第46話 当日の朝の出来事
コスプレイベント当日の朝。
いつもより早く起きた俺は目の前の光景に驚いていた。そう、何度も目を擦るほど…。
「ゆ…侑梨さん? 今日はコスプレイベント当日のはずなんですけど…その格好は何ですか?」
「えっ、ナース服ですけど?」
「………っえ」
何故、ナース服を着ているんだ?
コスプレイベントに行く当日なのに、わざわざ着替えて俺のことを待っていたの?………なぜ?
「今回はお客さん側としてコスプレを見に行くから、俺たちは着替えなくていいんだよ? それよりも家で着替える必要ないし、少しセクシーすぎると思うんだけど…」
侑梨が着ているナース服はごく一般的なナース服とは違い、コスプレの為に作られたと言っても過言ではない服だった。要するに、普通は絶対にあり得ない胸元がハートマークに空いていたり、横の部分が何故か紐で組んであったり、手袋やストーキングをしていたり、もう全てがやばすぎた。
侑梨は挙動不審の俺を見てニヤニヤしてきた。
「あれれ〜、直矢くんはこの格好を見て何を考えているのかな〜?」
「何も考えてい…いや、その格好の侑梨を他の人には絶対に見せたくはないなとは思っているけど」
「それは当然ですよ。 こんな格好をするなんて直矢くんの前だけですからね。 例え、美唯さんの前でも絶対に着ることはありませんよ」
「それは嬉しいことだね」
それでも色々と気になることがある。
さっきの質問に対しての答えがまだ返ってきていないことだ。こんな格好をするのには、ちゃんとした理由があるはずだ。侑梨が無作為なことをするはずがないんだ。………きっと、何かあるはずだ!
「それでナース服を着ている理由は? 誤魔化そうとしても何度でも聞くからね?」
「誤魔化そうとはしませんから心配しないでください。ちゃんと話しますからね」
いや…心配はしていないのだけど。
侑梨ならちゃんと話をしてくれると信じているし、誤魔化そうとする気もないことも分かる。
だって、目の前で誘惑するようなポーズをしてきているから。
「それは分かったけど………どうして誘惑してきているのかな? それも含めて教えてくれるかな?」
「もちろんです!」
侑梨は一つ咳払いをすると、口を開いた。
「まず誘惑している件についてですが、これは直矢くんがどのくらい耐性があるのかなと思いまして」
「…………っん? 耐性…とは?」
「それは誘惑されたら大丈夫なのかの耐性です」
「なんだそれ?!」
確かにコスプレイベントには沢山の女性が来る。もちろん男性もいる訳だが、女性の比率が多いことは確かだ。そして衣装も制限はあるものの、何気に露出があるコスプレも多い。だけどコスプレイベントで誘惑って……そんなことはある訳がない。
まあ侑梨に誘惑されたらイチコロだけどね。
「イベントで誘惑されるようなことはないよ」
「それでもです。前から言ってた通り、直矢くんの視線を奪うかもしれません」
「いろんなコスプレイヤーを見たいから視線が奪われるのは仕方がないでしょ」
「確かに仕方がないことかもしれません。ですが、私としても負けたくはないのです!! ここで二つ目の質問のナース服に繋がります」
どこで張り合っているんですか…侑梨さん。
コスプレイヤーに対して張り合うことではないと思いますけど?
「その答えは?」
「他のコスプレイヤーの方を見ても、『あっ、侑梨のナース服の方が可愛かったな』と思ってくれると考えました! 目移りもしませんね!」
「えっと…」
確かに目移りにはならないけど、侑梨と同格のコスプレイヤーもいると思うぞ。
最近はコスプレで仕事をして稼いでいる人もいるから、コスプレイヤーは侮れない。
「その考えは悪くはないけど、侑梨と同じくらい可愛い人がいたらどうするの?」
「確かに私よりも可愛い人はいるかもしれませんけど、直矢くんは目移りしないと信じていますよ」
「もし目移りしたら?」
「そうですね…」
侑梨は腕を組みながら考え、そして何か思い付いたのかこちらに視線を戻した。
「家に帰ったら過激なスキンシップでもしますか」
「それは罰ゲームというよりも、ご褒美に近い気がするんだけど」
「いえいえ、完璧に罰ゲームです。 だって直矢くんが恥ずかしいことをやるんですからね。(もちろん私も恥ずかしいですけど…)」
ボソッと言ったつもりなんだろうけど、普通に聞こえていましたよ。………諸刃の剣ならやらなければいいのに。だけど侑梨がここまで考えてくれていたんだから、俺も答えないとダメだよな。
「とりあえず目移りしないようにする!」
「その台詞何回目ですか」
侑梨はくすくすと笑った。
「俺も何回目なのか分からないけど、これしか言えないなと思って」
「そうですね。 まあここまで厳しく言ってきましたがコスプレイヤーは魅力的な方が多いので、今日は一日楽しんでいきましょう」
「そうだな。和樹や大浪さんもいるし楽しまないと二人に申し訳ないもんな」
そう言うと、俺のお腹が鳴った。
起床してからずっと侑梨と話をしていて、朝食をまだ口にしていないからだ。それと少しだけ早起きをしたのも原因だ。
「それじゃあ、朝食の準備をしますね!」
侑梨は踵を返して、キッチンへと向かった。
ナース服を着たまま。
そして俺も朝食の準備の手伝いをする為に、侑梨がいるキッチンへと向かった。
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