第43話 ポケット住まいの妖精ちゃん

「ちょ、ちょっとエデン…! なんだか…これ、すごく恥ずかしいんだけど…! 」


「■■ゥゥ」


(ちょいと我慢してくれな~)


 ミサキを抱きかかえ、ティアを肩に乗せた俺は。


 口頭では伝える事のできないギミックの対策法を、チーム内でどうにか共有するためにある行動を起こすことにした。


「■■ァ、■ゥゥ…! 」


「えっと…。 エデンが、マイさんは向こうのビルに移ってこっちを見ていてくれって言ってます」


「隣のビルに…? 」


「私にも詳しい理由は話してくれないんですが…どうしましょうか…? 」


「そうね…」


 こちらの真意を探るように、俺をしばらく見つめていたマイさんは「うん、いいでしょう」と頷き隣のビルへ飛び移った。


「■■ゥゥ! 」


(よし、やるぞ! )


「ね、ねえエデン、先に教えてくれない? やるって何をやるの…? 」


「■■ァ…■■ゥゥ! 」


(まあ、見ていてくれ! )


「あぅあーぅ~♪ 」


 俺の肩に乗っかり、ご機嫌なティアの掛け声を合図に屋上の隅へと移動する。


(はじめからこの方法を思いついていればな……。 いや、それは違うか)


 アイカには悪いが。


 誰かがギミックを作動させてしまった後だからこそ、この行動の意図が伝わるんだ。


「■■ゥゥ」


(ミサキ、何が起きても暫くじっとしといてくれよ)


「えっ、ちょっとそれどういう―― 」


「■■! 」


(行くぞ! )


 抱えたミサキや肩に乗るティアを振り落とさないように気を付けながら、俺は屋上の外周から内側に向って渦を巻くようにぐるぐると走り出した。


(俺の記憶によれば、この異界域にあるビルの屋上には必ず一枚以上ハズレ床のパネルが仕込まれている…! )


 つまり、こうして隅から隅まで漏れがないように走り回っていればそのうち…。


 ガシャン。


「エデン!? 今の音…! 」


「エデンさん、何を!? 」


「■■、■■ゥゥ! 」


(いや、大丈夫だ! 俺なら脱け出せる!! )


 予定通り。


 屋上に仕込まれていたハズレ床を”俺が”踏みつけた。


「■■ァ! 」


(それっ、ここでジャンプだッ! )


 不滅の黒魔鎧の効果によりギミックの影響を受けず、足の拘束を免れた俺は余裕をもって沈んでいくビルからマイさんが待機している隣のビルへと飛び移ることが出来る。


「■■ァ! ■■」


(シュタッ! っと、着地)


「ううう…。 ひやひやしました…」


「成程…そういうこと、ね」


「…マイさん? 」


「ああ、いえ。 今の一連の流れを見ていて、ここのギミックについて改めて考えを整理していたのよ。 それで分かったことなのだけれど…。 ギミック作動の条件は恐らく、物理的にギミックの起動スイッチとなる床を踏みつける事ね」


「たしかに…。 エデンがガシャンって鳴る床を踏んじゃってから、ビルが沈みはじめましたもんね…! というか…エデン、さっきのわざと踏みに行ってたでしょ…? 」


「■■ゥ」


(おう)


「おう、じゃないよ…もうっ! ビルが沈み始めた時はどうなっちゃうんだろうって、本当に怖かったんだから…! 」


「いいえミサキさん、エデンさんはたぶん自分は起動スイッチを踏んでも大丈夫って分かっていたから貴女を抱えて走り回っていたのよ。 その証拠に、彼の足はアイカさんのように拘束されていなかったでしょう? 」


「あっ…。 そういえば…! 」


「これがエデンさんのスキルによるものなのか…あるいは、ギミック起動時の拘束はマスターだけを対象としているのかは分からないけれど…。 ギミックにどう対処したらいいのかは今のでだいたい分かったわ」


「ほんとですか…! 」


「ええ。 物理的に踏んではいけない場所があるのなら、地面を歩かなければいいのよ。 本当は…出来るだけ移動中に魔力を消費させる行動は避けたいのだけれど……。 ギミック対策なら仕方がないわ。 ほら、出てきなさいディンキーちゃん」


「イヤイヤ! お外怖いからイヤなのです! 」


「ディンキーちゃん? 今日はお仕事だから頑張る日でしょ? 朝約束したじゃない」


「でも…でも…」


「大丈夫よ。 今日は大きな騎士さんが一緒だから、お外に出ても騎士さんがディンキーちゃんを護ってくれるわ」


「■■ゥ? 」


(ほ? )


「ほんとに…? 」


「ええ。 だからほら、出てきてちょうだい」


「う、うん…」


 マイさんの言葉を聞いて、やっとその気になったのか。


 制服のポケットから虹色に輝く羽根を持った、妖精のように小さな女の子が飛び出してきた。


(マイさんがずっとポケットに入れて連れていたのは。 やはり、彼女…ディンキーだったか)


 異界域に突入してから、マイさんのセインであるディンキーが俺たちの近くにいる気配はずっとしていたのだが。


 原作通り、彼女はだいぶ怖がりな性格のようでマイさんのポケットに隠れたまま姿を現さなかったため。


 直接顔を合わせるのはこれが初めてとなる。


「わあ…! 綺麗な羽根…! この子はマイさんのセイン…? ですか? 」


「ええ、妖精属性のセインよ。 ほら、ディンキーちゃんみんなにご挨拶は? 」


「えっと…えっと…。 ディンキーです。 よろしく、なのです」

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