第13話 盗賊団、執行


 ――ドガッ!


 俺は盗賊団の頭領が陣取っているという酒場の扉を強引にこじ開ける。

 ちなみに頭領がいる場所は村娘を襲っていた男が快く・・教えてくれた。


「なンだ貴様は!」

「ラヌール村を開放しろ。そうすれば手荒な真似はしない」

「ああン? 何寝ぼけたこと抜かしてやがる。おい、見張りは何してやがった!」

「見張りの連中なら外で仲良く眠ってるよ」

「ンだと……?」


 頭領の男は最初呆けた顔をしていたが、やがて状況を理解したのか顔が青ざめていった。


「オメェはいったい何なンだ! オレたちを襲撃しようってのか!?」

「ラヌール村を襲っておいて襲撃とは、よく言う」


 俺の返しに頭領の男はギリッと歯噛みする。


「そういえばその黒衣を纏ったシルエット……。そうか、オメェが正義の執行人様ってわけかい。村長のヤロォ、とンでもねぇ奴に依頼しやがった」

「そりゃどうも」

「しかぁし! あれを見ろ!」


 頭領の男がパチンと指を鳴らして合図すると、奥の部屋から盗賊団の男たちが現れる。

 後ろ手に縛られた数人の村人。その首元に剣を当てながら。


「クックク、状況が分かったか? 分かったら大人しく武器を捨てな」

「人質ってわけか……」

「そういうことだ。手出しするなら村人の命は無ぇ。ああそれから、そっちの嬢ちゃんを寄越せ。そうしたら部下の連中の手がうっかり滑ることもないだろうからなぁ」

「メイアを寄越してどうするつもりだ?」

「そりゃあ、奴隷として売っぱらうんだよ。その嬢ちゃんなら相当に良い値がつきそうだからな」


 ――屑が。


 頭領の男は人質がいるから手出しできないと踏んでいるのか、勝ち誇った顔をしている。

 だが――。


「メイア」

「はい」


 その短いやり取りだけで意図を伝えるには十分だった。

 俺は後ろにいるメイアと言葉を交わした後、漆黒の大鎌イガリマを構えて盗賊団の頭領をめつける。


「お、おいっ。いいのか!? こっちには人質がいンだぞ!」

「好きにすれば? 人質に手を出せるんならな」

「ンだとぉ!?」


 ――ドサリ。


 人質を押さえつけていた連中が一斉に倒れ込む。


「ば、馬鹿な! さっきまで……!」


 背後を振り返った頭領の男が驚くのも無理はない。

 先程まで俺の後ろにいたメイアがそこに立っていたのだ。しかも足元には気絶した屈強そうな男たちが転がっている。


「そンな……、瞬間移動でもしたってのか……?」

「あら、お褒めいただきありがとうございます。でも、私はアデル様ほど早くは動けませんよ」


 メイアはにこやかな笑みを浮かべていた。


 頭領の男にはメイアの動きが知覚できなかったのだろう。目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。


 メイアのジョブ――【アサシン】の能力の一つ、《気配遮断》の影響だった。


「こんな……、メイドみたいな格好した嬢ちゃんが……」

「みたいな、ではなく実際にアデル様の・・・・メイドですけどね」


 仲間を失った頭領の男は焦りに駆られた様子で短剣を掴む。

 まだ交戦するつもりらしい。


「くそっ! こうなったら……。俺のジョブ能力で――」


 ――ドゴッ!


 イガリマのつかで一撃を見舞ったところ、頭領の男は盛大に吹き飛び壁に大穴を開けた。


「すまん、何か言ったか?」


 問いかけたが返ってくる言葉は無い。

 どうやら気絶したようだ。


執行完了ざまぁみやがれ――って、聞こえちゃいないか」


 俺はイガリマを背負い直し、メイアの方へと歩み寄る。


「お見事です、アデル様」

「メイアもお疲れ」


 メイアはパンパンとスカートを叩き衣服を整えていた。

 そして俺は、取り出した林檎をかじりながら頭領の男が突っ込んだ壁の大穴を見つめる。


「……」

「どうしました? アデル様」

「いや、建物の壁さ。後で酒場の店主に弁償しなきゃと思ってな」

「……アデル様ってば、ほんとに余裕ですよね」


 そうやって会話を交わす俺とメイアを、人質から解放された村人たちがポカンと口を開けて遠巻きに見ていた。

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