33話 含みと隠しと、天罰と。
幕生のその含みのある笑顔で、伊上は何かを察せそうな気がした。
『気がした』というのは、その含みを出すと同時に彼が心の奥にある何かを閉ざしたからだろう。
勘の冴えている伊上でさえ踏み込めない、幕生が奥底に閉じ込めているもの。
今は好奇心に対して無鉄砲な伊上も、あけすけに聞き出そうとは思えなかった。
「僕は…」
困り笑いをしながらも視線を逸らし、ポツリと無意識に幕生はそう呟いた。
「なんでもないよ、キョーコ。今日は帰ろうか。だんじょんにどんなモノがいるかは、大体わかっただろうし。」
呟いた言葉に気付いた幕生は慌てて口元を隠し、まるで漫画のキャラクターのようにアワアワと焦りながらそう言った。
「だんじょんには。霊も、罰当たりもいる。そしてあの少年のお母さんだったケガレもね。ここでもそんなに悪意がないレベルかな。市内にはもっとヤバいとこもあるし…。だから、本当に付いてきてくれるかは、明日返事が欲しい」
そういえばいつもうっかり忘れるが、伊上に浄化の力があるという話でここにきたのだった。
幕生が口ごもるということは、彼が言いかけたことも、ダンジョンが付喪神のようなものということを深堀りすることもすぐにはできないだろう。
本当に一日二日での出会いのはずなのに、何故か幕生特有のめんどくささや純粋さが数年付き合っているように解っているようだ。
「分かった。でも、殺人事件が起きちゃったからしばらく学校行けないかも…」
「…あ!そっかあ!」
今までの焦りはどこへ行ったのか、幕生はポンと手を快活に叩いた。
…幕生は感情の波がジェットコースター機能搭載なのだろうか。
普段あまり感情が揺らがない伊上は、やや慌ただしく見えるけど力の無駄使いじゃないかなあ、でもそれが幕生のいい所でも…となんだかよく分からない分析を始めていた。
「そのうち一つは貴方がやったでしょう…?ダンジョンから出た後、大変だったんだからね…変なギャルは出てくるし…その子も教師を殺すし…」
伊上はあの時の気苦労をぶつけるように、淡々とした口調ではあるが背後には怨々とした鬱憤の塊が見えている状態で恨み節を吐いた。
「いやあ…!だってアイツ、キョーコをいじめていた筆頭格だったでしょ?ボク、伊上をだんじょんに入れようとは思ってなかったし!エノキダケ?だか何だかが結構ヤバい雰囲気の時も、後で校舎で会おうと思ってたし…」
タハハ、と幕生は笑う。
「最初に行ったけど、僕はこの学校での出来事、全部見てるからね~。生者が行き過ぎたことしたら罰するのもボクだよ。それに、ボクが気に入ってるキョーコにあんな手の出し方するなら黙ってられないしね!天罰だよ、天罰!」
そういえば、榎木?というクラスメイトも断罪されていたのをすっかり忘れていた。
伊上にとってどうでも良すぎたのだろう。ダンジョンで喉と両足の健を壊されていたのも、今になってやっとぼんやり思い出した。
「幕生君は、<天罰>のような存在なんだね。でも私は望んでいないから…やめてとは言わないけど、今度からは控えてね」
自分や他のクラスメイトに悪事を働いたからと言って、それを伊上たちの感情が理由になって殺されてもあまりいい気がしない。
そう思うのは伊上だけかもしれないが。
少しフッと苦笑いした伊上の顔を見て、幕生は少しシュンとして小さく『分かった』というのだった。
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