第28話

痺れキノコ+で釣りをしながら、川辺の焚火ポイントに火炎キノコ+を設置する。

川の流れる音と、暗闇の中火炎キノコの明かりがゆらゆらとあたりを照らしてくれて、とても落ち着く雰囲気だ。


「ミリーの方は反応ありそう?」

「んー、ちょっとぴくぴくしてるかも?」

二人ともお腹が空いているので早めに魚を釣って食べたいところである。


一人で釣るのは効率が悪いので釣り竿を二本作製して、痺れキノコ+を餌にゲテモノ魚を釣りたいところだ。

ゲテモノであればあるほどいい。

きもいほど美味いからな。世の中の法則としてそうなっている。


魚を釣る間にも時間を効率よく使っていく。

キノコ300を一本使ってスープを作りながら、帝キノコ++とキノコ300を火の回りで焼いていく。


キノコ300はグリフィン用だ。

拠点から離れようとしない黒羊ちゃんと違って、グリフィンは川にもしっかりとついてきてくれる。

体が大きいから、キノコ300個分の栄養素が入ったキノコを食べさせてあげようと思っている。


「きたきたきたぁ」

スープが出来上がった頃、ゲテモノ魚、ウォーキングフィッシュも釣れに釣れ始めた。

6匹釣れたので、仲良く2匹ずつ分ける。

グリフィンは体が大きいが、キノコ300をたくさん焼いているので何とかなるだろう。


内臓をとるのは俺の仕事だ。

客人にこんなことをやらせるわけにはいかない。血抜きし、内蔵を取り出している時が一番生を実感する。

イノシシの魔物の臭い腸とか処理したことある俺には、魚の内臓程度はかわいいものだった。


処理しきった魚を焼いていきながら、ミリーとの会話を再開した。


「食べ終わったら川で体洗うように石鹸を持ってきているニャ。ダイチ用にも結構持ってきているから、後でまとめて渡すニャ」

「ありがたい!」

くさい、痒いが最近結構限界まで来ていた。願っていた石鹸をいただけるとはなんという僥倖。

塩だけでいいとか思っていたが、衛生アイテムはやはりあると嬉しい。

今晩は体中隅々まで洗っちゃうぞ。


「川なんて時代遅れ。今晩は風呂につかろう。俺の魔法とキノコがあればアツアツのお湯に浸かることが出来るぞ」

「本当ニャ?楽しみニャ!!」

おうおう、こんな森の中で風呂に浸かれるなんて信じられないよな。

でも植物操作の魔法と火炎キノコでそれが出来てしまうのだ。


飯の後の楽しみを考えながら、ゲテモノ魚を丁寧に焼いていく。

ミリーもお風呂が楽しみそうだ。


俺はお風呂が楽しみなのであって、ミリーの裸を見たいとか思っていない。決して思ったりしていない!森の神には誓えないが、想像していない!


「そうそう、ダイチに言っておかないと。最近森の生態がかわりつつあるニャ。黒羊やグリフィンが出没するのもなにか変化の兆しニャ」

ドラゴンがいるから弱い魔物しかでない、と以前ミリーから聞いていた。


それなのに珍しい存在の黒羊がいたり、かなり強い魔物になるグリフィンがいたりとこの森は異常な事態らしい。


「冒険者ギルドがこの件で慌ただしくなってるニャ。近いうちに調査に入るかもって聞いたニャ」

「それは駄目だ!」

ここは俺の家だぞ。土足で入られるのは許さない!


「ドラゴンのいる森に強い魔物が増えると、ドラゴンの怒りが起きるかもしれないニャ。災害レベルと言われるドラゴンの怒りを起こさせないためにも、冒険者ギルドは原因を取り除くはずニャ。ダイチには何か心当たりがあるかニャ?」

「ないなー」


うーん、俺はせいぜいこの森で一人静かに暮らしているくらいだ。

あとはやたらとキノコの胞子を撒いているくらいか。


……キノコか?

あーら、キノコが原因ならかなりまずい。犯人俺じゃねーか!


調査とか来たら面倒だなー。またパンツを履かないといけないし。

キノコの胞子で適当に追い払うかー。その時が来た時を考えて、痺れキノコの胞子を大量に撒いておこうと計画した。


「そういえば、ミリー。俺はスキルをいくつか覚えているんだけど正確な効果を知る方法ってあるのか?」

「街でお金を払えば鑑定してくれる人がいるニャ。そんなに高くもないニャ」

「そうか。じゃあそのうちな」

行かないけど。


たしかにスキルを知りたい。街にも少し興味はある。

この世界の人間の文明がどのくらいか気にはなる。


ただし、パンツを履くことと天秤にかけると、やはりパンツを履きたくない思いが勝ってしまう。

人間は感情の生き物である。

心に背くようなことはしたくない。


「さあ、魚が焼けたぞ。つまらない話はこのくらいにして食べようか」

「はい、ニャ!」

グリフィンに先に焼き上がったキノコと魚を与えて、俺とミリーはゆっくりと食事を楽しむ。


夜はまだ始まったばかりである。

俺たちのイチャイチャはこれからだ!


「ホロホロの魚肉がうんまー。脂身もすんごくて、たまらんー」

塩気が魚の旨味を一切邪魔せず、単純なうまさの加算になっている。

白い塩ってこんなにも美味かったのか。


白いものってなんでこうも美味いのか。

塩しかり、砂糖しかり、白米小麦マヨネーズ!!

うますぎだろー、白いもの!


「美味しいニャー。街で食べるどんなものより美味しいって不思議ニャー」

釣りたてだし、焼き立てだ。塩も最高だし、俺の愛情もこもっているとなるとうまくない理由がない。


街で食べるものになんて負けはしないさ。敢えて欲を言えば、甘味が少し恋しい程度だ。甘いデザートがあれば極上の時間になってしまう。


あまいキノコとか作れないだろうか……。なんか普通に作れそうで怖い。

砂糖が手に入ったら植物合成をしてみよう。甘いキノコができあがったら、そこからは無限糖分生活である。


「はい、スープ。熱いから気をつけて。あとキノコが少し濃いかも」

なにせ入っているのは帝キノコ300個分の栄養素。染みるぜー。

「ありがとニャ」

猫舌のミリーはしっかりと冷ましてスープを飲んだ。

濃い目のスープもしっかりとうまくて、二人仲良く飲み干した。


「ふぅー、幸せだ。ずっとこんな幸せな時間が続けばいいのに。貴族との揉め事なんてなければなー」

「はい!?」

同じくまったりしていたミリーが目を見開く。


「もしかして実家でなにかあったニャ?」

「いんや。伯爵家の連中ともめちゃってなー。来週試合をすることになった」

「大丈夫なのニャ!?」

「なんとかなるだろ」

横になって、空を見上げた。

星が綺麗だ。

たまに流れ星も見えるから、ここは最高だ。涼しいのも気分を良くさせてくれる。


「くつろいでいる場合じゃないニャ!貴族はとても強いニャ。その人たちと揉めちゃったって、下手したら死んじゃうニャ」

「正確には貴族様じゃないんだ。むしろ貴族様には慕われてる。その家の親衛隊長が、俺のこと気に食わないみたいでな。試合に勝って、あいつのかっこいい鎧でもひん剥いてやろうかね」

身に付けはしないが、戦利品としてログハウス内に飾っておこう。

あいつの鎧は本当にかっこよかったからな。


「貴族の親衛隊長なんて絶対に強いニャ。まさか、5大魔法の使い手かニャ!?」

「ああ、炎魔法の使い手らしい」

「なんでそんなのんきニャ!?死んじゃうニャ。それ絶対に死んじゃうニャ!!」

「もうちょっとレベルも上げて挑むつもりだから、なんとかなるだろ。まあ死にそうになったら逃げるさ。俺は逃げるのは結構得意なんだ」


子供のころからガキ大将を挑発して、よく逃げ切っていたものだ。後日捕まって痛い目にもあったが、こりずにまた挑発するあのスリルがたまらないんだよなー。

森は俺の住処だ。


元来の逃げ足と地の利で逃げ切るのはたやすいだろう。

俺は裸だし、鎧を着たやつに追いつかれることなんて全く想像できないな。

ははっ、そう考えると容易い相手だな。


「冒険者ギルドに救援要請を出しておくニャ。貴族と平民が揉めた際に、間に立って仲裁してくれることがあるニャ」

「……ミリー、戻って風呂に入ろう!」

「真面目にニャ!!」


はっは、ウォルフとの決戦が楽しみになってきた。

勝ったら鎧をゲット、負けそうになったら全力逃走。失うもののない戦いってのは最高だな。


「でかいお風呂を作るから、一緒に入ろう!大丈夫、あんまり見ないから、ゆっくりと寛いでね」

「もう、死んじゃっても知らないニャ!」

少し怒ったミリーに謝って、俺たちは拠点に戻った。


植物操作の魔法で、でかい五右衛門ぶろを作り、火炎キノコを入れる。

火炎キノコは水の中でも燃えるから、すごいものだ。


湯だったお風呂に、タオルを巻いた俺たち二人が入った。

空を見上げながらの、異世界初のお風呂は至福のひと時以外の何物でもない。


「極楽だー」

「ばか。忠告を聞かないなら、せめてちゃんと勝つニャ」

「負けないさ」

俺にキノコが付いている。


空がきれいだ。


体をピカピカにして、体の芯から温まれた。

最高な気分のまま、俺たちは次の昼まで爆睡したのだった。


行商に遅れると大慌てで出発したミリーの背中は可愛らしくてとても面白かった。


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