特に仲の良い侍従の“リア”も、そのことにすごく反対した。
何故なら……第一王子のディートリヒ殿下は、“冷害王子”と呼ばれるほど心が通っておられない人との噂だから。
だけど、私は知っている。
ディートリヒ殿下は、本当はとても優しくて、温かな御方だということを。
もしその噂が事実だったとしても、それは王宮にいる誰かが、ディートリヒ殿下をそのようにしてしまったのだと思う。
だからそんな声に惑わされず、私はただ自分を磨き続けた。
ディートリヒ殿下の隣に立つことを夢見て。
◇
それは、十三歳の春に実を結んだ。
「……マルグリット。お前の望んだとおり、国王陛下はディートリヒ殿下との婚約について認めてくださったぞ」
苦虫を噛み潰したような表情で、お父様が静かに告げる。
ふふ……お父様ったら、まだディートリヒ殿下の妻となることが気に入らないのですね……。
それでも、こうして私の願いを叶えてくださったのですから、本当に感謝しかありません。
「早速だが、来週早々にも国王陛下及びディートリヒ殿下と面会をすることになったので、その心づもりをしておくように」
「かしこまりました」
「うむ……では、下がって良い」
私は表情を変えず、優雅にカーテシーをしてお父様の執務室から退室した。
ですが。
「私が……ディートリヒ殿下と婚約……!」
嬉しさのあまり、私は顔を上気させて口元を押さえながら扉の前で立ち尽くす。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
私は天にも昇る心地で自室に戻ると、リアを呼んでその日に着ていくドレスを入念に選んだ。
本当は新しいドレスを仕立てたいところですけど、さすがにそんな時間はない。
ふふ……ディートリヒ殿下、私を見てどうおっしゃってくださるかな……。
ただ、物静かな御方ですから、表情も変えずに何もおっしゃらないかもしれませんね。
そんなことを考えながら、私は思わずクスリ、と微笑んだ。
◇
そして、いよいよディートリヒ殿下とお逢いする日となり、私はお父様と一緒に王宮へと向かう。
ですが……お母様から譲り受けた大切なペンダントが、今朝、何故か砕けた状態になっていたのは残念だった。
本当は、今日のために身につけておきたかったのですが……。
とりあえず、気を取り直して私は車窓から王宮を眺める。
ふふ……この王宮に来るのも、これで
「む……マルグリット、それほどまで……」
クスリ、と微笑む私を見て、お父様がつらそうな表情を見せた。
……王国内でも中立派を保っているお父様に、まるで第一王子派に属するような真似をさせてしまったことについては、申し訳なく思っています。
ですが、それでも私はディートリヒ殿下と一緒になりたい……あの御方を、支えてあげたい。
あの日のディートリヒ殿下の優しさと、寂しさと諦めを帯びた紺碧の瞳が忘れられないのです……。
「……着いたか」
馬車が停まり、お父様が静かに告げる。
いよいよ……いよいよ、想い焦がれたあの御方に逢える。
私の心臓の音は今も激しく鳴り響き、どうやってお父様に連れられたのか、いつ国王陛下との謁見を済ませたのかも分からず、私は応接室であの御方を待っていた。
そして。
「国王陛下、ディートリヒがまいりました」
「うむ」
とうとう、ディートリヒ殿下がやって来た。
成長したお姿は、あまりにも素敵になっていらっしゃいますが、その黄金の髪と紺碧の瞳は、あの日と変わらない。
「ディートリヒよ、お前の婚約者だ」
国王陛下に紹介いただき、私は何とか平静を装って恭しくカーテシーを……って!?
「王国の星、ディートリヒ殿下に拝謁いた……って、ど、どうなされましたか!?」
「あ……あああああ……っ!」
ディートリヒ殿下が、私を見つめながらぽろぽろと大粒の涙を
私にはこの状況が一切理解できず、思わずおろおろとしてしまう。
「ディートリヒ、いかがした?」
「も、申し訳ありません……どうやら私は、目の前にいらっしゃいます御方の美しさに心を奪われてしまい、感激のあまり泣いてしまったようです」
ディートリヒ殿下は服の袖で涙を拭き取り、すぐに気を取り直した。
その表情に、先程のような感情を一切見せずに。
でも……その紺碧の瞳には、様々な感情を
これは……歓喜? 後悔? それとも、罪悪感……?
それから改めて国王陛下に紹介され、ディートリヒ殿下と私は自己紹介を済ませた。
お父様の計らいで、私はディートリヒ殿下に王宮を案内していただくことになった……のですが……。
「マルグリット殿、どうぞ……」
「っ!?」
なんと、ディートリヒ殿下は私の前で
殿下のような御方が、このようなことをなされるなんて……。
これだけで、ディートリヒ殿下が私に心配りをしていただいているのが分かります。
この御方が、私のために……。
私がディートリヒ殿下の手におずおずと自身の手を添えると、部屋から連れ出して王宮を案内してくださいました。
そんな殿下に私は思わず見惚れていると、それを歩くペースが速かったと勘違いされてしまったのか、謝罪の言葉と共に私の歩幅に合わせてくださいました……。
そして私を気遣って、王宮の庭園でのお茶に誘ってくださったのです。
ふふ……本当に、殿下は表情こそ変わらないのに、私をこんなにも穏やかで安らかで、幸せな気持ちにさせてくださるなんて……。
だけど。
「あれ? 兄上……そちらの女性はどなたですか?」
まるで見計らったかのように、通路の脇から同い年くらいの殿方が現れた。
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