第31話 私が見る、君がいない放課後
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裏門を出て、静かな住宅街を少し歩いた。音楽でも聞きながら帰ろうかと思ったけど、イヤホンを取り出すのがめんどうで、結局自然の音を耳に感じながら歩いている。なんてことのない、自動車の走る音とか、鳥の鳴き声とか。
うん、平和だ。これぞ、私の毎日のあるべき姿。帰り道の途中にある小さな本屋さんに立ち寄ると、珍しくうちの制服を着た女子2人組と顔を合わせる。もちろん、知り合いではない。……と、思う。2人は私を見て会話を止めたが、すぐに目を逸らして会話の続きに戻る。どうやら、雑誌を探しているらしい。
ため息を我慢して、文庫本の棚に向かった。こういう個人経営の本屋さんには、誠に遺憾なことにラノベが置いていない割合が高い。ここも例外ではなく、ライト文芸の文庫本がわずかに置いてある程度だ。
「……ふむ」
これは前に買ったやつの続巻か。そっちは新シリーズで、あっちはドラマ化記念でカバーが変わっている……。そういえば、司書さんにオススメされた本、まだ読んでないな。お、あるある、さすが受賞作。こっちにすべきか。
ひとしきり悩んでから、新シリーズの1巻と、司書さんにオススメされた本を買う。物語を読むだけなら、図書室や電子書籍、小説投稿サイトやソシャゲで事足りるけど、自分で買うと読むペースも場所も、時間さえも自由だ。だから私は、お小遣いをほとんど紙の本に費やしている。
「ありがとうねぇ」
と、店主のおばあちゃん。軽く頭を下げて、店を出た。本を選ぶのに没頭していたのだろう、うちの制服の女子2人組の姿はもうなかった。
住宅街を歩いて帰る。ときどき、ジャージ姿の中学生や他校の高校生とすれ違う。ちょうど、学校が終わる時間帯だしな。この時間、いつも私は図書室にいるけど。
「あ、そういえば」
社会科で1冊使ったから、もう新しいノートがない。買いに寄るか。
【
「やー、まさか、あんなに来るとは……」
と、ミキミキが額の汗をぬぐうふりをした。もしかしたら、本当にぬぐったかも。それほどに今日の気温は高めで、少し動いただけでじんわりと汗が出てくる。体育がなくてよかった……。
帰る人、誰かを待つ人、雑談で足を止める人、とにかくいろんな人が下駄箱で右往左往している。帰る人は右往左往じゃなくて、家に向かって一直線だったかな。靴を履き替えたら、レナちゃんとミキミキと合流。向かうは学校近くのホームセンター!
「てか、
と、レナちゃん。そう、今日の文芸部の部活見学は大繁盛。もしかして、私が知らないところで文芸部って流行ってるのかな……?
「ま、大丈夫だいじょうぶぅ。部誌あるわけだし」
「そう……だよね!」
好きな漫画の解釈違いにより、
「あー、穏やかに家でゲームしてたい。漫画読みたい」
「レナちゃん、まずは前期の原稿仕上げてね……」
「そうだそうだ。レナだけだぞぉ、前期終わってないの」
何気ない会話。もう1年も一緒に部活をやってきたからか、私もミキミキも、ぐうたらなレナちゃんに対するツッコミは強め。
「
「なんだとぉ。ケンカならフリック速度勝負で買うぞぉ」
2人がバチバチやりあっている隙に、スマホをチェックした。……特に、連絡なし、か。いつもの放課後、いつもの部活の時間。なのに、何かが欠けているような。
「
「マイマイこいこい~」
呼ばれて、笑顔を作る。「うん、行こう」と、誰にともなく頷いて、私はホームセンターに足を踏み入れた。
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