第15話 ラヌール村領主への執行


「し、知らない! ボクはそんなヤツ知らないぞっ!」


 盗賊団と交戦した同日の夕刻。


 盗賊団をけしかけていたのはラヌール村の領主だったという情報を元に、俺とメイアは早速ラヌール村領主の館へと足を運んでいた。


 盗賊団の頭領が白状した内容を元に領主を問い詰めたところ、今に至る。


「へぇ、知らないのか。盗賊団はアンタから指示を受けてラヌール村を襲ったと証言してるが?」

「そ、そんな証言、アテになるもんか! ボクを貶めるため嘘をでっちあげたに決まってる!」

「あくまでしらを切るつもりなんだな」


 なぜ悪党は皆、往生際が悪いのだろうか。


 俺は面倒だなと思いながら執行人のジョブ能力を使用し、青白い文字列を浮かび上がらせる。


 すると、そこにはラヌール村の領主の名前と共に、悪行を働いてきた分だけ数値が上昇する《執行係数》が表示された。


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対象:ダーナ・テンペラー

執行係数:12,539ポイント

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 ――かなり高い数値だ。


 これまで間接的とはいえ、盗賊団を使って多数の領民たちから搾取を続けてきた結果ということなのだろう。

 執行係数の数値が高い数値を示していることから、それも長期間に及ぶ凶行であることが窺えた。


 こんな理不尽を振りまくクソ野郎を野放しにはできない。


「もう一度聞く。アンタ、嘘は付いていないんだな?」

「当たり前だ。ボクほど清く誠実な・・・・・人間はいないんだ! こんな盗賊団など知らないっ!」

「オーケー」


 俺は領主ダーナの言葉を受けて、再度念じる。


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累計執行係数:105,307ポイント

執行係数5,000ポイントを消費し、【魔獣召喚】を実行しますか?

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「アデル様、アレをび出すんですね。見た目がちょっと……いえ、かなり気持ち悪いので私は苦手なのですが……」

「まあそう言うな、メイア。ちょっと目でもつむって我慢しててくれ」


 俺が何を召喚しようとしたのか察したメイアがギュッと両目を閉じる。

 それがどこか可愛らしくて笑ってしまった。


「召喚、ヘルワーム――」


 ――キュルルルル。


 俺が唱えると蛇のような見た目をした魔獣が現れ、ダーナの首元に絡みつく。蛇というよりベトベトの粘液を纏った巨大ミミズと言った方が良いかもしれない。


「な、なな、何だこの気持ちの悪い化け物は! この、くそっ!」

「無理無理。戦闘系のジョブ能力を持ってなさそうなアンタにそいつは引き剥がせないよ」

「おのれ貴様、ボクに何をするつもりだ!」

「俺は別にもう何もしないさ。ただ、その魔獣について教えてやろうかと」

「お、教えなくていいから早くこの化け物を取り除け!」


 ダーナは首に絡みついたヘルワームを外そうとするが叶わなかった。

 ヘルワームの纏うベトベトの粘液が、高そうなダーナの衣服を汚していく。


「いいか? そいつはな、人間の吐く『嘘』が大好物なんだ」

「嘘……?」

「ああ。そいつは嘘を吸って生きてるんだよ。まあ、嘘と一緒にその人間の生気まで吸い取っちゃうんだが……。要するに、嘘を吐いたらアンタはどんどん衰弱していくってわけだ」

「そんな理不尽なことがあるか……! 清く誠実に生きてきたこのボクが、何でこんな仕打ちを受けなくちゃいけないんだ! せっかく領主の地位に就くことができたんだ。ボクは死にたくなんてない!」


 理不尽なのはお前がしてきた行いの方だろうが。


 日々、圧政に苦しむどころか命の危険にすら晒されてきた人間がどれだけいると思ってる。

 その一方でお前だけが果実酒を片手に肉を頬張るのか? 領主という地位にいるだけで?


 ――冗談じゃない。そんな理不尽はぶち壊してやる。


「なぁに、平気さ。アンタがさっき自分で言ったような『清く誠実な人間』ってのが本当なら、何の支障も無い。その魔獣は嘘が食べ続けられないとすぐに消滅しちゃうからな。ただ、あんまり嘘をつき続けるとヘルワームはアンタを宿主と認めて一生離れなくなるから気をつけてくれ」


 俺はそこで一度言葉を切り、そしてダーナに向けて尋ねる。


「ところでもう一度、質問だ。アンタは盗賊団を使って領民から搾取をしたりしていない。そうだな?」

「そ、その通りだ! ボクはそんなことやっちゃいない……! だから早くこの魔獣を――ぐぇえええええええ!!」


 ヘルワームがダーナの首元に口を押し付けている。

 ダーナが嘘をついている、ということだ。


「決まりだな。領民のことより自分の私腹を肥やすことだけ考えてきたこの下衆め。明日、王都の自警団を寄越す。それでお前は終わりだ」

「そんな……。ボクは常に領民のことを第一に考えてきて――ぎょえええええええ!!」


 また嘘。


「許してくれ……。このままじゃ死んでしまう……。それに、こんな気持ち悪い魔獣が取り付いているなんてそれだけで地獄だぁ……。黒衣の執行人様、貴方に忠誠を誓います。領民にも謝罪をするから――ごがぁあああああああ!!!」


 またまた嘘。


 別にこちらから問いかけているわけじゃないのに、ダーナは勝手に嘘をついてヘルワームに生気を吸い取られていた。

 もはや嘘をつくことが癖になっているんじゃないかというレベルである。


 やがて生気を吸い取られた影響か、はたまた自分が見るもおぞましい魔獣に取り憑かれていることの恐怖からか、ダーナは失禁していた。

 当然、それでもヘルワームは消滅してはくれない。


「まだ目を開けちゃ駄目みたいですね……」


 やがてメイアがそんなことを言った。

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