第6話 三店目

 三軒目は住宅地の一角にある小さめのケーキ店だった。なんとなく、私たちの職場、シャンティ・フレーズを思わせるような可愛らしい雰囲気。


「ここはシャンティ・フレーズと同じ創業十年の店。店の規模や商品数も同じくらいなんじゃね? いろいろ参考になりそうっしょ……でも」


 言いながら店の外から大窓越しに中のショーケースをちらと覗いて小野寺さんが残念そうにつぶやいた。


「ああ、やっぱもうほとんどないじゃん」


 たしかにショーケースはもうガラガラでプチガトーは四、五種類しかないように見える。遅かったかぁ。


 ドアは自動ではなく手動のものだった。押し開けるとカランとベルが軽快に鳴る。オルゴール調のBGMはシャンティ・フレーズのものとよく似ていた。っていうか同じかも。


「いらっしゃいませ」


 にこやかな中年女性が出迎えてくれた。こちらもゆうこさんと同じくらいの歳かも。


「苺ショートはおしまいですか?」


 小野寺さんが訊ねる。すると販売員の女性は申し訳なさそうに頷いた。


「ごめんなさいね、今日はもう終わってしまって」


 女性がちらと見た厨房の方を小野寺さんと私もつられて見た。中は静かで人の気配すらない。


「やっぱり売れ筋は残りませんよね」


 販売員さんは「そうですねぇ」と困り顔で笑う。


「苺ショートは何時くらいなら確実にあります?」


「うーん。はっきりとは申せませんけれど……三時か四時か、夏場なんか日によっては今の時間でも残ることもあるんですけど」


「営業は何時まででしたっけ」


「十九時までです。平日は特に、完売すれば早めに閉めてしまうこともありますけどね。ケーキのあるうちはだいたいは閉店時刻までは開けております」


「結構完売するんですか?」


 ほんと、よく質問するお客様だな、と横目に見る。


「土日なんかは、特にそうですね。平日もまあまあです。今日はたくさんある方ですよ」


「残る種類はだいたい同じですか?」


「うーん。日によりますけど、夏場はこのチョコ系だとか、ナッツ系はよく残ります。見た目ほど濃厚ということはなくて食べやすいケーキなんですけどね」


「そうなんですね。ではそのナッツのタルトをいただきます。あとほうじ茶ロールとチーズケーキも、ひとつずつ」


 にっこりと例のイケメンスマイルを向けられて販売員さんは一瞬頬を赤くして慌てたように「ありがとうございます」と言ってトレーにケーキを移しはじめた。


「こちらの三点でお間違えないですか」


「はい」


 揃ってこくり、と頷くと販売員さんは小野寺さんと私の顔を交互に見る。


「失礼ですが、もしかして……同業者さん、かしら」


 どっきん! バレた! バレたバレたよ小野寺さん! もう、だから質問しすぎだって思ったよ! どうする? どうしよ!?


 けど慌てているのはどうやら私だけのようでした。


「ああはい、そうです」


 あっさり認めると「わかりますよね」とまたイケメンスマイルを向ける。


「やっぱり。お若いから学生さんかしら、と思ったんだけど」


「ええ、そうなんです」


 ……は?



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