第24話 手と手、触れ合って
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私のななめ後ろで、誰かの走るリズムが一瞬崩れて、すぐに元に戻る。私を追い越そうとしたのだろうか。足がもつれたのか、それとも転びかけたのか、後ろを振り返る余裕がない私には知るよしもないけど。
私たち後方集団を置いて、先頭集団がゴールした。ここからは心と身体の戦いだ。
ぐっと前を走る人の頭をにらみつけ、持久走を終わらせることに集中する。
「いけるいける! 1秒でも縮める!」
と、誰よりも大きい声で担任が叫ぶ。わかってるよ走ってんだろ! と心の中で叫びかえして、歯を食いしばる。あと少し、少し、そしてようやく、線を越える。
そのまま倒れ込むようにグラウンドに手と膝をつき、四つん這いになって息を整えた。我ながら、というか誰が見ても情けない姿だと思うけど、まじで疲れたんだ。
「相良さん、3秒短くなってる。お疲れ様」
頭上からの声に、頭を動かすことで答えた。
「大丈夫? 小川さん」
「あはは……コケてしまいまして……」
と、苦笑を浮かべる彼女の鼻には、わずかばかりの砂がついている。よかった、すりむかなくて。もう少し転ぶ勢いが強ければ、きっと皮がめくれて血が出ていただろうから。きれいな顔に傷がつくのは、なんていうか、嫌だ。
手を差し出そうとして、自分の手が砂だらけだと気づく。念入りに体操着で払い落として、改めて右手を小川さんに差し出した。
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相良さんの手を取る。少し砂でざらざらしていて、私と同じくらいの大きさの手。
「よいしょっと」
気恥ずかしさを紛らわせようと、わざと大きな声で言うと、相良さんがくすくすと笑った。やや呆れたような眼差しに、お姉ちゃんみたいな優しさを感じる。そして、からかうようなトーンで彼女は言う。
「なにそれ」
その言葉に、今日あった嫌なこと全部が急にどうでもよく思えて、私は転んだ痛みも持久走のプレッシャーも、何もかも忘れて笑顔を返す。つないだ手はほんのり熱を帯びていて、それは私たちの努力の証に違いなかった。
「小川さん、大丈夫? 保健室行く?」
と、不安げな表情でペアの近藤さんが問いかけてきた。その後ろから、わらわらと担任やクラスメイトたちが集まってくる。私は相良さんの手を離して、
「保健室、行ってきます」
私の言葉に、担任は「行ってきなさい」と、頷いた。
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