第34話 疲れても、水曜日は始まる
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気が重い、というひとことでは片付かない気持ちである。って、1文で片付いてるじゃん、なんて思いながら、私は下駄箱に靴を突っ込んだ。誰もいない下駄箱でひとり、ため息をこぼす。なんで朝の7時半に登校してるんだよ、あの子は……。
ささいな疑問の答えは、私の記憶の中にあった。
「部活……か」
たしか、彼女は文芸部に入っていた気がする。運動系の部活と比べると、文化系の部活って朝から集まって練習するほど忙しくないというか……そういうイメージがある。あ、でも吹奏楽部は分類上文化部でも、運動部に匹敵する活動量だろうし。
でも、文芸部だぞ? それに……昨日の放課後、彼女は普通に遊んでいたじゃないか。文芸部という隠れ
「バカバカしい」
靴と入れ替えた上履き、それを床に落とすと、両足ともひっくり返った。渋々、しゃがんで丁寧に表に返す。ホント、バカバカしい。こんな小さなことで悩んでいる自分も、彼女には途方もない秘密が隠されてるんじゃないかと疑う「物語脳」の自分も、全部全部。
下駄箱でぐだぐだ、もたもたしている私に、野球部の掛け声が近づいてくる。
「イチ、ニ! イチ、ニ! 休憩!」
私はさっさと図書室に向かうことにした。野球部から逃げるべく。
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「くぅ~! フルーツオレがうまいっ!」
「あんた毎日それ飲んでるでしょうが」
「いやぁ、ひと仕事終えたあとのフルーツオレがいちばんおいしい」
と、私はレナちゃんに返す。レナちゃんはプリンターに用紙をセットしながら、
「じゃ、私の分の小説もお願いしようかな」
なんて、おそろしいことをぬかす。そんな前期の小説すら提出していないレナちゃんと、新入部員たちの原稿を除けば、どうにかこうにか印刷するところまでは辿りついた。小説を仕上げるのも大変だけど、プリントアウトするのも試練。なんてったって、プリンターがプチ壊れているから。足りないのは圧倒的に時間!
「どう? いけそう?」
私が尋ねると、レナちゃんはやれやれといった具合に首を振る。ついにプリンターが寿命をお迎えなさったか……。
「とてもじゃないけど、あと5分じゃ無理だね」
「あ、もうそんな時間?」
これまた古ぼけて、10分遅れている時計に目をやると、8時40分をいまにも過ぎそうなところ。ってことは、今は30分……!
「じゃ、あとは放課後に。とにかくコンセント抜いといて!」
「あーい。
ありがたくレナちゃんの好意に甘えて、私はすぐに部室を出る。教室に荷物を置いてこなかったせいで、格好だけ見れば遅刻してきた人みたい。さすがに朝から担任に怒られたくはない。……それに、これ以上、相良さんに私のマイナスなイメージを見せるのは……避けたい。
部室棟から教室までの道のりが、やけに遠く、重く感じる。それはきっと、誰でもない私の寝不足と疲労によるものなんだろうなぁと、頭の片隅で思った。
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