第96話[完]

「いいえ!そんな事ありません。フレッド様は昔も今も優しく頼りになります。あなたは私の支えです」


ロレッタは力強く答える。


「ならなんでも話して欲しい」


問い詰める訳ではなく懇願するようにロレッタに吐き出した。


「わ、笑いませんか?」


うかがうように下から見上げる顔に口角が自然とあがる。


「君のその可愛い顔を見たら微笑んでしまうな…」


フレッドは難しい質問に笑って答えた。


「もう…なら呆れないで下さいね…」


「それはない」と断言する。


フレッドのブレない様子にロレッタは悩んでることが馬鹿らしくなってきた。


「ふふ…」


笑いながらお腹をさする。


「どうした?痛むのか!?」


フレッドはロレッタのお腹を壊れ物を扱うように一緒にさすった。


「いいえ、大丈夫です。フレッド様はこの子が出てくるのを凄く楽しみにしてくれてますよね」


「もちろんだ」


「私もフレッド様が喜んでくれて嬉しいです。でも…もしフレッド様の関心がこの子に全て向いてしまったらと思うと、少し嫉妬してしまいました」


ロレッタは言葉にしてやっぱり馬鹿みたいだと不安になる。


さすがのフレッド様も自分のまだ生まれてもない子供に嫉妬する妻など嫌になるだろうか…


ロレッタは顔をあげられずにお腹をさするしかなかった。


「馬鹿だなぁ…」


すると呆れた声が降ってくる…


ロレッタは不安が的中してピタッと手を止めた。


すると震えるその手を大きくて優しい手が包み込んだ。


「もちろん子供の事は楽しみだし嬉しい、だけどそれは君との子供だからだ。君と私の愛の結晶が形となってこの世に生まれてくれるからだ」


「私達の…」


「だから安心してくれ、それに…生まれるのを楽しみにしてるのはそれだけじゃない…」


フレッドはそっとロレッタの鎖骨を指先で触れる。


ビクッとするロレッタの体を撫でるようにさわった。


ロレッタの懐妊がわかってからフレッドはロレッタを抱くことをひかえていた。


「早く君との二人っきりの時間も恋しいよ…子供ができてもたまには夫婦の時間を作ってもいいかな?」


「はい…」


ロレッタは嬉しそうに頷く。


「あっもちろん三人で何処かに行くのもいいなぁ…そうなると休みを何日も貰わないとなぁ」


「そうですね、私からもシド様とジョン様に頼んでみます」


「そうしてくれ、あいつらも君は弱いからな」


「そんな事ありませんよ」


ロレッタは冗談だと思って笑っているがフレッドは真剣にお願いしたい事だった。


「フレッド様…私幸せです。アルゴラ国に売られて良かった。フレッド様に出会えましたから」


眠そうに肩に寄りかかるロレッタをフレッドは優しく自分に引き寄せると冷やさないようにとシーツをかける。


スースーと寝息が聞こえてくるとフレッドは頬に軽くキスをした。


「これかも君とこれから生まれてもくる子も幸せにするよ…」


フレッドは眠るロレッタに誓い自分も瞼を閉じる。


二人、まだ見ぬ子供を間に挟み楽しそうに歩く夢を見ながら幸せな眠りに落ちて行った。


【~完~】

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