第16話 ラヌール村の英雄
「初めまして、ラヌール村の皆さん。新しくこの地の領主を務めることになりました、リリーナ・バートリーと申します」
翌日、ラヌール村にて。
俺はバートリー家の当主、リリーナを連れてラヌール村を訪れていた。
盗賊団の問題を解決し、領主であるダーナに執行をした後。
事の顛末を話して新しい領主になってくれないかと打診したところ、リリーナは二つ返事で了承してくれた。
ちなみに元領主のダーナは今頃、王都の自警団の取り調べを受けているはずだ。
そこでも嘘をつき続けてヘルワームと一生を共にするか、王都の自警団の前で正直に告白して投獄生活となるか。
どちらにしても領主を続けることなど不可能だ。
そして同じく、どちらにしてもダーナの先には地獄が待っている。
「それにしても、アデル様の名案でしたね。リリーナさんであればラヌール村の人たちも安心でしょう」
「リリーナなら俺が召喚したヘルバウンドを従えていることだし、テイマーの腕は確かなものだ。テイムした魔物を村に配置すれば、今後良からぬことを企む輩が現れないよう抑止力にもなるだろう」
「さすがはアデル様。文句のない解決の仕方かと」
と、メイアと話をしていたところ、挨拶を終えたリリーナが駆け寄ってきた。
ラヌール村の人たちは新しい領主が信頼のおける人物だと感じたのか、一様に安堵の表情を浮かべている。
「ああ、リリーナ。今回の件、引き受けてくれて助かったよ」
「いえ、私でもお力になれるのであればこのくらい負担でも何でもありません。それに、私がテイムした魔物を行商の移動手段などに使えば村の経済状態も改善できるはずですし」
そう言ってリリーナはラヌール村の人たちを見つめていた。
かつて俺の元を訪れた時と比べて立派になったものだ。
俺がそのことを伝えるとリリーナは穏やかに微笑んで告げる。
「何を言ってるんですか。今の私があるのはアデルさんのおかげです。このようなことでよろしければ、これからも是非に協力させてください」
これでこの一件は落着したと見て良いだろう。
そうしてラヌール村を後にしようとした俺に、声が投げかけられる。
「ラヌール村の英雄、バンザーイ!」
「「「バンザーイ!!!」」」
見ると、トニト村長を始めとしてラヌール村の人たちがこちらを向いており、感謝の言葉を投げてくれたのだった。
***
「お疲れ様です、アデル様」
自分の酒場に戻ってきて、俺とメイアは一息つく。
今回の一件、ラヌール村の人たちも安心していたし、大きな被害も出なかったようで何よりだ。
「ああ。メイアも、いつもサンキュな」
「いえいえ。私も先ほどのリリーナさんと同じ気持ちです。今の私があるのはアデル様のおかげですから」
くすぐったくなるようなことを満面の笑みで言われた。
そうして、メイアの用意してくれた紅茶に口を付けて穏やかな時間が過ぎる。
不意に、メイアが何かに思い当たったような表情を浮かべて俺に投げかけてきた。
「そういえばあの子、今日も来ませんでしたね……」
「……少し心配だな」
メイアが言ったのは数日前、花屋の店主マリーの依頼を受けた時に出会った「獣人少女」のことだ。
別に食事券を渡したからといって、ウチの酒場に必ず来るとは限らない。
ただ、食事券を受け取った際に獣人の少女は「絶対に行く」と言ってくれたのだ。
それが二週間ほど経とうとしている今でも、獣人の少女は酒場に現れていない。
「気になるな……。明日、情報屋にでも会って調べてみるよ」
「情報屋……、フランちゃんですね」
「ああ」
俺はそう言って、メイアと二人で頷き合う。
「フランちゃん、最近会えてないからちょっと寂しいですね。私が会いたがってたって伝えて欲しいです」
「ああ、分かった。……にしても、メイアはフランのこと好きだよな」
「ええ、それはもちろん好きですよ。――――が一番ですけど」
「ん?」
「ああいえ、何でも」
そう言って、メイアは何故か顔を逸らしてしまうのだった。
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【後書き】
いつもお読みいただきありがとうございます。
次話から新エピソード開始となります!
非常に高評価をいただいているエピソードなのでぜひお楽しみください!
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