VIPサービス//エアトラフィックジャム

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 ──VIPサービス//エアトラフィックジャム



 東雲と八重野はサンドストーム・タクティカルが襲撃した大井データ&コミュニケーションシステムズの施設を仕事ビズ目標パッケージである森・V・フェリックスのいる研究室を目指して進む。


「クソ。かなり重武装の連中だな。電磁ライフルやら電磁機関砲やらをぶちまけてる。そこら中にミンチにされた死体だらけだ」


「相手は生体機械化兵マシナリー・ソルジャーだ。それにあのコンテナに電磁ライフルだけが入っていたとも思えない」


 東雲が施設内に散らばっている大井統合安全保障のコントラクターの死体を見て呻く。ボディアーマーや強化外骨格エグゾを装備していたにも関わらず、死体はミンチ状態だ。


『東雲。急いで。サンドストーム・タクティカルの部隊がもうすぐ森・V・フェリックスのいる研究所に踏み込むよ。隔壁が爆破されてる。大量の爆発物を持ち込んでるみたい。隔壁は時間稼ぎにならないかも』


「悪いニュースばかりだな。急いでるよ。また馬鹿みたいに広い施設だ」


『大井データ&コミュニケーションシステムズの基幹研究施設だから。情報通信科学においては下手な名門大学よりも何世代も進んだ研究をしてる』


「そいつは結構なことで。それならもっとネットのセキュリティをしっかり固めておいてほしかったぜ」


 東雲はそう愚痴りながらまだ動いているエレベーターを探し出し、八重野とともに乗り込み森・V・フェリックスがいる施設の98階を目指した。


『ジャッカル・ゼロ・ファイヴよりジャッカル・ゼロ・ワン。エレベーターが動いてる。何ものかが向かってきているようだ』


『ジャッカル・ゼロ・ワンよりジャッカル・ゼロ・ファイブ。阻止しろ。まだ我々は目標パッケージを確保していない』


『ジャッカル・ゼロ・ファイヴ、了解』


 東雲たちには聞こえない通信が交わされる。


『気を付けて。敵がエレベーターが動いていることに気づいた。待ち伏せされてる。エレベーターが到着した瞬間に銃弾の嵐だよ。生体機械化兵マシナリー・ソルジャー4名とアーマードスーツが2体』


「オーケー。やってやりましょう」


 ベリアからの連絡に東雲が“月光”を展開させて備えた。


 95階、96階、97階、そして98階でエレベーターが止まった。


「敵を視認! 射撃自由! 撃て!」


 エレベーターの扉が開いたと同時にサンドストーム・タクティカルのコントラクターとアーマードスーツが無数の銃弾を東雲と八重野に叩き込んできた。


「防いだ! 突っ込め、八重野!」


「ああ!」


 東雲が“月光”を高速回転させて銃弾を防ぐのに八重野がサンドストーム・タクティカルの部隊に突撃する。


 八重野が生体機械化兵マシナリー・ソルジャーの懐に飛び込み超電磁抜刀。サンドストーム・タクティカルのコントラクターが首を刎ねられて倒れる。


「敵はサイバーサムライだ! 距離を取れ!」


「アーマードスーツは弾幕を展開。敵を押さえろ。他は精密射撃を心掛けよ」


 サンドストーム・タクティカルのコントラクターたちは東雲たちに向けてサーモバリック弾頭のグレネード弾を叩き込むとその隙に距離を取り始めた。それに加えてアーマードスーツが口径35ミリの電磁機関砲を連射する。


「八重野! アーマードスーツは任せろ! あんたは生体機械化兵マシナリー・ソルジャーをやれ!」


「分かった!」


 東雲がアーマードスーツに向けて“月光”を投射し、そして八重野がアーマードスーツの後方から電磁ライフルで射撃を行っている生体機械化兵マシナリー・ソルジャーに襲い掛かった。


『ゴースト機がやられた。通信系を破壊されたようだ。しかし、火器管制システムFCSは建材。射撃は続行可能』


『撃ち続けろ。友軍を支援するんだ。最後まで』


『了解』


 東雲が装甲を貫いたアーマードスーツはゴースト機──限定AIによる戦況判断と指揮官機からの遠隔操作で戦闘を行う無人機だった。


 装甲を貫かれてもゴースト機のアーマードスーツは射撃を継続した。


「しぶといな! ぶっ潰してやる!」


 東雲が怒り心頭で“月光”を高速回転させて電磁機関砲を乱射するアーマードスーツに肉薄することを試みる。


 だが、そこでアーマードスーツから口径70ミリロケット弾が東雲に対し発射された。


 フレシェット弾のそのロケット弾が東雲の肉を削ぐ。


「いてっ! こん畜生め! これでも食らいやがれ!」


 東雲は強引に傷を身体能力強化で回復させつつ、アーマードスーツに向けて“月光”を投射した。


 2体のアーマードスーツに対し4本の“月光”が投射され、アーマードスーツのアクティブA防護PシステムSが作動するも“月光”には意味をなさない。


 アーマードスーツが今度は制御系を完全に破壊され、ゴースト機も無力化された。


「八重野! そっちはどうだ!」


「仕留めた。少しばかりてこずったが、全員始末した」


「よし。急ぐぞ。目標パッケージに敵が近づいている」


 八重野はサンドストーム・タクティカルの生体機械化兵マシナリー・ソルジャーを皆殺しにし、東雲とともに森・V・フェリックスがいる研究室を目指す。


『ジャッカル・ゼロ・ワンよりジャッカル・ゼロ・ファイヴ。状況を報告せよ。繰り返す、状況を報告せよ』


『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。敵のサイバーサムライによりジャッカル・ゼロ・ファイヴの部隊は壊滅した。目標パッケージの確保を急げ。航空支援は可能だ』


『ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。では、航空支援を要請します。敵のサイバーサムライに対し攻撃を』


『シルバー・シェパード、了解。航空支援はすぐに到達する』


 この交信のすぐ後にTMCのエアトラフィックに異常が生じた。


『東雲! 例の軍用ドローンが大井データ&コミュニケーションシステムズに接近してる! 対戦車ミサイルを下げてるから気を付けて!』


「マジかよ、ロスヴィータ。全く、災難だぜ」


 TMCのエアトラフィックを監視しているロスヴィータが連絡するのに、東雲が大きくため息を吐いた。


「八重野。ロスヴィータからだ。対戦車ミサイルに──」


 そこで巨大な爆発が大井データ&コミュニケーションシステムズの施設の東雲たちがいるフロアで生じ、東雲たちが吹き飛ばされた。


『スコーピオン・ゼロ・スリーよりジャッカル・ゼロ・ワン。近接航空支援CASを実施した。だが、敵は生きてる。支援を繰り返すか?』


『ジャッカル・ゼロ・ワンよりスコーピオン・ゼロ・スリー。継続せよ。ありったけのミサイルを叩き込んでくれ』


『スコーピオン・ゼロ・スリー、了解』


 さらに軍用ドローンから対戦車ミサイルが発射される。


 相次ぐ大爆発から東雲たちは辛うじて生き延びていた。


「クソ、クソ、クソ! 相手が見えないから“月光”で撃墜もできないぞ!」


 呪いで死ぬことのない八重野と違って、東雲はかつて勇者だったときの能力と造血剤で生き延びていた。


『東雲。敵のドローンを撃墜する。まだ生きてる?』


「生きてるよ。やってくれ!」


『任せて!』


 ロスヴィータが大型宅配ドローンをジャックし、TMC上空を飛行中だったサンドストーム・タクティカルの軍用ドローンに体当たりを行った。


 大型ドローンが直上から降下して衝突するのに軍用ドローンに搭載された限定AIがなんとかバランスを保とうとするが、大型宅配ドローンがロスヴィータの手でバッテリーが暴走して爆発したためにあえなく墜落した。


『敵のドローンを撃墜!』


「グッドジョブ、ロスヴィータ。これでこれ以上吹き飛ばされることはないだろ」


 ロスヴィータの報告に東雲が安堵して大井データ&コミュニケーションシステムズの施設を進む。


『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。目標パッケージは確保できたか? 報告せよ』


『ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。最後の隔壁を爆破します。目標パッケージの確保は間もなくです』


『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。迅速に行え。スコーピオン・ゼロ・ワンは待機している』


 フロアに爆発音が響いた。


『東雲! 敵が目標パッケージを確保した! 逃げるつもりだよ!』


「どうやって逃げるつもりだ、連中?」


『今、ロスヴィータが偵察衛星の画像を見てるけどティルトローター機がそっちに向かってる。IDは民間航空会社だけど軍用機だよ、これ』


「ってことは屋上に向かうな。先回りできるか?」


『彼らは非常階段で屋上に向かってる。エレベーターなら追いつけるかも。その先に稼働しているエレベーターがあるよ』


「あいよ。やってやりましょう!」


 東雲がベリアのガイドに従って稼働しているエレベーターに滑り込んだ。


 東雲と八重野が屋上を目指す。


「エレベーターシャフトに爆弾ぶち込まれたらヤバいかな?」


「死ぬだろうな。だが、私がいる。私の呪いは運命に作用する」


「あんたがいれば大丈夫ってわけか。そいつは心強い」


 八重野と東雲はそう言葉を交わし、最上階が169階という大井データ&コミュニケーションシステムズの施設をエレベーターで最上階まで昇っていった。


「そろそろ着くぞ。連中はまだ逃げてないか?」


『ティルトローター機が屋上に着陸した。どうにか妨害できないか試してみるけど、軍用のティルトローター機には体当たりしてくるようなドローンを撃墜する高出力レーザーが装備されてるから』


「いいニュースはないのか?」


『少なくともどこに逃げるつもりなのかは追跡できる。けど、こっちには空輸手段がないからティルトローター機を君たちが追いかけるのは無理そう。ジェーン・ドウに連絡はしてる?』


「してる。けど、あいつ全然返信しないからメッセージ見てるか分からん」


『参ったな。これはもう大井統合安全保障なりなんなりに収めてもらわないと』


 東雲がぼやくのにベリアもぼやいた。


「ここで押さえるのに失敗したときのプランBが必要だぜ。何か手はないのか?」


『今のところは何も。私たちにできることは限られてる。今回の仕事ビズってそもそも大井統合安全保障が動くことが前提だしさ』


「そこをどうにか──。おっと、ジェーン・ドウから返信が来た。ようやくかよ」


『彼女、なんだって?』


「太平洋保安公司のティルトローター機を寄越すからそれに乗って追いかけろ、だってさ。もう太平洋保安公司にバトンタッチしているみたいだ」


『了解。こっちもどうにかサンドストーム・タクティカルのティルトローター機を止められないか試してみる。通信衛星を経由した発信源を特定できればいいんだけど』


 ベリアがそう言う中、東雲たちを乗せたエレベーターが最上階に到着。


 東雲と八重野が階段で屋上を目指す。


『ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。スコーピオン・ゼロ・ワンと合流。これより作戦地域から離脱します』


『シルバー・シェパード、了解。無事の帰還を祈る』


 東雲たちが屋上に乗り込んだとき、ちょうどサンドストーム・タクティカル軍用ティルトローター機が離陸していくところだった。アーマードスーツは全機がゴースト機状態で残されている。足止めだ。


「アーマードスーツだ、東雲! ゴースト機だけのようだが捕捉されているぞ!」


「置き土産ってか。舐めやがって!」


 八重野と東雲が4体のアーマードスーツに立ち向かう。


 アーマードスーツは限定AIによるセンサー情報の分析による東雲たちの位置を正確に把握し、未来位置まで分析して電磁機関砲とオートマチックグレネードランチャーで攻撃を加えて来た。


 東雲と八重野はそれぞれ別の方向に走り、アーマードスーツの火力を分散させる。


 アーマードスーツが正確な射撃で東雲を狙うも“月光”で機関砲弾を弾かれ、八重野には不思議なくらい狙いが定まらない。


「ぶち抜け!」


 東雲が“月光”を投射し1体のアーマードスーツの制御系とロケット発射機を切り裂く。口径70ミリロケットが暴発し、アーマードスーツが吹き飛んだ。


「よし。1体撃破!」


 その間に八重野も動いていた。


 八重野はアーマードスーツの電磁機関砲による射撃を“鯱食い”で強引に逸らしながらアーマードスーツに肉薄。そのままアーマードスーツを真っ二つに引き裂いた。


「もう1体!」


 八重野はアーマードスーツが近接防衛兵器を使用する前にもう1体のアーマードスーツに切りかかり、電磁機関砲を切断し、さらに本体に致命傷を負わせた。


「東雲! 終わったぞ!」


「こっちも終わった! だが、連中、もうとっくに逃げちまったぜ」


 東雲たちが戦っている間にサンドストーム・タクティカルのティルトローター機は遥か彼方に消えていた。


 そこに別の軍用ティルトローター機が施設屋上に降下してきた。太平洋保安公司のロゴが入ったティルトローター機だ。


「おい! お前たちが非正規作戦要員って奴か!?」


 ティルトローター機から太平洋保安公司の戦闘服に強化外骨格エグゾを装備したコントラクターが降りてきて東雲たちに声をかける。


「そうらしい! あんたたちの向かう先は!?」


「さっき飛んでいったティルトローター機の向かう先だ!」


「オーケー! 間違いない! 乗り込んでいいか!?」


「ああ! 早く乗ってくれ! こっちはパイロットとガンナーを含めて4名しか乗せてない!」


 太平洋保安公司のコントラクターが促し、東雲と八重野がティルトローター機に乗り込んだ。すぐにティルトローター機は屋上から離陸し、サンドストーム・タクティカルのティルトローター機を追う。


「どうにかして連中を止めないとな」


 東雲はティルトローター機の中でそう呟いた。


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