第12話

 アルコールが強く行き渡っている。

 かくれんぼをしているのはお愛想だ。

 蒸れた熱気が身体を浸す。

 こういうときは、ボディの感覚を信じ、頼る。

 もちろん、使い捨てだと思っている連中は、コアである魂の能力に全幅の信頼を置いている。

 整理しとこう。

 異能には、魂由来と、ボディ由来がある。

 これは感覚の問題かもしれないが、ボディを信頼し尊重している方が、その発揮力にいわゆる伸び、昇りがある気がする。

 いわゆる、拒否反応がないように思われるのだ。

 もうそのもののものになっているのだから、拒否も肯定もないのだが、そのほうが、伸び伸びと、生き生きと動き回れる直感が眠っている。

 この世にいられるのもカラダありきなのだから、やはり労ってあげるべきだと思うのだ。

 けれども、多数派ではないのでちょっぴり悲しくはある。

 さて、周りの器官が蠕動運動をしているので、ただそれに乗っかっていればいいだけなので楽と言えば楽だ。

 俺は空間系、移動系の異能は普段は持ち合わせていない。

 最強幼女になればいかなるへもひとっ飛びなのだが、この子はいわばワイルドカード、最後の切り札だ、どうしようもなく、究極の進退時にしか使いたくない。

 それに空間系、移動系はよく事故を起こすのだ。

 物語多奏世界では、奇妙な因果律が巣食っている。

 このリアルは、より物語的であれ、というものだ。

 世界が奇妙にもつれているのかも知れない。

 科学も相当進んでいるのだが、世界の解明には至っていない、というよりこれは原理的に無理なのだろう。

 ある程度までの利用法は確立されたのだが、全体を俯瞰する方法なんてどだい無理だし、パラゴンのパラゴンでさえも、朧げながらに認知するのみだ。

 もとより世界は次から次に謎が捲れていくようなものなのだ、難しくするのもさっとつかまえるのもおそらくどちらもきわめて正しい。

 ともかくとしてなるべくしてなってしまった世界なのだ、世渡り方は知っておいて損はないのだ。

 胃液の中に突っ込んだ。

 すえたにおいに我慢しつつ、そのまま下へと沈み込む。

 ごぽっという音がして、マリンブルーの海の中に游泳している自分がいる。

 うねったサンゴ礁に多くの魚介類が回遊している。

 自然回帰な時間がゆったり流れている。

 そのまま重みで、下へ、下へと沈んでゆく。

 光の粒が見え隠れした。

 キラキラと発光し、光の帯を四方へと放っている。

 城だ。

 インビジブル・キングダム・キャッスル。

 不可視の王国城。

 ダークグラウンドの一版図だ。

 ここに居を構えている奴らは一風変わっていて、まあ、行ってみれば、わかる。

 漂って、流れ着いて、城門の前まで来たところで、声が響く。

「汝、もたざらるや?」

「我、持ちしものなり」

「然り、然り。試すがよい」

 心に一気に負荷がかかる。

 身体中を舐られる、嫌悪この上ない感覚。

 弄っているようでもあり、より分けられているようでもあり。

 慣れないものだが、慣れるほど来てもいない。

 今回は運がいいのだ、この建造物はいつもいつも時と場所を変えて偏在している異次元の規格外の城なのだから。

 ひとしきり終えたのか、離れていく感覚と、門扉がゆっくりと開いてゆく。

 外界とすっぱり切り離された空間特有の、シャッキリした夜気のような空気を吸い込んだ。

 身体の一細胞までがうち震えて活性化し、無限に入り込んだ幻想を見せた。

 いにしえの吸引法で鎮めなければいけないほどの引っ張られようだ。

 身体に降り積もってきた今までの情報の重みから、ややもするとぬるっと脱ぎ捨てて遥か上方へと飛び立とうとしそうだった。

 まくしたてて並べ立てたが、忘れがたくなる体感なのだ。

 ややもすると別宇宙に足を踏み入れたかも知れない錯覚にも陥るのだ、ここでのはアセンションなのかもしれない。

 和らげな曙光が差し込むゴシックな大回廊を通る。

 辿り着いた先は、めいめいがひしめいている仮面舞踏会会場だった。

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