第40話 SA
十八時を少し過ぎた頃、獅子柄さんの班から楔の主を無事に撃破したというメッセージが届いた。
それから間もなくして、スミマルCの消滅が始まったと観測班から連絡があり。
私たちの実戦デビューはお預けだね、なんてアイと話していたんだ。
事態が急転したのは、それから三十分ほど経った後。
スミマルCが収縮と崩壊により、完全に消え去ったのにも関わらず獅子柄班のメンバーが誰も戻ってこなくて…。
最川先輩が召喚デバイスを介して獅子柄さんに状況を尋ねても、いつまでたっても音沙汰がなく…これはおかしいって話になったんだ。
一先ず私たちは現場で待機することになって、それから…。
ちょうど、十九時になろうかというタイミングで観測班から驚くべき情報が伝えられた。
「スミマルCとほぼ同地点に新たな異界域の存在を確認…。 この異界域をスミマル第二と仮称。 観測が遅れたことにより異界強度は不明。 状況からして獅子柄班はこの異界域の中に居ると思われる。 最川班はセカンドチームとして、スミマル第二に突入し獅子柄の援護もしくは救出を行うように。 以上よ」
観測班からの連絡によると。
この新たな異界域は恐らく、スミマルCの内部で展開されていた”二重異界域”であるため今まで観測に引っかかることがなかったのだという。
「異界強度が分からない以上…しかたないわね、マイ」
「ええ、そうね」
「なんの話です?? 」
「とっておきを解禁するのよ。 貴重な品だから、通常の攻略では使用しないのだけれど…今は状況が状況だし躊躇してる場合じゃないわ」
最川先輩が車に備え付けられていたトランクを取り出し、召喚デバイスを蓋に取り付けられたモニターにかざした。
― マスターID照合中 ―
― 認証完了 ―
― 叢雲所属。 学生マスター。 最川ミツル ―
― 本作戦におけるランクA支給品の使用許可を確認 ―
― セキュリティロックを解除します。 ご武運を ―
「これは注射器と…何かの薬、ですか? 」
「召喚力を急速回復させるアンプルよ。 マスターたちの間では”SA”と呼ばれているわ」
「SA…」
「これを使えば、日野さんの召喚力でも彼…エデンを長時間召喚させておくことが出来るし…獅子柄班の人たちが召喚力を大きく消耗していても、すぐに戦線に復帰させることが出来るわ」
「あの…。 副作用とかはないんですか? 」
「本来、召喚力の量や回復力はマスターの肉体強度に合わせて変化いくものだから…。 薬で急速回復させるということは体にそれなりの負担がかかるわ…。 ただ、マスターの体は普通の人と比べて凄く頑丈だし自然治癒力も高いから…一二本SAを接種したくらいなら数日だるさを感じるくらいで済むはずよ」
「もちろんSAの過剰な接種は危険な行為だから、叢雲が禁止しているの。 ミサキさんやアイカさんがSAを使う時は、私やミツルちゃんがしっかり量を見極めるからそんなに心配しないでいいわよ」
「よかった…」
「あくまでSAは、もしもの時のお守りだと考えておけばいいわ。 ただ…今から突入するスミマル第二は、異界強度が分からないから…。 もしも突入後、貴女たちが攻略するにはまだ早い場所だと分かった場合、二人には先に脱出してもらうことになると思うの」
「その時は私かミツルちゃんが脱出のサポートをするけど、戦力が分散する関係上…エデンさんにも戦闘に多く参加してもらう事になるかもしれないわ。 そうなると、ミサキさんの召喚力が枯渇してしまう可能性が高くなるから…SAが必要になってくるの」
「普段ならSAを使うような無茶な攻略は避けるべきなのだけれど…獅子柄班の安否を確認するまでは多少強引にでも事を進めないと……。 貴女たちは今回が初の実戦なのに、いきなりこんな事になってしまってごめんなさいね…」
「最川先輩が謝るようなことじゃないですよ…! それに、マスターになって戦うって。 自分で決めた事ですからっ…。 私はまだ、新米だけど…。 今自分が、出来る限りのことをやって…少しでも先輩たちの力になりたいんです! 」
「■■ゥゥ…! 」
「あぅあぅ~!! 」
「うん…! わたしも、学生マスターなんだから…やれることはやらなくちゃ…だよね…! 」
「あにゃしも、やってやるのにゃ! 」
「ふふっ、こんな頼もしい後輩ちゃんたちがいるんだから…私たちも頑張らないとね、ミツルちゃん」
「ええ…そうね。 みんな――
必ず、生きて。 全員、無事に帰るわよ」
「「「はいっ! 」」」
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