第14話 無双その2(前編)
治安の悪そうな路地裏を進んで、ピケルから教わった場所へと向かう。
「ここだな」
入り組んだ道を進んでいくと、いかにも
周囲には不潔そうなチンピラどもが集まっており、ウィスリーが嫌そうに鼻を摘まんだ。
連中は俺たちを見つけるやいなや絡んでくる。
「おうおう、そんなカワイ子ちゃん連れちゃって――」
「悪いが相手をしている時間はない」
指パッチンひとつでチンピラ全員が
建物に入ろうとすると、ウィスリーが前に進み出て扉を開けようとしてくれる。
「あっ、扉は静かに開けないとだっけ」
「ウィスリー。そういうのは時と場合による」
俺がスッと手を
ロビーでくつろいでいた見張りと思しきチンピラふたりが驚いている。
「な、なんだテメェら!?」
「こんなことしてタダで済むと――」
俺が人差し指をクイッと上に向けると、チンピラふたりが浮き上がって天井に叩きつけられた。
「大人しくボスのところに案内すればそれでよし。さもないと……」
「ご主人さま。ふたりとも気絶しちゃってるよ」
「おっと、失敗失敗。次からは気を付けよう」
ウィスリーの指摘を受けて名もなき念動魔法を解除する。
床に落下するチンピラどもを尻目に、俺たちは廊下を進んだ。
「なんだ、何の騒ぎだ!?」
さきほどの音を聴きつけたチンピラどもがぞろぞろと現れる。
「ビジネスの話をしにきた」
「ふざけんな!」
「ここがブラッケンさんの事務所だと知っての――」
再び名もなき念動魔法を発動。
俺が宙空で指で摘まむような動作をすると、腕を上げるのに合わせて何か言いかけたチンピラの体が床から浮かび上がった。
苦しそうに首をおさえて
他の連中はわけもわからず慌てふためいていた。
「お友達の首を折られたくなかったらボスのところに案内しろ。二度は言わない」
チンピラたちがコクコクと頷きながら、大人しく指示に従って俺たちを先導し始める。
ウィスリーがワクワクした様子でこちらの顔を見上げてきた。
「何が起きてるかよくわかんないけど、ご主人さま強すぎ! すごすぎ! かっこよすぎ! あと怖すぎ!」
そ、そんなに怖いか。ガーンだな……。
確かに怒りで少しばかり
ちょっとクールダウンしておこう。
◇ ◇ ◇
やがて俺たちはチンピラどもを引き連れて大きな部屋に辿り着いた。
部屋の奥には豪華そうな椅子があって、そこに
「お前がボスのブラッケンか?」
「そのいで立ち……冒険者か。あとはガキのメイド。たったふたりで乗り込んでくるとは、いい度胸してるじゃねえか。気に入ったぜ」
強面の男はこちらの質問を無視して俺たちを一方的に称える。
かなり場数を踏んでいるのか、堂々とした口調だ。
「それに比べてお前らときたら情けねえ。ほれ、こういうときはなんて言うんだっけな?」
「「「「本当に申し訳ございませんでした、ブラッケンさん!!」」」」
「そうそう。上司に怒られたらとりあえず謝る。社会の基本だ」
ふむ。
チンピラどもとのやりとりを見るに、この男がブラッケン本人で間違いないだろう。
窒息直前だったチンピラを解放してやると、床に転がりながらゲホゲホと咳込んだ。
ここに案内してくれた残りのチンピラどもはそいつを看病するでもなく、ちゃっかりボスの取り巻きに合流している。
ブラッケンにも部下の容態を気にする素振りはこれっぽっちも見られない。
仲間に見捨てられるとは気の毒に。
せめてこっそり
「それで用件は?」
ブラッケンがニヤニヤしながら問いかけてくる。
ようやく本題だな。
「ピケルに鉄鉱石を返してやれ。あれがないと彼女は借金が返せない」
「ああ、お前らドワーフ女の差し金か。いやぁ、そう言われてもな? あの店にはどっちみち客なんてこねぇし、ちょっとでも担保を回収しないとこっちとしても商売が成り立たねぇからなぁ?」
不敵な笑みを浮かべながらブラッケンが肩をすくめる。
この手の駆け引きには自信ありといった感じか。
だが、俺は取引をしにきたのではない。
「それで『本当のところは』?」
ブラッケンの瞳を覗き込みながら無詠唱無動作、事前に設定しておいたキーワードのみで
「そりゃあもちろん、あのドワーフをオレ様の
「それで法外な金利で金を貸したのか。借金の証書はどこにある?」
「後ろの壁にある金庫の中だ。番号は39503714」
「鉄鉱石は?」
「裏の倉庫にたんまり積んであるぜ」
自分の優位を確信したままペラペラと秘密を喋るブラッケン。
取り巻きのチンピラたちがワケもわからず
「そうか、ありがとう。では、どちらももらっていく」
「おいおいそういうわけには……って、え? なんでオレ様は本当のことを言っちまったんだ?」
「俺はお前たちと『友人』になる気はないのでな」
冗談ではない。
ひと思いに一瞬で無力化を?
それこそまさかだ。
「ああ、そうとも。最初から交渉する気はない。お前たちはここで全員潰す」
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