第2話 何でもいう事を聞いてやるよ

 俺は一週間前、新学期早々に何をとち狂ったのかコイツとは別の、もう一人の幼馴染である朝比奈裕子に告白をしてフラれたのである。


 それもただフラれただけではなく、三日前に初めて彼氏が出来たので無理だとの事。 しかもその彼氏に告白される前に俺が告白したのならば俺と付き合っていたと言うではないか。


 だから祐也は自信をもって良いと言われても正直言って意味が分からない。


 何をもって自信を持てばいいのだろうか。

 

 まるで有象無象の一人だと言われたようなものではないか。


 俺が先に好きになったのに、後から来た奴に攫われ、好きだった女の子からは「先に告白してくれたら付き合ったのに」と言われたら誰だって死にたくなると思う。


 そして『もっと早く告白しておけば』だとか『所詮俺は朝比奈にとってどうでも良い人物だったんだ』だとか、ついつい悩んでしまう。


「でも俺はむしろ朝比奈と付き合わなくて良かったんじゃないかって今なら思う」

「はぁ? 喧嘩売ってんのか?」

「いや、違う違うっ! そうじゃないってっ! ただ、何というか、彼氏がいるにも関わらず『先に告白してくれたら付き合ったのに』なんて言う奴だったとは思わなかったし、そういう奴は付き合えたとしても後々苦労しそうだからさ……」


 そして東城が一瞬俺の事をバカにしているのかと思ったのだが、そうではなくて『もしかしたら朝比奈は悪い女だったかもしれない』という事らしい。


「だとしても小学生の頃から好きだった相手の事を悪く言いたくねぇよ……」

「まぁ、それもそうだな。 悪かった。 俺がデリカシー無さ過ぎたわ」

「いや、俺もここ一週間お前に心配かけまくってしまっている事は分かっているし、いつまでもうじうじしている俺の事を思って言ってくれたことだというのは分かっているから、謝る必要は無ぇよ。 むしろ俺の方が心配かけてしまって申し訳ないと思っているくらいだ」


 そんな感じでお互いに慰め合いながら持つべきものはやっぱり男友達だと再認識する。


 そして俺達は熱い抱擁を交わした後肩を組み、ある一定の女性達に何故か熱い視線を感じつつも校門へと向かう。


「なぁ、お前さっき俺が『女性は星の数いる』と言った時に『彼女は一人しかいない』とか格好つけた事言ってたけど、もしあそこで歩いている氷室麗華がお前に告白してきたらどうする?」

「あ? ないない。 氷室麗華が俺に告白して来るとか天地がひっくり返ってもねぇよ。 むしろ住む世界が違い過ぎて付き合うだとか考えられないね」

「そういうもんか?」

「そういうもんだ。 もし告白して来たんなら何でもいう事を聞いてやるよ」


 そんなたわいもない会話が今の俺には、その一瞬だけは失恋の事を忘れることができて心地いいのだが、後にこの会話で自分の首を絞める事になるとは思いもよらなかった。

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