VIPサービス//大混乱
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──VIPサービス//大混乱
東雲と八重野を乗せた車は高速道路を駆け抜け、ベリアが発見した軍用
『東雲。今、セクター12/6の目的地の画像情報を解析してる。過去24時間に渡ってね。それによると怪しい人間が建物に入っていってる。それも3時間前。まだ出た様子はない。侵入する時は気をつけて』
「あいよ。もっと飛ばしてくれ」
『分かった。どうせ大井統合安全保障の交通管制ドローンはダウンしてるし。スピード違反で捕まることはないね』
ベリアが遠隔操縦で車を加速させる。
「八重野。敵は非合法傭兵かサンドストーム・タクティカルの連中だ。今回は呉とセイレムはいない。俺たちで止めなきゃならん」
「ジェーン・ドウに連絡しなくていいのか?」
「メッセージはさっき送ったが返信がない」
東雲はそう言ってこめかみを叩く。
「大井統合安全保障が動くとしてもそこに私たちが居合わせたら面倒だぞ」
「分かってる。俺たちは
「では、どうする?」
「忘れたのかよ。今回の
「そうだったな。しかし、戦力不足は否めないところだ」
東雲の指摘に八重野がそう言う。
「いざとなれば“月光”の化身を顕現させる。それに元勇者と不死身のサイバーサムライだぜ? 元
「
「ふうん。ジェーン・ドウはゾンビみたいな連中って言ってたけどな。まあ、何だろうとぶち殺してやるだけだ」
東雲はそう言ってジェーン・ドウからの返信を待った。
『不味い。偵察衛星がTMC上空に軍用ドローンを捉えた。登録IDは民間航空会社になってるけど対戦車ミサイルをぶら下げてる。大井統合安全保障の保有機でもない』
「おいおい。どうにかできそうか?」
『無理。相手は君たちが向かっている構造物とは違う位置からドローンを操作している。少なくともTMCのマトリクスには接続してない』
「できるだけ特定してくれ。で、そろそろ到着か?」
『到着だよ。高速を降りる。建物の近くに止めるからそこからは歩いて。気づかれない方が都合がいいでしょ?』
「そうだな。頼む」
ベリアからの連絡に東雲がそう返す。
「ジェーン・ドウから返信は?」
「ない。またメッセージを送ったが無視されてるのかね」
八重野が尋ねるのに東雲が肩をすくめる。
そうしている間に車は高速道路を降り、セクター12/6の猥雑とした都市部に入った。薄汚れた建物と道路が広がっている無機質な場所だ。
『目標の建物、見える? こっちからはドローンの映像で東雲たちを確認してるよ』
「見えた。町工場みたいな建物だな。シャッターの降りた倉庫らしき建物と古い作業場が見える。あそこで間違いないのか?」
『マトリクス上の構造物はそこにある』
東雲が尋ねるのにベリアがそう言った。
「降りるぞ、八重野」
「了解」
東雲と八重野が車を降りて静かに目的地である建物に向かう。
「八重野。何か見えるか?」
「いいや。動きはない。誰もいないように見える」
「おかしいな。入った人間は確認していても出た人間は確認していないぞ」
東雲たちは用心深く建物に近づき、素早く内部に
「誰もいないぞ」
『トラフィックは停止してる。けど、偵察衛星もドローンもそこから出た人間を確認してない。何かないか確認して』
「はいはい」
東雲がしんと静まり返った建物内を見て回る。
「サイバーデッキだ。サイバーデッキがある。他には」
「東雲。見ろ。コンテナだ」
八重野が空のコンテナを指さした。
「何だ、この文字? 何語だ?」
「アラビア語だ。アズラーイール・ロジスティクスと書いてある。知らない会社だ」
「アラビア語、ね。ヘブライ語じゃないのな」
「サンドストーム・タクティカルと決まったわけではないし、サンドストーム・タクティカルだったとしても残したもので自分たちを特定されるようなことはしないだろう」
「それもそうだなっと」
東雲がコンテナのIDをARデバイスで読み取った。
「ベリア。このコンテナIDを調べてくれ。問題の場所にあった」
『オーキードーキー。TMCに入ったのはセクター9/1のコンテナターミナル。元はインド? インドから発送されている。中身は……精密機械だってさ』
「その精密機械は足が生えてどこかに行ったようだな。ここには何もない」
『インドでの履歴を洗ってる。偽装IDに一度書き換えられているね。これを辿ると、ヒット。アロー・ダイナミス・ランドディフェンスのバンガロール工場。アーマードスーツや電磁ライフルを作ってる工場だ』
「ああ、畜生。運び込まれたのは精密機械なんかじゃない。武器だ」
ベリアからの連絡に東雲が吐き捨てた。
「東雲。こっちだ。これを見ろ」
「何だ、こいつは。トンネル?」
「地下に続いている。この先は水害時の排水トンネルだ」
東雲たちは建物の中にアーマードスーツでも通れそうなトンネルを見つけた。
「嫌な予感がする。そのトンネルの通っている範囲を教えてくれ」
「TMCの中心部まで伸びている。大井データ&コミュニケーションシステムズの研究施設には別のトンネルからアプローチできるぞ」
「こいつだ。これが連中の狙いだ。やばいぞ。ジェーン・ドウにもメッセージを送ってるがあいつ全然返信しやがらねえ。聞いてんのかよ!」
「ベリアに連絡してくれ。出口に向かえばいい」
「分かった! ベリア! 大至急TMCの水害時に使われる排水トンネルとそこに繋がっているトンネルの位置を把握して住所を送ってくれ! 侵入した連中は地下から攻撃するつもりだぞ!」
東雲がベリアに向けてそう連絡する。
『割り出した。現地の映像も出てる。まだ敵は出てない。けど、発信元不明のトラフィックがさっきからずっとうろうろしている。なんなの、これ?』
「知るかよ。すぐに俺たちを大井データ&コミュニケーションシステムズまで送ってくれ。そこで阻止する。大井統合安全保障は気づいてないんだろう?」
『大井統合安全保障はシステム障害の対応に追われてる。それからテロ予告がいくつも出てて対応力が飽和状態だ』
「踏んだり蹴ったりだな。俺たちでどうにかするぞ」
『車を回すから乗り込んで』
ベリアがそう言い、東雲たちがここまで来た時に使ったピックアップトラックが建物の正面まで移動してくる。
「八重野、行くぞ。トンネルをちんたら徒歩で進んでるなら追いつけるかもしれん」
「ああ」
東雲たちは車に乗り込み、ベリアが運転する車で大井データ&コミュニケーションシステムズの施設があるセクター2/1を目指す。
だが、セクター12/6からセクター2/1まではかなりの距離だ。
「間に合うといいんだが」
『現地の画像情報をそっちに送るよ。今、オービタル・ランドスケープ・システムズって民間宇宙開発企業の偵察衛星がTMC上空にいる。それの情報になる』
「サンキュー、ベリア。今のところ、セクター2/1で騒動は起きてないな」
ベリアから送られてきた偵察衛星の映像を見て東雲が言う。
『低軌道衛星だから映像は鮮明だけどすぐに移動しちゃう。これが移動したら次の衛星を探すよ。衛星は馬鹿みたいにいっぱい打ち上げられているから』
「そうなのか?」
『民間宇宙開発企業の進出とそれに伴う大量打ち上げによる打ち上げコストの低下で簡単に衛星は打ち上げらるし、第三次世界大戦で生じた大量の
「
『それに近い。今の宇宙往還機の技術を利用して作られた宇宙船に高出力レーザーを装備して
「へえ。SFって感じ」
『君はローテク君だからね』
「うるせえ」
ベリアが茶化すのに東雲が唸る。
『東雲。謎のトラフィックの発信源を特定したよ。旧
「サンドストーム・タクティカルが相手なら不思議でもないな。だが、通信衛星は経由地点だろ? 発信元はどこだ、ロスヴィータ?」
『不明。通信衛星のところで足止めされれて特定できないよ』
東雲が尋ねるのにロスヴィータがお手上げというように両手を上げた。
「不明なことが多過ぎるし、ジェーン・ドウは何してるのか分からないし、困ったもんだな。だが、どうあれやるしかない。飛ばしてくれ、ベリア」
『オーキードーキー!』
ベリアが高速で車を加速させ、TMCのセクターを一気に駆け上っていく。
「本当に大井統合安全保障が動いていないみたいだな。連中のドローンも軽装攻撃ヘリも全く飛んでない。これほど静かなTMCの空は初めて見たぜ」
『大井統合安全保障は混乱状態。どのシステムもダウンしてるし、バックアップに移行しようとしたところを狙われてバックアップサーバーまでやられた。そのせいで選手交代が起きそう』
「選手交代?」
『大井統合安全保障がしくじった場合、非常事態宣言が出されて太平洋保安公司にバトンタッチする協定が結ばれてる』
「マジかよ。太平洋保安公司は本物の軍隊だぞ? 戒厳令か?」
『そうなるかもね』
ベリアは諦観の様子だ。
「急いで解決するしかねえ。もうそろそろセクター2/1だな」
『高速を降りるよ。大井データ&コミュニケーションシステムズの施設に向かう』
「頼むぜ」
東雲たちを乗せた車は高速を降り、セクター2/1の道路を駆け抜ける。
『シルバー・シェパードよりジャッカル・ゼロ・ワン。スコーピオン・ゼロ・ワンが配置に着いた。襲撃を始めろ』
『ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。了解。始めます』
そして、東雲たちが共有していた偵察衛星の映像に大井データ&コミュニケーションシステムズの施設付近の道路が突如として爆破し、そこからアーマードスーツや
「クソ! 連中、おっぱじめやがった! 飛ばせ、飛ばせ、ベリア!」
『もう全速力だよ! 事故って死にたいの!?』
「多少ぶつかってもどうにかなる!」
『あー! もう! じゃあ、もっと飛ばすよ!』
車がさらに加速し、セクター2/1を走る高級車にぶつかりそうになりながらも道路を疾走していった。クラクションが鳴らされ、怒号が響くがお構いなしだ。
『着いたよ、東雲!』
「ああ! 吹っ飛んだ道路が見える! 畜生が。大井統合安全保障のコントラクターどもは全員殺されているぜ」
東雲と八重野が現場に到着したとき、大穴が開いた道路と殺害された大井統合安全保障のコントラクターたちが見えた。
『敵は大井データ&コミュニケーションシステムズの施設内だよ、東雲。今、施設の無人警備システムにアクセスしている。中の様子を映せるよ』
「助かる、ベリア。俺たちは施設に突っ込む」
『気を付けてね』
ベリアがそう言い、東雲と八重野は正面から大井データ&コミュニケーションシステムズの施設に踏み込んだ。
「死体だらけだ。電磁ライフルでやられてるな」
「大井統合安全保障は奇襲を受けたようだ。ほとんど抵抗できていない。一方的な虐殺が繰り広げられた、か。電磁ライフルだけでなく、グレネード弾やもっと大口径の武器が使用されているところを見るにアーマードスーツもいる」
「最悪だな。それでいて無人警備システムは沈黙してる。敵は思ったより上手だ」
八重野と東雲は大井データ&コミュニケーションシステムズのエントランスを見渡してそう言葉を交わす。
あちこちに射殺された大井統合安全保障のコントラクターの死体がある。
『ジャッカル・ゼロ・ワンよりシルバー・シェパード。施設の警備を制圧。これより
『シルバー・シェパードより全部隊。ゴラン作戦はフェーズ3に入った。現在、障害となる大井統合安全保障は沈黙。太平洋保安公司が動く可能性が高い。警戒せよ』
東雲たちの侵入にサンドストーム・タクティカルは気づいていない。
『東雲。施設内の無人警備システムはワームにやられてるけど、監視システムは動いてる。今、
「オーケー、ベリア。やってやるよ」
東雲たちは大井データ&コミュニケーションシステムズの施設内を駆ける。
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