第14話
ちょっとした尾籠な話なので、出ていき方は省かせてもらう。
コッペリアからはしつこいほど引き留められたが、あっさり振って別れて、長い旅の準備を始めることにした。
ありきたりの装備品から、先が見えないがための、投資のような品物まで、これまでの経験と直感から、コンパクトにしつつも、揃えるだけ揃えた。
愛用の品に、カード状のサバイバルツールがある。二つ折り財布(物理的貨幣を使う場面、ところもあるのだ)の中にも入るものなのだが、60種類以上もの使い道がある特別製で、いつからだったか忘れるぐらい使い込んでいる。
光で充電もできる、携帯できるプレミアムスマートスピーカーも相棒として選んだ。音楽は重要だ。動物が水を必要としているくらい、俺にとってはなくてはならないものだ。
それと、数個のビー玉。
これもなくてはならない片割れだ。
気がつくとポッケに入っている。
落ち着かせるというより、俺が今ここにいることを、確かめるためのなくてはならない、ないと困ってしまう必需品。
行間でよく使っているのだ。
いつももしかしたら最後の旅になるかもしれない気持ちで選んでいる。
その割には楽しんでいる。
日常の延長線上にあって、習慣の営みの中に組み込まれている覚ましがある。
我々は日々変化を体験しているが、それはたいてい意識に上ってきていないものの方が与るのは大きかったりする。
片腕の商人に会った。
どんなボディも選べるのにと、理由を聞いてみた。
この身体は、生まれつきだという。
自然体主義者だ。
こういう人は、持ってるボディも少ない。
ただそれひとつだけだってある。
俺は、初めの身体はあるところに保管してはいるが、今は使っていない。
ボディの仙境の域に達しているのだが、さて、聞いても禅問答のような受け答えしかしてくれないだろうと、ある類の畏敬ぐらいの気持ちは持っている。
心身一如、そうなのだろう。
それでもこのような世界になってしまった人間の業の深さ、欲深さを思い致す。
そうではないと異を唱える学者もいる。
世界が、求めたのだと。
物語多奏世界となって、人間は選択せざるを得なかったのだと。
カオスフルでマルチレイヤーなナラティブワールドは、次の世代のトランスヒューマンをつくりだしていたのだ。
俺としてはどちらにも与したい。
カラダにはカラダの眠るべき場所があるはずなのだ。
選んだ旅の友たちをじっくりと検分しながら、コーヒーを12杯堪能して、頭の隅で転がしていた。
ちょっとした頭のほぐし方だ。
比べてみて、不利だと判断する方の肩をわざと持って思考の転換が訪れるような弁護を行なっていく。
物別れに終わってもいい。
重要なのは、頭を動かしたというまさにそのこと。
軽く疲れたのでうたた寝混じりの仮眠をとった。
夢を見た。
反重力の岩場で地平線を臨んでいる。
どこかの惑星かもしれない。
ボディの適性によっては好んでそういう場へ飛び込んでいくものもまあ割といる。
興奮はしていた。
ちなみに私はアリ型ボディを愛用する。
ソリッドでクリアーな意識が得られている手応えがあるからだ。
単純明晰だからかもしれない。
削ぎ落とされたロジックで物事を組み立てているという実感を持てている。
招かざれる客が来たのは午後をまわり、寛ぎを求めようとしていた頃合いだった。
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