第三十二話 腹パンとお見舞い

 時は初めてのダンジョン探索の翌日。

 場所はパンデモニウムの中央広場。


(にしてもミーシャ、昨日はビギナー狩りを本気で役人と勘違いしていて驚いたな)


 あの後、帰りがけに説明したら素で驚いていた。

 まぁ、そういう純粋なところも含めて、ミーシャのいいところに違いない。


 などなど。

 オズがそんなことを考えていた。

 まさにその時。


「オズ様! 遅れて……はぁ、はぁ、申し訳……ありませんっ」


 と、聞こえてくるミーシャの声。

 彼女はパタパタ駆け寄ってくると、息を整えたのちオズへと言葉を続けてくる。


「き、今日は突然付き合ってもらうことになったのに、遅れてしまって……ほ、本当に」


「大丈夫だから落ち着いてって! まだ待ち合わせ時間の前だよ?」


「ですが、こう言う時は誘った方が先に待っているべきです!」


 と、申し訳なさそうな様子と、頑固な様子を両立させてくるミーシャ。

 さて、遅れたが今日待ち合わせした理由は簡単。


 ミーシャの妹。

 アリサのお見舞いに、病院へと行くのだ。


「オズ様、改めて今日は本当に申し訳ありません……わたしの勝手な都合に合わせてもらって。本当でしたら、今日もダンジョンに行く約束で——」


「ちょっと待った」


 と、オズはミーシャの言葉を遮る。

 そして、彼はそのままミーシャへと言葉を続ける。


「まず大前提として、付き合わされるなんて思ってないよ」


「で、ですが……」


「確かにダンジョンに行く約束はしてたけど、妹さんの体調が悪くなったって病院から連絡受けたなら、ダンジョン行ってる場合じゃないでしょ?」 


「うぅ……すみません」


 と、申し訳なさそうなミーシャ。

 あんまり申し訳なさそうで、オズの方が申し訳なくなってくる。


(ミーシャの話だと、こういうことは定期的にあるから、あまり心配要らないとは言ってたけど)


 考えながら、オズはミーシャを見る。

 そんな彼女はどこかソワソワしている。


(やっぱり落ち着かないよな)


 経験上、こんな状態でダンジョンに潜るのは良くない。

 なので、オズ的にも今日はむしろこれでいい。

 後顧の憂いを経って欲しいのだ。


(ただ一つだけ気になっていることがある)


 などなど。

 オズはそんなことを考えたのち、その疑問をミーシャへと問いかけるのだった。


「なんでお見舞いに俺も呼ばれたんだ?」

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