第21話 二度目の追放(?)

「オーラが消えたのって、回転刃ソーがボスを倒しちゃったからなんだね」

「いや、馬鹿な! 有り得ない! 回転刃ソーに瞬殺されるボスなんて未だかつて遭遇したことがないぞ!!」


 回転刃ソーは敵を倒すというより体力や魔力リソースを削るためのものだ。


 ましてやボスを倒せるほどの戦闘力など持たせてないはずなのだが……! 


「だけど、そう考えるしかなくない?」

「ううっ、それはそうなのだが……」


 結局どんなモンスターだったのか、わからず終いだった。

 独自の素材が出なかったし、他のボスも落とすような魔石から正体を類推するのは不可能だ。


「いや、今のはただの雑魚モンスターだったのかもしれない。そもそもボスが七階層にいるというのがおかしかった」

「でも、今までの雑魚モンスターは群れてたし……単体だったからご主人さまもボスだと思ったんだよね?」

「それはそうだが……いや! ボスならこの先のエリアにコアがあるはずだ。もしなければ、やはり例外的に強いモンスターだったということになる!」


 俺たちは先に進んだ。

 奥の部屋には光り輝く球体が浮いていた。


「コアあったね」

「コアあったな」

「ボスだったね」

「ボスだったな」


 ここに至って俺はようやく現実を受け入れた。


「あちしが壊してみてもいい?」

「ああ、いいぞ。た感じ、爆発したりする仕掛けはなさそうだからな」

「あーい! じゃあ……せーのっ!」


 ウィスリーが振るったグレートソードが、コアを真っ二つに両断した。


 それと同時に周囲の景色が崩れてゆき――

 


 ◇ ◇ ◇



 気が付くと、俺たちは外にいた。

 岩肌にあったダンジョンの入り口はきれいさっぱりなくなっている。


「……あぁん? 何が起きたぁ?」

「……ここは外かの?」

「……アーカンソー氏とウィスリー女史もいるんだぜ?」


 イッチーたちもすぐ傍にいた。

 ということは……。


「ダンジョンの中にはいたんだな。いったいどこで何をしていたんだ?」


 俺の質問に三人組が顔を見合わせた。


「そりゃもちろん、三階層のあたりをウロウロとしてたさぁ」

「そろそろ適当に引き返すつもりだったがの」

「いつも通りに魔石と素材だけ稼いで出るつもりだったんだぜ」

「……ダンジョンはクリアを目指して潜るものでは?」


 俺の認識を耳にした三人組はびっくり仰天した。

 イッチーが首をぶんぶん横に振る。


「クリアだなんてとんでもねぇ! 俺たちはいつもここでテキトーに稼いでただけだよ!」


「それでいつまで経っても下層に来なかったのか……」


 思わず呆れていると、ニーレンとサンゲルも言い訳を始める。


「ワシらじゃ四階層から先はきついしの……というか、誰かがダンジョンをクリアすると中にいるワシらも地上に戻るとは驚きだの!」

「それすら知らなかったのか!?」

「最底辺の十三支部にダンジョンを真面目にクリアする冒険者なんてひとりもいないんだぜ」

「う、嘘だろう……?」


 な、なんということだ。

 同じ冒険者同士でここまで考え方が違うとは想像だにしなかった。


「というか、四階層できついだと? 俺とウィスリーはこれといった障害もなくボスのいる七階層まで辿り着いたぞ?」


 何気ない疑問を口にしただけだったが、三人組はすべてに納得したように頷いた後、一斉にため息をついた。


「なるほどなぁ。これが差ってぇやつか」

「やはりワシらでは役者不足かの」

「はっきり言われると結構ショックなんだぜ」

「な、なんだ? 俺は何かまずいことを言ったのか? まさか人の心がなかったか!?」


 俺が慌てる様子を見て三人組が苦笑した。


「実力差は最初からわかってたことだし、そこまで気にしちゃいないさ。でもまぁ、ひとつだけはっきりしたことがある」


 イッチーが肩をすくめながら、まるですべての真理を悟ったかのような表情を浮かべる。


「……それはいったい?」


 思わず身を乗り出す俺に対し、イッチーはニカッと笑ってこう言った。


「俺たちなんかじゃ、アンタのパーティメンバーには相応しくないってこった!」

「ま、待ってくれ。それはつまり――」


 イッチーが気の毒そうに俺の肩をポンと叩く。


「あいにく俺たちとアンタのパーティは今日限り解散ってこったな!」

「ぐはぁっ!」


 ショックのあまり両足から崩れそうになってしまった。


「ご主人さまっ!」


 すぐさまウィスリーが支えてくれる。

 なんとか倒れないように踏ん張りながら、俺は三人組に未練がましく手を伸ばした。

 

「ま、待ってくれ。俺に問題があるなら修正するよう努力する。だからパーティ解散だけは――」

「いやぁ、そいつは無理な相談だなぁ」

「どう足掻いてもワシらが足手まといになるからの」

「俺たちなんかじゃアーカンソー氏とウィスリー女史にはついていけないんだぜ」


 あまりに無慈悲な宣告を食らい、俺は喉奥からこみ上げるものをこらえきれなくなった。


「がふっ」


 吐血する。


「ご主人さまーっ!?」


 ウィスリーの叫び声を遠くに聞きながら、俺は意識を手放すのだった……。



◆◆◆



 作者より



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