24-4話 いざダンジョンへ
FAXが壊れた時のような、耳障りな機械音が室内に響き渡っている。
他に人がいなかったのが幸いだった。
掛け時計は中心を砕かれた今も目まぐるしく針を逆回転させ、止まりどころが分からないかのようだ。
針の回転は異常なほど速くなり、やがてオーバーヒートを起こしたように小さな爆発音を出すと煙を出しながら動きを止めた。
前面を保護しているガラスが力なく砕け、古くなったフローリングに落ちていく。
幕生はまだ切っ先を外そうとはせず、警戒心を強めていた。
十秒くらい経って、時計を睨みつけながらゆっくりとピックを外すと、掛け時計は支えを無くしゆっくりと床に落ち、完全に砕けてしまった。
妙なことに、時計は古いとはいえ確実に実在するもののはずなのだが落ちた破片は黒い靄となって空気に混ざるように消えてしまったのだ。
時計がかかっていた部位には、盤と同じ大きさの黒い異次元ホールというべきものが隠れていた。
「あれだね、キョーコ」
幕生はフウ、と気が抜けたようなため息を吐いた後、伊上に顔を向けてニカッと笑った。
「ええと、ユウキだっけ。僕とキョーコは君が言っていた<願いを叶える>存在に会いにいくけど、付いてくる?」
伊上は同じことを幕生に提案しようとしていたが、先に幕生が意を汲んだように口走る。
だが、黒い穴からはあまりいい気配がしないというのも事実だ。良いも悪いも、まだ不確定な気がする。
「あの、えっと、お兄さんは…行くの、《あそこ》に?」
「そうだよ。そこに、皆が噂しているやつがいるのさ」
ユウキの顔は、噂が本当だったという喜びの表情とは言い難く戸惑いの方が強いようだ。
【君の願いも、叶うかもしれないよ】
また悪意を詰め込んだような声色に変え、幕生はユウキを唆す。
「幕生君…」
伊上が咄嗟に言いかけたときに、ユウキは意を決したようにコクンと頷いた。
「行く。僕、叶えたい願いがあるから」
「オーケー。分かったよ」
ニコーッと笑った幕生はオーケーマークを作り、フワッと伊上とユウキを両手で包むように抱き寄せた。
「ちょ、幕生君」
「決まりだから、行こっか!これは僕も早く終わらせたいからね」
幕生は『せーの』と言って二人を飛ばすとは思えない軽やかな力の込め方で容易く天井近くにある黒いホールの側まで跳躍した。
手を伸ばせば届くというところで、三人は強い引力に引っ張られホールの中に吸い込まれていく。
「…うまくいったね。あの存在のことだから、なにか仕掛けてくるかと思ったけど」
ホールの中は、海静高校のダンジョンと同じようにかなり古い内装になっている昔の児童図書館と思われる場所だった。
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