第19話 ウィスリー無双

「む? しかし露払いが……」

「いやいや、さっきもそう言ってモンスターを全滅させちまったじゃないか。それにほら、ウィスリーちゃんも暇そうにしてるしよぉ……?」


「ふわぁ……」


 言われてみればウィスリーがおねむなのか、小さくあくびをしていた。


「な? な? そういうことだから魔力を節約しててくれよぉ」

「ふーむ」


 このぐらいなら魔力を使ったうちに入らないのだが、せっかくだからお言葉に甘えるとするか。


「ならば俺は手を出さないでおくが、今回はモンスターの数が多い。オーラの強度からしてゴブリンだろうが、油断はするなよ」

「任しとけ! よし、いよいよ出番だぞおめぇら!」

「ようやくワシらの腕が振るえるというわけだの!」

「ゴブリンぐらい楽勝なんだぜ!」


 三人組が気合を入れながら武器を構えた。


「まあ待て。念のために支援魔法バフをかけておこう。範囲全能力増強マス・フル・ポテンシャル


 ウィスリーも含めて全員の基礎能力を向上させる。


「おおぉっ、こいつはすげぇ! 力が湧いてくるぅ!」

「これがアーカンソー殿の支援魔法バフの威力というものかの!」

「会話の流れでサラッとすごい魔法をかけられたんだぜ!」

「いやっふー! あちしは無敵だー!」


 一気にテンションが上がった四人は一目散に突撃していった。


 罠がないとわかっているとはいえ、そんな迂闊に踏み込んでいくのか?

 相手が待ち伏せしていないとも限らないのに。


「仕方ない。俺も走るか」


 加速ヘイストの魔法を使用してから追いかける。

 イッチーたち三人は問題なく追い越せたが、一団にウィスリーの姿がない。

 剣闘士のクラス補正でスピードが速くなっているから突出してしまったようだ。


「ウィスリー!」


 三人を追い越してモンスターが蔓延はびこるエリアに到達すると――


「うぉーらっしゃー!!」


 ウィスリーが女子にあるまじき雄たけびをあげながら、自分の身長の二倍ほどもあるグレートソードを振るっていた。


 ゴブリンの一匹が不意打ちに対応できず両断される。


 凄まじい剣圧が発生し、吹き飛ばされた他のゴブリンたちも壁や天井に叩きつけられて魔石と化した。


「おりゃおりゃおりゃーっ!」


 ウィスリーが裂帛れっぱくの気合とともに遠心力を利用してクルクルと回転しながらゴブリンどもを叩き斬っていく。


 グレートソードの重心操作も完璧だ。

 初めて扱うとは思えない。


 剣を振るっていうというより、剣の刃を中心にウィスリー自身が舞い踊っているようにさえ見えた。


「……天才か?」


 一目見ただけで援護は不要と悟る。


 案の定ウィスリーはゴブリンどもにロクな反撃も許さず、瞬く間に全滅させてしまった。


 このエリアには残っているのは「ふぅ~」と額の汗を拭うウィスリーと、ゴブリンが落とした魔石と素材のみ。


「やったー! ご主人さまご主人さま、あちしモンスター倒せたよー!」

「すごいな。一人で十六匹ものゴブリンを全滅させるとは、さすがだ」


 チンピラどもと戦ったときもそうだったが、ウィスリーの身体能力の高さには疑いの余地がない。

 竜人族というのは皆こうなのだろうか。


「ご主人さまの魔法のおかげで体が軽かったよ! ゴブリンの次の動きも読めたし、すっごく戦いやすかった!」

「そうかそうか」


 ウィスリーが撫でてほしそうに頭頂部を見せてきたので、望みをかなえてやることにした。


「にへへへへへー」


 いつものように表情がにへらっ、と崩れる。


 ウィスリーの原動力は俺に褒めてもらうことのようだな。

 この調子でたくさん褒めて伸ばすとしよう。


「お、俺らの分は……」

「残ってないみたいだの……」

「なんだかどっと疲れたんだぜ……」


 追いついた三人が互いの背を預けて座り込んでしまった。

 戦っていないはずなのに、まるで満身創痍だ。


治療ヒールいるか?」


 念のために確認したら物凄い形相で睨まれた。


 いったい俺が何をしたというんだ……。

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