第107話 アーカンソーに関する報告書(パルサ著・およびメイド長返信)

 メイド長

 ラスキー・シェラール様 宛


 ご機嫌麗きげんうるわしゅう。

 お喋り係のパルサ・ミラーズです。


 アーカンソーの調査に関する途中経過を報告させていただきます。


 可能な限り客観的な情報を集めてまいりましたが、当方の未熟さゆえに多少の憶測が混ざります。


 何卒ご容赦ください。




●その1.アーカンソー概略


 黒髪黒衣の男性。

 自称年齢は十八歳。

 冒険者クラスは賢者。


 彼はおよそ一年前から『はじまりの旅団』で冒険者として活動を開始しています。

(先任のチェルム・ダークレアの証言とも合致します)


 アーカンソーを語る上で外すことができないのは異常なまでの戦果です。


 彼は冒険者としての最初の戦いでオーガロード率いる数百体のオーガの群れを指を鳴らしただけで残らず殲滅。

 鮮烈なデビューを飾っています。


 その後も数多くの超難易度ダンジョンを攻略。

 有力な犯罪者のマンハントや、モンスターパレード鎮圧などの実績を残しています。


 当初はこれらの戦果に懐疑的な者が多かったとのことですが、現在は誰一人としてアーカンソーの実力を疑う者はいません。


 現在は正体不明の国家英雄として称えられています。

(彼の正体が不明とされている点に関しては後述します)



●その2.エルメシア王国の現状について


 アーカンソーが輝かしい戦果を残せた最大の理由は、エルメシア王国が陥っていた危機的状況が背景にあります。


 結論から申し上げます。

 アーカンソーがいなければ、エルメシア王国は滅びていました。


 ここ一年、周辺で発生しているダンジョンの数はあきらかに異常です。

 数もさることながら難易度もかつての記録からはかけ離れています。


 神話で語られていた龍皇ダンジョンが二つも出現する状況は、歴史書のどこをひっくり返しても前例がありませんでした。

(ちなみにエルメシア王国の人々はアーカンソーがあまりに簡単に攻略したので「そんなものなのかな?」ぐらいに思っているフシがあり、現状への認識はかなり楽観的です)


 アーカンソーが現れたのは本当に偶然なのでしょうか?

 正直な話、何らかの作為があったのではないかと思えます。


 また、エルメシア王国はアーカンソーの正体をひた隠しにしています。


 あれだけの戦果をあげているアーカンソーを民衆にお披露目しないのは、どう考えても不自然です。

(はじまりの旅団のカルン、セイエレム、シエリの三名は凱旋パレードに参加しているのに……)


 おそらくエルメシア王国はアーカンソーの正体について、何か知っていると思います。

 王国に仕えるチェルム・ダークレアから何か報告はあがっておりますでしょうか?


 可能な範囲で結構ですので、情報を開示していただけると助かります。



 追伸


 旧知のシルバース姉妹との接触は今後も控えたほうがよろしいでしょうか?


 もしよろしければ、変身を解いた状態での再会を許可していただけると幸いです。



 ◇ ◇ ◇



 お喋り係

 パルサ・ミラーズ 宛



 お勤めご苦労様。

 メイド長のラスキー・シェラールです。


 まず、今後はあの御方の名を記す際に必ず敬称をつけるようになさい。

 アーカンソー様は我らのような竜侍従ごときが呼び捨てにして良い殿方ではありません。


 さて、本題です。

 まずはこれまでのお勤め改めてご苦労様でした。

 貴女の報告はとても参考になっています。


 次に要望に関してですが、チェルム・ダークレアの任務について貴女が知る必要はありません。

 そして、シルバース姉妹との接触は調査に必要なら構いませんが、変身を解くことは許可できません。


 万が一、正体がバレたときには貴女の任を解かなくてはならなくなります。

 貴女に過失があると認められた場合はもちろん追放刑になります。

 自由を求める貴女にはご褒美かもしれませんが、それ相応の制約の呪いを覚悟してもらうことになります。


 ですので、引き続き慎重にアーカンソー様の調査を継続するように。


 とはいえ、我らの秘密主義が貴女のモチベーションを下げるのは本意ではありません。

 ですから、これだけは申し添えておきましょう。


 アーカンソー様は我ら奉仕竜族サービス・ドラゴンが求めてやまない『真主様しんしゅさま』であらせられる可能性が極めて高いです。


 あの御方は、わたくしの最上級呪術を解きました。

 ウィスリー・シルバースにかけた(状況を鑑みると『かけてしまった』と言うべきかもしれませんが)制約の呪いは、普通の神官には決して解けないはずでした。


 あの御方が王選候補者メールシア・エルメリク・レ・サージョ以上の優先調査対象となったのはそのためです。

 そもそもエルメシア王国の王選を代々支援してきたのも、すべては王選候補者の中から『真主様』を見つけ出して我らの屋敷にお迎えするため。

 我らのご奉仕活動はすべてひとつの線で繋がっているのです。


 一族の悲願を果たすためには貴女の力が必要です。

 『真主様』の名を聞いて貴女の子宮もうずくことと思います。

 どうか気を引き締めて自らの役割を勤めあげなさい。



 追伸


 貴女から計上された経費ですが、食費が高すぎるとお会計係から苦情が来ています。

 貴女の変身を維持するためにエネルギーを消費するのは理解していますが、我らの体はいずれお仕えするご主人様のもの。体型の維持は義務です。


 以後の暴飲暴食は控えるように。

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