第十話 とりあえず生きてみる②

 オズが冒険者ギルドに入った——。

 その瞬間。


 ザワザワ。

 ザワザワザワ。


 と、聞こえてくる人々の声。

 そして、オズへと突き刺さる視線。


(覚悟していたけど、やっぱりみんな今の俺がどういう状態かは知っているか)


 けれどもう構わない。

 そんなことは、家で腐っていた間に予想くらいしていたのだから。


「……」


 と、オズは周囲の人々をスルー。

 彼は真っ直ぐにクエストボードへと歩いていく。


(えーと、俺が出来そうなクエストは……)


 クエストボードにある大半が、『魔王の迷宮』内に生息するモンスターの素材を納品するものばかり。


 パンデモニウムは『魔王の迷宮』を囲うようにある街。

 交易のほぼ全てを『魔王の迷宮』からの取得物に頼っているので、これは当然の結果だ。

 だがしかし。


(あった! 近くの森林でスライムミツバチのハチミツを規定量採取!!)


 中にはこのように、地上でのクエストも存在している。

 それも戦闘を伴わない採集系のクエストが。


(今の俺がやるなら、こういう系統のクエストが狙い目だ!)


 オズはさっそくクエストボードから、そのクエストが書かれた紙を引っぺがす。

 そして、オズはそのまま受付嬢の元へと歩いて行き。


「すいません。このクエストを受注したいんですけど」


「え、でも……」


 と、オズの言葉に返してくる受付嬢。

 オズはそんな彼女へと言う。


「自分の状態は誰よりもわかってます。このクエストもその上で選びました。採取系クエストなら戦闘はない——だったら大丈夫なはずです」


「でもその……正真正銘、まったく戦えない冒険者なんて前代未聞です。採集系であっても、偶然モンスターと遭遇することはおおいにあります……そうなったらオズさん、死ぬかもですよ?」


「冒険で死ぬ覚悟なら、冒険者になった瞬間からできてる——その程度のリスクなら、なんの問題にもならない!」


「っ……忠告はしました、からね?」


 言って、受付嬢は渋々と言った様子で、クエスト受注を許可してくれるのだった。

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