第7話 勝負開始2日目①

 配信がバズった翌日。俺は重い足取りで学校へと向かっていた。

 理由は本当に単純だった。


『…配信したくねぇ』


 バズってしまったあの企画──5分間だけカップルごっこをする企画のせいだ。


 あの企画が悪いと思っているわけでも、配信をする事がつまらない訳でもない。

 ただ単純に1健全な男子高校生にとって、あの企画はなんというか…刺激が強すぎる気がするのだ。


「はぁっ」


「なーにため息ついてんだよ碧!」


「うわっ!!…ってなんだよ優太かよ」


 音もなく現れ、俺の事を驚かしてきた友人に向かってチッ、と小さく舌打ちをする。


「あー!今舌打ちしただろ!親友に向かっての態度がそれかよ薄情者っ!」


 何故か両腕を胸の前で交差させながら、イケメンとは言えない、なんとも言えない表情をしている優太を見たら、ファンクラブの会員は何十人抜けるのだろうか。


 そんなことを考えながら俺は鞄から個包装のラムネを取り出し、口の中に放り投げた。


「何その味。始めてみたわ」


 優太が物珍しそうにラムネの袋を眺めていたので、鞄からもうひとつラムネを取り出し優太に渡した。


「後輩から馬鹿みたいな量貰ったから食べてどーぞ」


「ラッキー!ありがとな。」


 そう言いながら優太もラムネを口に入れると、小さく「うまっ」という声を漏らしたので、お気に召したらしい。


「というか後輩って涼香さんだろ」


 ニヤニヤと生暖かい視線を優太が送ってきたので、少しイラッとしながら「そうだけど」と返した。


「涼香さん一年の間でも有名らしいからなぁ」


「有名?何でだよ」


「んー、美人で優しくて頭が良い聖人みたいな女の子だー!ってサッカー部の後輩が言ってたぞ」


「…お前の女版みたいな感じか」


「それはよく分かんないけども…。まあ碧も早く気づくと涼香さんが報われるな」


「は?どういうことだよ」


「さあ」とやけに絵になる顔で優太は俺にそう言ったあと、また新たな話題に話を変え始めた。

 だらだらと雑談をしていたら、また何かを思い出したのかパンっと手を叩きながら「そうだ!」と言いながら俺の方に顔を向けた。


「昨日の配信めっちゃ良かった」


 優太が屈託のない爽やかな笑顔を俺に向けると、近くで歩いていた女子からきゃあ!という声援が上がった。

 だが、俺はそんな爽やかな笑顔に対して非常に不機嫌な顔を返した。


「…また見たのかよ」


「スズとアオのファン1号だからな!本当に昨日の五分間だけカップルらしいことしましょう?勝負です!良すぎたわ」


「企画名すらフル暗記かよ…」


 流暢に企画名を言い出すから、俺は思わず突っ込んでしまった。

 優太が昔から応援してくれる事に対しては非常に感謝しているが、ここまで親友がガチファンだとなんとも言えない気持ちになる。

 優太も優太でどんな気持ちで配信を見ているんだ。


「というかあの企画めちゃくちゃバズってたよな!?切り抜きとか32万再生くらいされてたし」


「確かそんくらい再生されてたような…って、やけに詳しくないかお前?」


「ゔぇっ!?いやたまたま!たまたま見た時そのくらいだったから」


 何故か焦った顔をしているような気がするけど、まあ気のせいだろう。

 別に今の話で焦る要素もないし。


「…本当にあの切り抜き師さんには感謝してるよ。俺と涼香が配信始めた時からずっと切り抜き作ってくれてるからな」


「…へぇー」


「でも連絡してもメッセージ返ってこないんだよな。いつもハートとかGoodボタンとかで。ちょっと不思議な人だけど、もうあの切り抜き師様々だからな」


 苦笑しながら俺はそう言った。

 だが、珍しくあまり優太から反応がかえって来ない。

 こいつ体調でも悪いのか?


「優太体調悪いのか?」


「え、なんで?」


「どっか上の空っていうかぼんやりしてるっていうか」


「気のせい!気の所為だから!というか俺今日朝やることあったわ!ごめん先行く!」


 そう言って優太は何故か爆速で学校へと向かっていった。

 さすがはサッカー部と言うところなのか、馬鹿みたいに足が早い。もう視界で追うのもギリギリなくらいだ。


「なんなんだあいつは…」


 何か隠し事でもしているのか。

 はたまたただの俺の杞憂か。

 まあ人には誰にも触れてほしくないことはあるよなと思いながら、俺はひとりでまた学校へと歩き始めた。


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ただの後輩が1日5分間だけカップルらしいことをしようと、俺に勝負を挑んできた。 彗星桜 @sakura4456

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